Jul 19, 2019 regular
#15

ジャズフェスが持っている役割

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柳樂 光隆

1979年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。元レコード屋店長。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本『Jazz The New Chapter』シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。ライナーノーツ多数。若林恵、宮田文久とともに編集者やライター、ジャーナリストを活気づけるための勉強会《音筆の会》を共催。

ジャズ作曲家の挾間美帆がヨーロッパの名門ビッグバンドの首席指揮者に就任したきっかけはジャズフェスでの共演がきっかけだった。豪華ジャズミュージシャンが集うジャズフェスが持っている役割について考えてみました。

東京ジャズで指揮をする挾間美帆 Photo by Hideo Nakajima

ジャズ作曲家の挾間美帆がデンマークのダニッシュ・レディオ・ビッグバンド(DRビッグバンド)の首席指揮者に就任したとの発表があった。

DRビッグバンドは、1964年に創立された北欧デンマークの国営ラジオ局のビッグバンドだ。

ヨーロッパには国やラジオ局がビッグバンドを運営している文化がある。オランダのメトロポール・オーケストラ、ドイツのWDRビッグバンド、同じくドイツのフランクフルト・レディオ・ビッグバンド、フランスの国営ビッグバンドONJなどが有名で、彼らは著名な指揮者/作編曲家を指揮者/音楽監督に迎え、新たなサウンドにチャレンジして世界のビッグバンド・ジャズに貢献している。実はビッグバンドに関してはヨーロッパがけん引しているような部分もある。DRビッグバンドはその中のひとつで、名門として知られている。まだ30代前半の挾間美帆が首席指揮者に就任するのは快挙としかいいようがない。

というのもDRビッグバンドの過去の首席指揮者はサド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラの創始者でトランペット奏者のサド・ジョーンズ、サド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラの作編曲を手掛けていたトロンボーン奏者のボブ・ブルックマイヤー、サド・ジョーンズやボブ・ブルックマイヤーの遺志を引き継いだヴァンガード・ジャズ・オーケストラで作編曲を手掛けたピアニストのジム・マクニーリーと現代ジャズアンサンブル史における最重要人物ばかりが並ぶ。他にはマイルス・デイヴィス『AURA』の編曲を担当したトランペット奏者のパレ・ミッケルボルグの名前もある。挾間美帆は最後に首席指揮者を務めていたジム・マクニーリーが退任してから17年間空席だった席に就くことになる。

東京ジャズでのDRビッグバンド Photo by Hideo Nakajima

この快挙に貢献したのが日本で行われているジャズフェスティバルの東京ジャズだった。ジャズの初録音と言われているオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドの「Tiger Rag」から100年目の2017年に世界中でジャズ100年のプロジェクトが行われたが、東京ジャズは挾間美帆を監督と指揮者に据えて、ビッグバンドの演奏をバックに、クールジャズならリー・コニッツ、フュージョンならリー・リトナー、現代ジャズならコリー・ヘンリーと、その時代時代を代表するミュージシャンがゲストに加わることで、ジャズの100年を表現するという企画を立てた。そこで招聘されたのがDRビッグバンドで、ここが挾間美帆とDRビッグバンドの初共演になった。当時、DRビッグバンドの団員たちは挾間美帆のことを知らなかったが、東京ジャズでの仕事が高く評価され、その後、DRビッグバンドからのオファーで何度か仕事をすることになり、それが首席指揮者就任へと繋がっていった。つまりこのジャズ100年プロジェクトの企画を立てたジャズフェスが発端となったわけだ。

ただ、ジャズフェスでの企画が何かを生み出すことはジャズの世界では珍しくない。例えば、ピアニストのレイ・ブライアントの代表作『Alone at Montreux』はジャズピアノの巨人オスカー・ピーターソンが直前にキャンセルした際に、モントルー・ジャズ・フェスティバルがその代打としてレイ・ブライアントにオファーしたことで生まれた名盤だ。オランダで行われているノース・シー・ジャズ・フェスティバルではオランダが本拠地のメトロポール・オーケストラが様々なコラボレーションを行っていて、ロバート・グラスパーやジェイコブ・コリアーがオーケストラと共演している。ジェイコブ・コリアーは2018年リリースの『Djasse』でメトロポールを起用している。今年2019年のノースシーでのメトロポールベッカ・スティーブンス、カミラ・メサ、リズ・ライトとの共演で、指揮をするのは挾間美帆。こういった「その場でしか見られない企画」がそのフェスの売りでもある。

ジャズフェスは世界中の豪華ミュージシャンが集まるだけでなく、普段のライブでは見られないようなジャズフェスならではの企画が魅力だったりもする。そして、それが何かのきっかけになったりもする。一方で、その企画そのもののセンスや意図が問われもする。

そういえば、2016年のブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパンで黒田卓也バンドと初共演したMISIAはその成果をもとにアルバム『SOUL JAZZ SESSION』を制作した。これもジャズフェスがきっかけだった。 ジャズフェスには「何かが生まれるきっかけになる場所」という役割がある。さて、今年の日本のジャズフェスは何を見せてくれるのだろうか。

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