男女の細やかな感情を描き、多くのファンを持つ柚木麻子さんの原作「早稲女、女、男」を『ストロベリーショートケイクス』(2005)の矢崎仁司監督が映画化。それが映画『早乙女カナコの場合は』です。大学の演劇サークルで脚本家を目指す長津田と出会い恋に落ちたカナコ。その後、彼女は大手出版社に就職するも、彼は大学を卒業する気もなく浪人生活。カナコと長津田の恋と自分の人生を見つめていく物語は、豪華なキャスト陣で彩られています。まずは主人公【早乙女カナコ】には橋本愛さんが扮し、カナコの恋人である【長津田啓士】には中川大志さん、長津田に恋をする【本田麻衣子】には山田杏奈さん、カナコの内定先の先輩【慶野亜依子】には臼田あさ美さん、亜依子の元カレでありカナコにアプローチする【吉沢洋一】を中村蒼さんが演じています。そこで今回は、臼田あさ美さんにスポットを当て、3人の女性キャラクターに対する共感部分だったり、今の自分の変化についてお話を伺います。

――ご自身が演じられた【慶野亜依子】というキャラクターについて、臼田さんご自身はどのように思われていますか。
最初脚本を読んでいた時、亜依子は人生設計について色々考えて未来の準備をしていそうな印象で、皆からも凄く慕われていて、もっと隙が無い感じの女性だと思っていたんです。それが、実際に演じてみると結構変わってしまいました。「ちゃんとしなきゃ」と思って、ちゃんとしていた人なんだと気づいて、そこに凄く揺さぶられました。だから演じていて、泣きたい気持ちになりましたし、叫びたい気持ちにもなりました。【亜依子】という人物は“そこまでしたらみっともない、そこまでしたらカッコ悪い、惨めだ”と思っているのですが、中村蒼さん演じる元カレ【吉沢洋一】と会うこの1回のチャンスによって、“何か変わるのではないか?もしかしたら【洋一】の気持ちが動くのではないか?”と思っていて、そういう人間味の部分は演じていて心が動きました。

――【亜依子】の喋り方が、いつもの臼田さんが演じられている役の時よりも、ゆっくりな印象を持ちました。
そうなんです! 喋り口調がちょっと他の皆さんと違うんです。実はあの喋り口調は、原作通りなんです。少し違和感をおぼえていたのですが、その違和感を活かそうと思っていました。それに矢崎仁司監督からの演出も「もっとたっぷりと、たっぷりとセリフを言って」というものでした。
――その喋りの速度の意図は何だったと思いますか。
揺れ動いている感じは凄くしますよね。橋本愛さんが演じる【早乙女カナコ】と一緒に飲みに行った後、お部屋 (家) のシーンになった時は、普通のスピードになるじゃないですか。その変化も面白かったです。
――確かに。【亜依子】は、言葉の確認をしながら生きている人にさえ感じました。
そういうことだと思うんです。“これを言ったらどうかな?言い過ぎたらカッコ悪いし”と思いながら、“でも、これを言ったら変わるかも”と本当に毎回、確かめながら生きている人だと思います。
――【カナコ】とは対照的なのかもしれませんね。
【カナコ】も【亜依子】も皆、それこそタイプをジャンル分けされたら絶対に交わらないし、“あんなふうになりたい”という憧れの対象でもない。もしかしたら【カナコ】は【亜依子】に対しては、少し憧れがあるのかもしれませんが、基本的にはお互いに憧れはないはずなのに、女として生きていく軸のようなものに対しては、互いにリスペクトし合っている。そんな【カナコ】と【亜依子】のシスターフッド(共通の目的をもった女性同士の連帯や親密な結びつきを示す概念)のような関係性にグッと来ます。

――本当にそうですね。橋本愛さん演じる【早乙女カナコ】、山田杏奈さん演じる【本田麻衣子】、臼田あさ美さん演じる【慶野亜依子】といった3人の女性が登場しますが、自分も同じ要素を持っていると思う部分はありますか。
そうですね‥‥、完成披露舞台挨拶で (橋本) 愛ちゃんが「【カナコ】はまるで昔の自分のよう」と言っていましたが、私も結構、昔の自分は【カナコ】に近くて、「負けない」みたいな思いがありました。若い頃は特に「言う時は言うぞ、やる時はやるぞ」と反骨精神みたいなものがあったので、【カナコ】の姿を見ていて、自分の若い頃を思い出したりもしました。
【亜依子】は、大人になってしまったので、身の振り方を自分で理解してしまっているんです。本当は“もっとこうやってもいいのに”というところをやれなかったり、自分の気持ちを抑えられたりも出来るので、その切なさが凄くわかります。【麻衣子】の、自分が好きな人【長津田啓士】の好きな人【カナコ】に近づくことが出来る、あの「絶対に私の方が勝っている」という自信、劇中、【カナコ】に近づいていくシーンは凄く好きなシーンのひとつです。私も多分【麻衣子】と同じように「あなたはあなた、私は私」というタイプなので、同じ状況になっても平気な顔で会えると思うんです。そういうところは理解出来るかも?と思いました。
――そう考えると面白いですね。
登場する全員の人物像が凄いですよね。



