Jan 18, 2020 regular
ブロードウェイ here and now

スラバのスノーショー / SLAVA'S SNOWSHOW

ブロードウェイ
パントマイム
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クリスマスの賑わいも過ぎ、新しい年を迎え、去年のブロードウェイ収益データが出揃った。全作品の総利益はおよそ1932億円で、2018年と比べると、3.7%の減収となっている。その理由としては、去年は今ひとつ話題作が少なく、需給状況に応じて価格を変動させている切符の値段がそこまで高くならなかったこと、又、早い内に千秋楽を余儀なくされた作品も多かったからだろう。集客率の方は、2019年が90.51% と、ブロードウェイ史上最高の観客動員数の多い年でもあった。ちなみに、毎年一番収益の上がるクリスマスの週の利益は61億円で、35万人が平均1万7500円の切符を購入して観劇したことになる。 

そして、昨年6月にトニー賞の授賞式が終わってブロードウェイの新シーズンが始まって約半年経った今、傾向として見えてきたのは、ミュージシャンのコンサートや、マジックショーのような家族向きのショーが、1日〜2ヶ月以下の期間限定興行でブロードウェイに来るようになったことだろう。バリー・マニロウやイギリスのモリッシーなどの名の知れたミュージシャンや、評判の魔術師などが、作品名に”On Broadway”と付け足してマンハッタンで興業を行うようになった。背景には一昨年2018年に開催されたブルース・スプリングスティーンのコンサートと、ハンドカメラとスクリーンを駆使したマジックショー『イルージョニスト』の両方が、大成功を収めたことがある。劇場主は、芝居やミュージカル作品の合間に、短期間限定のツアーものを入れて劇場の稼働率を上げたのである。芝居やミュージカルを本業とするブロードウェイのラスベガス化が、ついに始まったのかも知れない。

そんな世界ツアーの立ち寄り場所として、ブロードウェイに10年振りに『スラバのスノーショー』がやってきた。この作品は日本を含め30カ国以上120都市で4000回以上の公演をこなし、300万人以上の観客を動員している。したがって観賞された方もいるかもしれないが、まだであれば是非次回日本に訪れた際に、その機会を逃さないでほしい。

『スラバのスノーショー』は、雪をテーマにしたシンプルな舞台装置の中、詩情豊かで笑いの溢れるパントマイムが繰り広げられる作品で、1993年にモスクワで初演されて以来、世界中で公演を続けている。 幕が上がると、黄色い衣装に身を包んだスラバが、雪の中で首吊り自殺を図ろうとしている。そんなダークなシーンを、絶妙なタイミングで皆を笑わせて舞台は始まる。そして次第に劇場は 不思議でファンタジーな銀世界に包まれるのだった。

制作者でもあり主演も務めるスラバが一人で演ずる男女の電話のやり取りのコントや、電車の駅で別れを告げる男女のシーンは、笑いの中にも慕情や郷愁を感じさせる。他に登場する 10人ほどの道化師は、擦り切れた緑色のオーバーコートに、左右が長く伸びてダンボの耳の翼のようなトラッパーハットを被り、子供のように恥ずかしそうにモジモジしながら観客を見つめたりするが、皆パントマイムの匠だ。途中、巨大な蜘蛛の巣のようなものが観客の上に降りてきたり、観客席の狭い肘置きの上を綱渡りのように渡りながら 水を撒いたりなど、お客は大いにイジられる。最後、劇場いっぱいに紙で出来た雪が吹き荒れた後、直径1~2mある色とりどりの巨大なヘリウム入りボールが数十個も飛ばされる。天井の高い劇場いっぱいに大きなボールがフワフワと飛び交う景色を思い浮かべて欲しい。観客は自分の方にユラユラっと落ちてくるボールを一生懸命に宙に叩き上げながら、皆子供に戻っている。

スラバ・ポルニンは、1950年にロシアの田舎の小さな町に生まれた。レニングラード(現ペテルスブルグ)でパントマイムを独自に学び続け、この舞台でも演じられたデート中の男女のコントが、1980年にロシアのテレビで放送されたことで、その名が国中に知られ渡った。彼はその後、サーカスの中だけの存在だった道化師を劇場公演の主役にすることに尽力した。彼が設立したAcademy Of Fools (道化師学校)は「シルク・ドゥ・ソレイユ」に出演した多くの道化師達を輩出している。パントマイムは、私たちが普段気づかない生きる喜びや哀愁を呼び起こす力を持っている。ちなみに世界的に著名な マルセル・マルソーもスラバも、ユダヤ系アメリカ人のチャーリー・チャップリンに大きく影響されたと語っている。が、パントマイムを芸術作品にまでに高めたマルセルに対し、スラバは舞台装置とシンプルな笑いで観る者の心を童心に帰す作品を作った。言語を使わないからこそ、知能を飛び越して人の心を揺るがす彼の作品は、理屈抜きに美しい。ジェスチャーと音響だけで演じるフィジカル・パーフォーマンスの100分は、あっと言う間に過ぎてしまう。

話は戻るが、今年の傾向としてもう一つ興味深いと思われるのは、オフ・ブロードウェイも含めレズビアンの役柄が多く出てきたことだろう。 ブロードウェイ界をゲイ(男性同性愛者)なしで語ることはできないと言う人がいる程、この業界での彼らの存在は大きい。片や、レズビアンに光があたることは今まで殆どなかった。しかし近年、ブロードウェイの投資家や演出家に女性が増え、MeTooムーブメントなどのように女性のパワーを意識する機会が増えたからか、ミュージカル『プロム』や『ジャゲッド・リトル・ピル』などのように、レズビアンが主演や準主演の役柄として出てくる作品が目立って増えてきた。更に今年はシンシア・ニクソンが演出するレズビアンについての芝居が開幕する予定だ。ただ、日本で評判になったTVドラマ『おっさんずラブ』に見られるように、料理やショッピンが好きでお洒落なゲイは女性にも人気がある。一方、男性はレズビアンにそこまで興味を示さない傾向があるので、これがビジネス的に成功に繋がるかどうかは今後見えてくることになるだろう。

文/井村まどか

Stephen Sondheim Theatre
124 W 43rd St
New York, NY 10036
公演時間:100分(休憩あり)
SCORES
舞台セット
9
作詞作曲
9
振付
10
衣装
9
照明
9
総合
9
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井村 まどか

ニューヨークを拠点に、ブログ「ブロードウェイ交差点」を書く。NHK コスモメディア社のエグゼクティブ・プロデューサーで、アメリカの「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員も務める。 協力:柏村洋平 / 影山雄成(トニー賞授賞式の日本の放送で、解説者として出演する演劇ジャーナリスト)

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