[ 設立30周年記念特集 #03 ] LiLiCo ×よしひろまさみち が「サーチライト・ピクチャーズの“過去・現在・未来”」を語る [ 未来編 ]
人々の記憶に残る数々の名作を作り続けて、アカデミー賞®作品賞に5度輝くサーチライト・ピクチャーズが、2024年で設立30周年を迎えた。
20世紀フォックスが立ち上げ、今はディズニーの傘下となったサーチライト・ピクチャーズのこれまでを振り返り、その価値、強み、心に残る作品たち、さらにこれからのサーチライト・ピクチャーズに寄せる期待を、映画コメンテーター のLiLiCo、映画ライターのよしひろまさみちの両氏に語っていただきました。
期待が高まるサーチライトの最新作
――これからの公開予定作品について、お二人はどう思われていますか。
よしひろ 『リアル・ペイン〜心の旅』(日本公開:2025年1月31日) はいいですよ。
LiLiCo ヨッシーがそういうと観に行きたくなる。
よしひろ やめてくださいよ、同業者なのに(笑)。この映画は、ジェシー・アイゼンバーグが監督・脚本・主演を務めた作品です。彼が初めて監督をしたこの前の作品、『僕らの世界が交わるまで』(2022)がすごく良くて、インタビューさせてもらったんですけど、その時に、次の作品はもう決まっていて、主演で、監督、脚本もやると聞いていたんです。『僕らの世界が交わるまで』の出来が素晴らしかったから、次のテーマはなにかと思ったら‥‥。まさかの、ホロコースト。姐さん、この題材が苦手なのは分かっておりますが‥‥軽々しくは扱えないこの題材を軽やかに描いていて驚きました。すごくよくできている。特にアイゼンバーグとキーラン・カルキンの会話劇がとてつもなく独創的で軽快。この脚本は少なくともオスカーのノミネーションはいくと思います。
LiLiCo 正直なところホロコーストものは苦手なんだけれど、予告編を見たり今の話を聞いたりしてると、観てみようかなと思う。
――『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(日本公開:2025年2月28日)もすでにご覧になったそうですね。
よしひろ 主演のティモシー・シャラメがディランそっくりさん演技でびっくりでした。てっきりいつものシャラメっぽく、明朗快活な青年ディランでくるのかと思ったら、喋り方から全部ディランなんです。
LiLiCo あの人ってアイドル的な感じに思われるけど‥‥。
よしひろ そう、でも違った。
LiLiCo 「ちゃんと感じて生きている」。自分のアイドルっぽいところにあんまり興味がなくて、本当に演技が好きな人という感じですよね。
『リアル・ペイン〜心の旅』
――作品選びからしてそうですね。
よしひろ 自分の売り方を本当によく知っている、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(2023)で来日した時にも、SNSチームがずっと帯同してたんですよ。ここまでやっているから彼のSNSって面白いし、映画にあまりなじみのない層にも注目されるんだと思いました。それに、出演作それぞれ、全く違うタイプの役に挑戦していて、キャラクター俳優にはならない。これは確実に賞レースに入ってきますね。
LiLiCo ジョニー・デップみたいな、アイドル的だけれど演技は上手いというのはこれまでもありましたけど、彼はそれともちょっと違うんですよね。
よしひろ やはり新しい世代なのかなと。自分が有名になりたいからやっているという俳優は昔は結構いたけれど、そういう人はだんだん減ってきていて、彼いい意味で役者の業界はクリーンになってきてると思うんです。会うまでは彼は有名欲先行型なのかな、と思ったら全然そうじゃない。本当に芝居をやりたいからやってるから、実力に下支えされてますよね。
LiLiCo それでいてインタビューもちゃんと受ける。演技大好きだけどインタビューはダメ、全然喋らないという人はいますけどね。
よしひろ 彼はすごく機嫌良くこちらの質問にも答えてくれる。
LiLiCo 素晴らしい人だよね。
――最近のインタビューで知ったんですけど、彼は『メイズ・ランナー』(2014〜)や『ダイバージェント』(2014〜)のオーディションを受けて落ちているらしんです。
よしひろ いわゆるアイドル映画ですよね。そりゃ落とすよ(笑)。私が審査側だったら、お前はここにいるような人じゃないといって帰しちゃう。
――悪い噂は何も聞かないですね。
よしひろ インタビューで、「あなたって、かっこよくって芝居も上手くって、天は二物も三物もあなたに与えているのね」と言ったら「ありがとう」って素直に(笑)。すごく素直で正直、自分の持っているものをよく知っている。
LiLiCo かわいい(笑)。
よしひろ まあ、彼が「いやいやそんな」と言ったら嫌味になりますからね(笑)。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
これからのサーチライトに期待すること
――これはもう個人的な無茶振りでもなんでもいいので、サーチライトに期待すること、要望などを聞かせてください。
LiLiCo 私はサーチライトのオリジナル作品に出たいです。
――それは今後、何かでチャンスがありそうですね。
よしひろ ブレンダン・フレイザー主演で撮影が終わっている『Rental Family(原題)』(日本公開:2025年)みたいなものが実現しているなら、題材さえ良ければ日本でのロケとか日本在住の役者の起用だって考えてくれるはずじゃないですか。
LiLiCo かつ、日本よりも海外の監督の方が、LiLiCoの既成のイメージがないから面白いかなと思う。今まではどうしてもLiLiCoというキャラクターがあってのキャスティングでしたから。
その点、ディズニープラスの「季節のない街」のクドカン(宮藤官九郎監督)は、私の素を見ていて、すっぴんが違うというのを分かった上でキャスティングしているからそういうのがいいですね。まあ、実現は3年後くらいかな。今、映画を紹介する人として、何が楽しみってこれからもサーチライトの作品を紹介していけることです。おばあちゃんになっても「あら、次のサーチライトの新作来たわね」と(笑)。
よしひろ 「新作来たわね、今回は誰が撮ったのかしら」と(笑)。
LiLiCo そうなのよ。「王様のブランチ」が番組としてある限り、「映画はLiLiCoさんです」とプロデューサーから言われているので、そこは覚悟を決めています。多分60歳になってもそこにいると思う。サーチライトは30年、「王様のブランチ」は23年。ちょっと遅れたけど、結構リアルタイムでも観てきたと思う。それはいいよね。まあ、60歳になったらこうはいかないかもだけど。
よしひろ そうはい言いつつも、変わらないでしょ〜(笑)。
LiLiCo 何が楽しいって、一緒に、共に成長できるというのはいいですよね。あとは、映画もむしろ撮影には大変な、向かないような国にロケに行ったりして、そこが潤うとか。あるいは、シャラメのようなスーパースターもいいけれど、街角でスカウトして、その時限りで演技してもらうとか、そういう遊び心も欲しいですね。サーチライトだったらそういうこともできるような気がする。
よしひろ 最初にも話が出ましたが、大きなスタジオはどんな無茶な企画でも実現できる力を持っているんだけれど、その一翼でもあるサーチライトってすごく特殊。なのにこれだけ長いこと続けてこられた。その価値は高いですよね。そして姐さんも言っていたように、我々のキャリアと設立のタイミングが近いということもあって、サーチライトのキャリアの伴走者になったような気がしている。だからこそ、これからもずっとお供させていただければありがたいなと思っています。私たちが仕事を始めた時、もうすでに多くのクラシック映画の作品があって、これを全部観なきゃ、追いつこう追いつこうと思ってやってきたわけですけど、サーチライトに関しては、ほぼ最初の頃から観ていますからね。そこは私たちの強みでもある。
LiLiCo 今は、特に日本はそうですが、いい脚本がなくて泣いている状態。だから漫画を原作にしたり、リメイクやオマージュが多くなっています。
よしひろ 良質で映像化されるオリジナルの脚本がなかなかないですよね。そんな中で、サーチライトは監督や脚本家でも俳優でも、どこかで賞を獲った人ではなくて、これから売り出していこうというようなクリエイターたちを積極的に使ってくれています。それはとても大事なことだと思う。実は私には、自分の棺桶に入れてほしいDVDのリストがあって、これまでは、『ヘアスプレー』(2007)と『ブロークバック・マウンテン』(2005)だったの。でも最近は、『ブロークバック・マウンテン』は外して『異人たち』と『ヘアスプレー』にしてもらおうかしらと思っているところです(笑)。ここ近年のサーチライト作品は、以前よりちょっと規模の大きな作品が製作されているけれど、31年目を迎えるにあたっては、原点回帰してほしいとも思ってます。それこそ『異人たち』は一部では人気も知名度もあったアンドリュー・ヘイ監督を起用して「さすがサーチライト」と思ったけど、若手にももっとチャンスが与えられるべき。そうやって、若くて生きのいいクリエイターたちが出てくると、他のスタジオとのバランスが取れて、より個性の際立ったスタジオになるんじゃないかと思います。楽しみです。
取材 / otocoto編集部
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
プロフィール
1970年スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日、1989年から芸能活動スタート。TBS「王様のブランチ」に映画コメンテーターとして出演、J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」など出演番組も多数。アニメ「サウスパーク」日本語吹き替え版では声優としてカートマン役を担当、ほかナレーション、俳優などマルチに活躍。ファッションにも意欲的に取り組み、服やジュエリーのデザイン、プロデュースも手掛ける。
1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『an・an』『スクリーン』、『with』『ぴあ』など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。『加藤浩次とよしひろのサンデーシネマ』や『THE TRAD』『PAO〜N』など、テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。
映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』
ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドとベンジーは、亡くなった最愛の祖母の遺言で、ポーランドのアウシュビッツまでのツアー旅行に参加する。従兄弟同士でありながら正反対の性格な2人は、時に騒動を起こしながらも、ツアーに参加したユニークな人々との交流、そして祖母に縁あるポーランドの地を巡る中で、40代を迎えた彼ら自身の“生きるシンドさ”に向き合う力を得ていく。
監督:ジェシー・アイゼンバーグ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、キーラン・カルキン、ウィル・シャープ、ジェニファー・グレイ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
2025年1月31日(金) 全国公開
公式サイト searchlightpictures
映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
60年代初頭、後世に大きな影響を与えたニューヨークの音楽シーンを舞台に、19歳だったミネソタ出身の1人の無名ミュージシャン、ボブ・ディランが、時代の寵児としてスターダムを駆け上がり、世界的なセンセーションを巻き起こしていく様子が描かれる。
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック、ダン・フォグラー、ノーバート・レオ・バッツ、スクート・マクネイリー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2024 Searchlight Pictures.
2025年2月28日(金) 全国公開