Jun 07, 2024 column

『チャレンジャーズ』ゲームを支配する愛の行方

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『君の名前で僕を呼んで』『ボーンズ アンド オール』などを手掛け、全世界から注目を集める奇才ルカ・グァダニーノ監督が手がけた最新作『チャレンジャーズ』が5月7日公開される。

本作はテニスの世界を舞台に、2人の男を同時に愛するテニス界の元スター選手と、彼女の虜になった親友同士の若きテニスプレイヤーの10年以上の長きに渡る愛の物語。

主演兼プロデューサーを務めたのは『スパイダーマン』シリーズ、『デューン 砂の惑星』シリーズのゼンデイヤ。テニス界の元トッププレーヤー、タシ・ダンカンを演じる。共演は、Netflixドラマシリーズ「ザ・クラウン」でゴールデングローブ賞を受賞したジョシュ・オコナーと、スティーブン・スピルバーグ監督作『ウエスト・サイド・ストーリー』で、英国アカデミー賞にノミネートされた経験を持つマイク・フェイスト。

数々の異なる才能が集結した本作は、どんな形を織りなしているのか?
『チャレンジャーズ』の魅力に迫るとともにルカ・グァダニーノの映画術について紐解きたい。

正真正銘のトライアングル・ムービー

それが二等辺三角形にせよ、正三角形にせよ、その向きによって三角形は様々な表情をみせる。同一直線上にない三点を結んだ、特異な図形。ひとつの頂点がふたつの角を従えていることもあるし、ふたつの頂点がひとつの角を見下ろしていることもあるし、不均衡でバラバラに配置されていることもある。

圧倒的な美貌と実力を兼ね備えたテニス界のライジング・スター、タシ(ゼンデイヤ)。幼馴染みのパトリック(ジョシュ・オコナー)とアート(マイク・ファイスト)。ルカ・グァダニーノ監督の最新作『チャレンジャーズ』(2024)は、1人の女性+2人の男性が織りなす三角形が、シークエンスが変わるたび次々とかたちを変えていく、究極のトライアングル・ムービーである。

三角形の均衡は、3人の関係性によって決定される。映画の序盤で、タシはまさに「テニスとはRELATIONSHIP(関係性)である」と断言しているくらいだ。もしくは、支配をめぐる物語と言い換えてもいい。

映画冒頭、美と愛と性の女神アフロディーテのように、タシはパトリックとアートの双方の心を奪い、狂わせ、誘惑し、支配する。

やがてパトリックはタシと付き合うようになり、アートは激しく嫉妬にかられる。だがその交際は長く続かず、試合中のアクシデントで選手生命を絶たれたタシは、アートから専属コーチに誘われてそれを受け入れる。
2人は結婚し、アートはグランドスラム目前のトッププレイヤーに成長。パトリックとのキャリアの差は歴然なものに。久々に彼らの前に姿を現したパトリックはタシの本心を見抜き、こともあろうか彼女にコーチを打診する。

このように、当初タシが男たちを支配していたが、パトリックがタシとの交際でアートを支配。かと思えば、アートは現役引退したタシを、彼女と結婚し実績を積みパトリックを支配するようになる。だが、時が流れパトリックはタシの胸中を図り彼女を支配するターンとなる。

まるでテニスの試合のように、主導権がころころと移り変わる。相手に1ポイントも与えずに奪ったゲームのことをテニスではラブゲームと呼ぶが、まさしくタシ、パトリック、アートの3人は、ポイントを与える隙を与えない圧倒的勝利を目指して、愛の攻防‥‥ラブゲームを繰り広げるのだ。

アートがイメージキャラクターとして起用された自動車メーカーの広告で、タシが「GAME CHANGER」というコピーを「GAME CHANGERS」と複数形に変えるように指示したのは、妻でありコーチでもある自分もチームの一員だという、強烈な自負によるものだろう。彼女は夫が主導権を握ることを拒否し、イーブンな関係のパワーカップルであることを誇示する。

いや、むしろタシは自分に主導権があると誇示したいのかもしれない。アートの「I Love You」という囁きに、彼女は「I Know」と答える。それは、レイア姫の「I Love You」という愛の告白にハン・ソロが「I Know」と返す『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980)をなぞっているかのよう。当然と言わんばかりの態度で、彼女は夫の言葉を受け止める。

ちなみにアート、タシ、パトリックのファーストネームを頭文字にすると、ATP(Association of Tennis Professionals)−−男子プロテニス協会の略となる。アートとパトリックによる男子テニスの試合に、彼女も参戦しているのだ。RELATIONSHIPが複雑に絡み合う、三つ巴の戦い。正真正銘のトライアングル・ムービー。『ソーシャル・ネットワーク』(2010)、『ソウルフル・ワールド』(2020)で2度アカデミー賞を受賞したトレント・レズナーとアッティカス・ロスが奏でる90年代的EDMが、そんな欲望渦巻くゲームをアッパーに彩っていく。