Apr 12, 2019 regular
#01

カヴィタ・シャーのライブに行ってきた。

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柳樂 光隆

1979年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。元レコード屋店長。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本『Jazz The New Chapter』シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。ライナーノーツ多数。若林恵、宮田文久とともに編集者やライター、ジャーナリストを活気づけるための勉強会《音筆の会》を共催。

ジャズ評論家の僕は毎日毎日、音源やライブでジャズを聴いている。ひとくちにジャズと言っても『ラ・ラ・ランド』的なステレオタイプなものばかりではない。ここでは「今、ジャズを追っていると見える景色」みたいなものを記録できたらいいなと思っている。

新宿のピットインに、カヴィタ・シャーというシンガーがライブを行うと聞いて、行ってきた。その珍しい名前から、少しだけ想像ができるように、彼女はインド人の血を引いている。とはいえ、ニューヨーク生まれのニューヨーク育ち。生粋のニューヨーカーだ 。

音楽だけでなく、ハーバード大学に進学し民族学を研究していたり、フランス語とスペイン語とポルトガル語を習得しているマルチ・リンガルだったりとさまざまな顔を持っているのも彼女の魅力で、ベースにはジャズがあるものの、アフリカから、キューバ、ブラジルまで、さまざまなジャンルやさまざまな地域のミュージシャンと共演し、オリジナルな音楽を生み出しているのもそんな彼女のキャリアと繋がっているように思う。

今回、カヴィタはフランス人ベーシストのフランソワ・ムタンとともに来日。この二人のデュオをベースに、一部ゲストを迎えて録音した『Interplay』が高い評価を得ていて、そのアルバムのリリース後のお披露目ツアーという感じ。

カヴィタ・シャーと先日、一緒に来日したベーシストのフランソワ・ムタン

カヴィタはベースを伴奏にして「歌」を歌うだけでなく、楽器を奏でるように「声」を使ってベーシストとセッションしたりと変幻自在。また、マルチ・リンガルの能力を活かし、英語とフランス語のその発生のニュアンスの違いが生み出す情感を的確に歌うことで、アメリカのスタンダード曲やフランスのシャンソンの曲がそれぞれに持っている世界観を深く表現したりもしていた。曲によってはブラジル音楽っぽかったり、即興的に楽曲を変化させている中でアラブっぽいフレーズが現れたり、ラテンやアフリカっぽいリズム感が聴こえたりと、気が付けばいつの間にか世界中に触れているような不思議な音楽でもあった。

にも拘らずカヴィタはジャズボーカルのレジェンドのシーラ。ジョーダンへのリスペクトを口にしたり、ジャズのスタンダードへの思いを語ったりと、「ジャズ」への意識は強い。ジャズがもともtも持っているハイブリッドなDNAが炙り出されたのか、カヴィタが身に付けてきた多様な言語や文化が滲み出るのかはわからないが、彼女の音楽の中心にジャズがあって、それが触媒のようにさまざまな音楽や文化を結びつける役割を果たしているということなのかもしれない。

ジャズにおける自由さって何だろうってことを今度会ったら彼女に尋ねてみたい。

カヴィタ・シャー『Interplay』
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