Nov 13, 2019 regular
#32

完全に生まれ変わった『オグリ』――スーパー歌舞伎からスーパー歌舞伎Ⅱへ――

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伊達 なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。"The Japan Times"に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

三代目市川猿之助(現・二代目猿翁)が創出した歌舞伎の新ブランド「スーパー歌舞伎」を、甥の四代目猿之助は、時代に合わせて大胆かつヴィヴィッドにアップデート。攻める澤瀉屋※に感嘆しきりの巻。

日進月歩は世の常とはいえ、21世紀に入って、その変わり方のスピードがますます加速しているのを感じる。テクノロジーとそれに伴う日常生活はもちろんのこと、歌舞伎のように、基本的に「古典芸能」の範疇に属する世界までその陣容が激変していて、今世紀に入ってからというもの、圧倒されっぱなしだ。新橋演舞場で上演中のスーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『新版 オグリ』を観ていて、つくづく感慨にふけってしまった。

スーパー歌舞伎は、三代目市川猿之助(現・二代目猿翁)が創出した新作歌舞伎シリーズで、現代人にもわかりやすい言葉遣いとテーマ性をもった物語を、歌舞伎ならではの演出を活用して描く、というのが基本コンセプト。 せりふが古語でわかりにくく、封建時代の発想に基づくストーリー展開も受け入れがたい、という点が歌舞伎のネックと考えた三代目猿之助が、そこを克服した脚本に、最新技術を取り入れ、それでいて本来の歌舞伎の骨法を活かした演出で創り上げたもので、『ヤマトタケル』『オグリ』『新・三国志』三部作など、全9作ある。

2012年に、三代目の甥の亀治郎が、四代目猿之助を襲名。以後、伯父である三代目が成し遂げてきた偉業の発展的継承をスマートかつ大胆に進め、着実に成果を上げている。
四代目は、まずスーパー歌舞伎の代名詞といえる『ヤマトタケル』を、’12年の襲名興行で、三代目をていねいに継承する形で上演。その後は、「スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)」と銘打って、独自のスーパー歌舞伎を開拓している。2014年には、現代演劇界の俊英・前川知大のオリジナル脚本による『空ヲ刻ム者』、翌2015年には、尾田栄一郎の超人気まんがを原作とした『ワンピース』(2015)を初演し、大ヒットさせた。今回は、『ヤマトタケル』同様、三代目が創作したスーパー歌舞伎の代表作『オグリ』(1991年初演)に挑戦している。

四代目市川猿之助の小栗判官(右)と坂東新悟の照手姫(左)。今回の衣裳は劇団☆新感線でおなじみの竹田団吾が担当している。(c)松竹

開演前。席に着くと、舞台は幕の代わりに全面が鏡で覆われ、客席を映すその鏡の前に、初演時の小栗判官と照手姫の衣裳が飾られていた。 鏡を使った装置は、初演でも大活躍したし、黒のベルベット地に深紅の薔薇の花をあしらった毛利臣男デザインのオグリの衣裳は、大胆かつ艶やかで、強烈な印象を残す逸品だったので、はっきり記憶に残っている。 
一気に28年前に引き戻されるような懐かしさに包まれたけれど、開演すると、そこで繰り広げられたのは、ベースのストーリー以外は何もかも改まった、まったく新しい『オグリ』(<新版>と明記されている)だった。そうか、だからこそ開演前に、初演版へのオマージュを捧げる儀式が行われていたのか、と後で思い至った。

文武両道ながら奔放な振る舞いが絶えない小栗判官が、自業自得のすえ殺され、地獄に墜ちるも、閻魔大王の反感を買って身体が腐る餓鬼病にされた状態で現世に戻され、最終的には、相思相愛の照手姫に助けられて甦る――。 中世の説経節をベースにした話を、初演では哲学者の梅原猛が戯曲化し、今回は三代目と四代目、両方の猿之助と仕事をしてきた横内謙介が、内容をアップデートさせる形で書き換えている。

大団円のフィナーレはハートの紙吹雪が降る中、歓喜の舞で客席も踊る(この場面専用の蛍光リストバンドあり)(c)松竹

演出は猿之助と、古典の大作の演出に定評がある現代演劇界の人気演出家・杉原邦生の連名。初演のように鏡も使われるが、O・G・U・R・Iと5文字の大きなアルファベットを使った杉原演出のトレードマーク的な装置や、壁いっぱいのLEDボードを使用して鮮やかで多様な風景を映し出す映像、ラスベガス名物のホテル・ベラッジオの噴水ショーのように、リズミカルで変化に富んだ水の立廻り(殺陣)、そして、メタリックな馬に乗った小栗判官と遊行上人が、舞台上下(かみしも)両サイドに分かれ、同時に天を駆け抜けるW宙乗り……。このままラスベガスに持っていけそうなゴージャスで大がかりで高度なスペクタクルの連続で、観客はもう大喜びだ。

小栗判官と6人の仲間たちは『ワンピース』を彷彿させる個性的で平等な若者たちになっているし、初演と比べ説教臭さが減り、ポップ度が増し、テクノロジーの進化が如実に反映されていて、まさに今を生きているアーティストによって創られた、2019年のスーパー歌舞伎になっている。 

きっと、ヴィヴィッドに時代を感じながら創り直したら、こうなったということだろう。28年でこんなにも世の中は変わり、技術は進歩し、自分は歳を取るのだ。わが身をふりかえり、ちょっと嘆息した。

公演情報
スーパー歌舞伎II(セカンド)
新版 オグリ

原作:梅原 猛 
脚本:横内謙介
演出:市川猿之助 杉原邦生 
スーパーバイザー:市川猿翁
出演:市川 猿之助(交互出演)、中村 隼人(交互出演)、坂東 新悟、市村 竹松、市川 男寅、市川 笑也、中村 福之助、市川 猿弥、中村 玉太郎、市川 弘太郎、市川 寿猿、市川 右近(交互出演)、市川 笑三郎、市川 男女蔵、市川 門之助、石橋 正次、下村 青、石黒 英雄、髙橋 洋、嘉島 典俊、浅野 和之ほか

日時:2019年10月6日(日)~11月25日(月)
会場:新橋演舞場
問い合わせ:チケットホン松竹 0570-000-489
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/622/

日時:2020年2月4日(火)~25日(火)
会場:博多座
問い合わせ:博多座電話予約センター092-263-5555
https://www.hakataza.co.jp/lineup/202002/oguri/

日時:2020年3月4日(水)~26日(木)
会場:京都四條 南座
問い合わせ:南座 075-561-1155
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/626/

※博多座・南座は出演者に一部変更あり。詳細はHPで確認を。

*澤瀉屋の「瀉」はうかんむり「宀」ではなく、わかんむり「冖」表記

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