ロッテルダム国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭へ正式出品され、草野なつか監督作品、映画『王国(あるいはその家について)』の劇場公開が決定。あわせて、本作の予告映像とメインビジュアル、草野なつか監督と映画監督の濱口竜介からのコメントも公開された。
長編映画初監督作品『螺旋銀河』(2014)で第11回SKIPシティDシネマ映画祭にてSKIPシティアワードと観客賞のW受賞を果たした草野なつか監督。
そんな草野監督による長編第2作で、2016年度愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品として製作された本作は、2017年に64分版が発表され、以降、再編集を施された150分版は、第11回恵比寿映像祭や新文芸坐、三鷹SCOOLなどや映画配信サービスMUBIでの限定配信のみでしか観ることができなかった。
今回、オムニバス映画「広島を上演する」の1編である最新作『夢の涯てまで』がマルセイユ国際映画祭2023でのワールドプレミアに続き第24回東京フィルメックス メイド・イン・ジャパン部門へ選出されたことを記念し、本作が劇場公開される。
再編集版は英国映画協会(BFI)がリスト化した「1925~2019年、それぞれの年の優れた日本映画」では、19年を代表する1本として選出されている。
脚本を務めるのは、草野監督の『螺旋銀河』に共同脚本として参加し、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』、公開中の冨永昌敬監督『白鍵と黒鍵の間に』の脚本にも名を連ねる、高橋知由。出演者には澁谷麻美、笠島智、足立智充ら実力派俳優が揃う。
今回の本作公開決定を受け、草野なつか監督から、約7年前の制作時から現在を振り返りって、当時、そしていまの想いを綴ったコメントが到着。映画監督の濱口竜介もコメントを寄せた。
また、この度公開された予告映像を手掛けたのは、第73回カンヌ国際映画祭批評家週間短編部門に正式出品された『とてつもなく大きな』や『とおぼえ』で国内外でも高い評価を得る川添彩。
【コメント】
▼草野なつか監督
『王国(あるいはその家について)』を撮影したのは2017年の年明けだった。初日にフィクション部分を撮影し、いよいよ作品の肝となるリハーサル撮影、という2日目、自分の見通しの甘さが原因で身動きの取れない状態になった。このとき、作品の本質を理解し打開策を講じたのは私ではなくスタッフであり、駆動し始めた撮影で大きな、広い景色を見せてくれたのは役者たちだった。翌年完成し2019年に映画祭を周ったのち、映画配信サイトMUBIでの配信が始まったまさにそのとき、世界中でロックダウンが起きた。
コロナ前に撮影した本作がコロナを経た今どう観られるかは想像もつかないが、作品がまた大きな景色を見せてくれること、そして今度は観客の皆さんに遠くまで連れて行ってもらえるであろうことを私は楽しみにしています。
▼濱口竜介(映画監督)
俳優たちはテイクを重ね、やがて「これしかない」という声に辿り着く。この特権的な声が本来「OK」テイクとなるものだ。しかし、このたった一つの声は、実のところすでに為された無数の発声がその裏に張り付いた複層的なものなのだ。『王国』ではその声は示されるとともに解体されて、あらゆる声が「OK」として響く。自分が夢見たことを先んじてやられてしまったような、そんな感覚を持った。草野なつか監督の勇気と知性に敬意を表したい。
映画『王国(あるいはその家について)』は、2023年12月9日(土)より 東京・ポレポレ東中野にて3週間限定上映。
出版社の仕事を休職中の亜希は、一人暮らしをしている東京から、1時間半の距離にある実家へ数日間帰省をすることにした。それは、小学校から大学までを一緒に過ごしてきた幼なじみの野土香の新居へ行くためでもあった。野土香は大学の先輩だった直人と結婚して子供を出産し、実家近くに建てた新居に住んでいた。その家は温度と湿度が心地よく適正に保たれていて、透明の膜が張られているようだった。まるで世間から隔離されているようだと亜希は思った。最初は人見知りをしていた野土香の娘・穂乃香は、亜希が遊びの相手をしているうちに彼女に懐いた。一方、野土香からはとても疲れているような印象を受けた。数日後、亜希は東京の自宅にいた。彼女は机に座り手紙を書いていた。夢中でペンを走らせ、やがて書き終えると声に出して読み始める。「あの台風の日、あの子を川に落としたのは私です」そして今、亜希は警察の取調室にいる。野土香との関係や彼女への執着、直人への憎悪について、亜希は他人事のように話し始めた。
監督:草野なつか
出演:澁谷麻美、笠島智、足立智充、龍健太
配給:コギトワークス
2023年12月9日(土) ポレポレ東中野にて3週間限定上映
公式サイト domains-movie