2025年1月20日、ついに第2次トランプ政権が発足する。就任前から、その発言と行動が国内外を大いに騒がせているドナルド・トランプ。最もヤバい大統領と呼ばれ、怪物だと揶揄されがちな彼も生まれた時から怪物だったわけではなかった。そんなドナルド・トランプの若き日を描いた映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』が2025年1月17日(金)全国公開となる。
監督はこれまで様々な問題作を描き、そのすべてがカンヌ国際映画祭に出品され、本作もカンヌ国際コンペティション部門で高い評価を得たアリ・アッバシ。脚本は長年トランプ前大統領を取材してきた政治ジャーナリストでもあるガブリエル・シャーマン。
トランプが上映阻止に動き、大きな話題となっている本作。昨年、全米公開を迎えると、SNSでは「悪夢版『グッド・ウィル・ハンティング』だ」との声も上がった。まだ何者でもない若造と悪名高き辣腕弁護士の歪んだ師弟関係とトランプの誕生秘話という、まさに今だからこそ観るべきアメリカン・サクセスストーリー。
しかし、アリ・アッバシ監督はこう語る。
「本作は政治的でもなく、何かを教えるものでもない。あくまで映画だ」
さて、この社会派エンターテイメントに潜んでいるのは光か影か‥‥。
トランプの見習い時代
「You’re Fired!(貴様はクビだ!)」。
ドナルド・トランプの代名詞といえるこのフレーズは、2004年より放送開始されたリアリティショー「アプレンティス」で、広く知られることとなる。この番組は、将来の成功を夢見る若者たちがトランプ・タワーのオフィスに集められ、さまざまなミッションに挑み、最後まで生き残った一人がトランプの会社に採用されるという、ビジネス版イカゲームのような内容。脱落者を発表するときの決め台詞が、「You’re Fired!」だったのである。
そもそもアプレンティス(apprentice)とは、見習い、初心者、徒弟という意味。トランプは番組のオープニングで、「私はビジネスの極意を会得し、トランプという名前を価値あるブランドに変えた。この道のマスターとして、自分の知識を誰かに伝えようと思う。私は見習いを募集する!」という前口上を述べていた。要は、トランプ師匠が見習いたちをコテンパンに叩きのめす残酷ショーを、視聴者が高みの見物をする、なかなかに露悪的なプログラムだったのである。
アリ・アッバシ監督が、若き日のドナルド・トランプを主人公にした新作を「アプレンティス」と名付けたのは、リアリティショーのタイトルをそのまま使いつつも、あえて彼の立場を逆転させて描く、戯画的な戦略があったからだろう。『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』には、トランプがトランプとして完全覚醒する前の姿が映し出されている。
舞台は1973年のニューヨーク。高級クラブで、トランプは美しい女性と話し込んでいるーーー小さなボソボソ声で。実際にこの時代のインタビュー映像をチェックしてみると、現在の傍若無人ぶりが想像つかないくらいに、口調がソフトなのだ。我々がスクリーンで目撃するのは、繊細でナイーブな若者。政財界の有力者と会話をすれば迫力に圧倒され、家賃の取り立てにアパートに行けば熱湯をかけられ、酒を飲みすぎては吐いてしまう始末。
そんな彼が、ある男の出会いを契機として、世界中の誰もが知るミスター・ドナルド・トランプへと変貌を遂げていく。前半は70年代ハリウッド映画を彷彿とさせるフィルムのようなルック、後半はザラつきのあるビデオのようなルックと、覚醒前・覚醒後で映像の質感を変えているのも、心にくい計算だ。この作品は、気弱な青年がモンスターになるまでの記録なのである。