結婚して 15年になるカンナは、ある日、夫の駈(かける)を事故で失ってしまう。いつしか夫婦生活はすれ違っていて、離婚話も出ていたが、思ってもいなかった突然の別れだった。ところがひょんなことから彼と出会った15年前の夏にタイムトラベルしてしまったカンナは、そこで若き日の駈と再会。40代のカンナは、まだ夫にはなっていない20代の駈と再び恋に落ちる。やがてお互いに心を通わせていくが、駈が事故死する未来を知るカンナは、なんとかその未来を変えたいと思い、行き着いた悲しい選択。わたしたちは出会わない。結婚しない。たとえ、もう二度と会えなくても──。
今を生きる人たちの心情をリアルにも洒脱に描き出し絶大な支持を得る、脚本家・坂元裕二が、『ラストマイル』『グランメゾン・パリ』(2024) の塚原あゆ子監督と組み、オリジナル劇場映画『ファーストキス 1ST KISS』を送りだす。カンナを松たか子、そしてカンナの夫、駈を松村北斗が演じる。初共演となる松と松村、そして初タッグとなる坂元と塚原が紡ぎ出す、心揺さぶるラブストーリー。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『ファーストキス 1ST KISS』の塚原あゆ子監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。
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タイムトラベルのかげで息づくミルフィーユ状の可能性
池ノ辺 今回の作品は、坂元裕二さんの企画が先にあったそうですが、初めて脚本をお読みになった感想はいかがでしたか?
塚原 坂元さんは、たくさんの素晴らしい作品をお作りになっていて、私も拝見してきました。特にドラマでの坂元節のようなものを認知してそれを楽しみに待ってらっしゃるファンも多くいらっしゃると思うので、その方々にも満足していただけるように撮らなければいけないなあと。あと、坂元さんも私もドラマからスタートしている人間なので、じゃあ2人で組んだ時、ドラマとの棲み分けとしての映画にどうチャレンジしていこうか。まずはそんなところを思いました。
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池ノ辺 だいたいは日常の、さりげない毎日を描いているわけですが、今回は大きな仕掛けとして時空を超えるというものがありました。
塚原 日常の芝居は多いですけど、この設定が特別ハードル高く感じてられたかというのは、わかりません。ただ、タイムトラベルすると、元に戻るわけですから同じ芝居が繰り返される。そのストレスを、視聴者あるいは観客にどう与えないようにするか、ということは話し合いました。同じことをすれば飽きてしまうけれど、元に戻ったスタートは、どうしても同じになりますよね。その同じ中で展開をしていかなければいけないというところは、ずいぶん考えられたんだろうなと思います。
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池ノ辺 今回の設定に、まず意味があるということですよね。
塚原 人が生きているということは、ちょうどミルフィーユ状に、可能性が無限にあるのだということ。それを言うためのタイムトラベルだと捉えました。つまり、2人の過去が、ミルフィーユ状にあって、別々の次元で同時進行している。変わらなかった過去も変わった過去も全部いっぺんに “可能性” として存在しているのだとすると、これは夫婦に限らず、仲違いしてしまった友達とか、「ありがとう」が言えなかった両親とかに対して、そうじゃない過去もそして未来も、実はミルフィーユ状に同時に存在しているのだとしたら、今、ここからやり直すのは、そう難しいことじゃないよね。そういう思いで撮りました。果たしてこれをSF的なタイムトラベルと呼ぶのかは分かりませんが、ここで描くのはそういう事だと思います。人と人とのつながり方、その可能性。一度仲違いした人でも、明日は仲良しでいる次元につながるかもしれない。それだけ人は唐突に関係性を変えられるし、それは日常と地続きの世界なんだと思うんです。
池ノ辺 確かに自分が変わった時に、相手が別人かというくらい変わることもあります。
塚原 描きたかった先は、初めのカンナと最後のカンナは別次元のカンナだとは思うけど、どちらのカンナもバッドエンドというのでもない。離婚とか結婚とかそういうものが順番に来なくても、彼らは愛し合っていましたという話なので、その辺のふわっとした世界観をまずは楽しんでもらえたらと思います。
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