Jan 22, 2025 interview

岸善幸 監督が語る 宮藤官九郎ワールドで新しいしあわせのかたちを描いた『サンセット・サンライズ』

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新型コロナのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれる中、東京の大企業に勤める釣り好きのサラリーマン・晋作は、リモートワークをきっかけに、宮城県三陸の4LDK家賃6万円の神物件に一目惚れ、“お試し移住” を開始する。ところが2週間の自主隔離を余儀なくされ、大家さんの百香とその父のお世話になることに。東京から来た“よそ者” に気が気ではない地元民だが、持ち前のポジティブな性格と行動力で、晋作はいつしか地元に溶け込み、やがて彼らの運命も変えていくーー。

東北の町・南三陸を舞台に、コロナ禍に揺れる日本、過疎化に悩む地方、そして震災の爪痕の残る中でも逞しく生きていこうとする人々を描く楡周平著サンセット・サンライズ(講談社文庫)の映画化。『あゝ、荒野』 (2017) 、『正欲』 (2023) などで高い評価を得ている岸善幸監督が、同じ東北出身の宮藤官九郎とタッグを組む。菅田将暉を主演に迎え、百香に井上真央、その父に中村雅俊など、実力派俳優たちが脇を固める。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『サンセット・サンライズ』の岸善幸監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

宮藤官九郎ワールドの骨太映画が誕生するまで

池ノ辺 まずは、『サンセット・サンライズ』の映画化の経緯について、伺いたいのですが。

岸 『あゝ、荒野』の時にプロデューサーだった佐藤順子さんから、「地方をテーマにした作品を考えています。これを読んでください」と手渡されたのが、楡周平さんの小説です。読んでみると、現代的な問題もきちんと描かれていて面白いと思いました。それが最初の印象です。その一方で、佐藤さんはすでに宮藤官九郎さんに脚本をお願いしていたんですね。それを聞いて「えっ?」となりました。

池ノ辺 その「えっ?」というのはどういう意味ですか。

 原作は確かに面白い作品ではあるんですけど、宮藤さんにお願いするということはコメディになるわけですよね。コメディにするとどうなるんだろう、宮藤さんはどこまで原作を変えるんだろう、と思っての「えっ?」でした。それで実際お会いしてプロットを作った時には、もう原作をベースに “宮藤官九郎ワールド” がドンと入ってきていて、本当にしっかりとコメディになっていました。原作も面白いし宮藤さんの脚本も面白かったので、これで行きましょうと。これはやる価値はあるなと思いました。

池ノ辺 これまでの岸監督の作品からするとコメディ作品のイメージはないのですが、「どうしようか‥‥」とならなかったんですか。

岸 正直に言えば「どうしよう」という部分は確かにありました。なので、勉強しました(笑)。勉強したといってもコメディ作品を観た、ということなんですけどね。(エルンスト・)ルビッチ監督の作品とかは好きでしたから。それと宮藤さんの作品を全部網羅するくらい観て、間(ま)とか編集の仕方を意識して研究した次第です。