Jun 23, 2017 column

関ジャニ∞安田章大主演の舞台『俺節』東京公演レビュー

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東京、赤坂ACT シアターを感動で震わせた舞台『俺節』(関ジャニ∞安田章大主演)の大阪公演が、6月24日(土)からはじまります。歌手を目指して東北から上京した若者が、社会に揉まれ、ボロボロになりながらも、愛と歌で生き抜いていく姿を描く、ひたすら人情で押し切った、あまりにも人間くさい作品は、清々しいまでに胸を打ちます。その東京公演のレビューを、ネタバレに配慮してお届けします。

 

熱くて濃密な舞台だった。

『俺節』は、ドラマ化もされた『編集王』などの代表作をもち、43歳という若さで亡くなった漫画家・土田世紀の人気作のひとつ。雪深い青森から演歌歌手を目指して東京に出てきた主人公・コージこと海鹿耕治(安田章大)。憧れの大物演歌歌手・北野波平(西岡德馬)に弟子入りしようとするも、あがり症のため、いざとなるとうまく歌えず、相手にされない。

北野の元弟子でギター弾きのオキナワ(福士誠治)に連れられて、貧乏人の吹き溜まりのような場所・みれん横丁で生活するようになったコージは、ある時、不法滞在のストリッパー・テレサ(シャーロット・ケイト・フォックス)と出会い、恋をする。やがて、オキナワと組んでデビューできそうな話が舞い込み、ようやく運が向いてきたかと思いきや……。
故郷にも仲間にも恋人にも想いはあれど、厳しい社会に翻弄され、その軋轢の中で、疲弊していくばかり。そんな生活の中で、コージは歌を歌い続けるしかない。

1幕、2幕、約3時間半(途中休憩あり)の大作で、2幕は2時間近くある。
よく噛み砕かれた脚本と演出と演技と、人生を歌った名曲の(ヒット演歌多数となつかしのアニメ主題歌やオリジナルの『俺節』など21曲)によって、全く疲れることなく、最後まで前のめりで観た。(もちろん気持ちだけ。観劇マナーとして前のめりは禁止されています)

 

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驚くべきは、最初から最後まで、とことん“人間”ドラマで押し切っていたことだ。それも、社会の底辺で生きる、スターにもヒーローにもなれない地味な人間たちの姿を、である。プログラムで演出を担当する福原充則と対談している古田新太が、土田世紀の漫画を「〜努力しても報われねえって、すげえ!と思って」と讃えている言葉が印象的で、まさにその通りなのだが、そんな人たちの姿を丁寧に誠実に描いて(歌があるとはいえ)、少しもどんよりしない、観終わったときむしろ元気になる作品だ。

前半のメイン舞台は、コージが転がり込む横丁。『深夜食堂』のような小さな店舗が集まっている路地裏で、看板の名前を観るのも楽しい。東京公演はTBSが主催だからか、中華料理店・幸楽(「渡る世間は鬼ばかり」)の名前もさりげなくあった。深爪という店は、『俺節』と同じ小学館の雑誌で連載されていた『深夜食堂』の映画『続・深夜食堂』(16年)で登場した看板にもあったっけ(美術:二村周作)などとひとしきり楽しめる。

この横丁をはじめとして、演歌歌手、スナック、風俗店、狭いアパート……とザッツ昭和感満載ではあるが、コージをはじめ、登場人物の姿は、決して他人事ではない。大なり小なり、誰もが社会の中で生きていてぶつかる体験だ。主人公のコージは、青森の貧しい家に生まれ育ち、故郷に出てくるとき、祖母(高田聖子)が買ってくれたスーツをずっと着続ける。彼にとってそのジャケットは原点だ。

恋人のテレサは、外国から出稼ぎに来ていて、仲間の女性たち共々、劣悪な労働環境のもとで半ばあきらめながら生きている。相方のオキナワは、フラフラとその日暮らしをするうちに、チンピラの手先となって非合法なことに手を出してしまう。アイドル時代は人気があったが、いまや、商店街の仕事くらいしかなくなってしまった中年歌手の寺泊行代(高田聖子)。その歌手をなんとか売ろうとあの手この手を尽くす弱小事務所の社長(中村まこと)……といろいろな人の人生が描かれる。