Oct 02, 2019 regular
#26

世界初“回る”『ウエスト・サイド・ストーリー』がすごい

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伊達 なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。"The Japan Times"に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

市場より先に開幕し大きな話題を提供した豊洲の「回る劇場」で、あの『ウエスト・サイド・ストーリー』が上演されていると聞き、「名作をアトラクションにしてしまうの?」と一瞬でも思ったことを猛省。オリジナルに忠実かつ、この劇場でしかできないことに果敢に挑んだ、素晴らしい舞台ではありませんか!

2年前に、ゴージャスなキャスティングによる劇団☆新感線のロングラン公演でオープンした、豊洲のIHIステージアラウンド東京。円形の盆に設置された客席がレコード盤のように回転することで、その円周となる360°の視界すべてが舞台面になるという新たな舞台機構が注目され、「回る劇場」の通称も定着した感がある。

今年8月からは、誰もが知る名作ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』の「回る劇場版」が上演されている。映画版と舞台版を併せたら、もう何十回観ているかわからない。なじみ深い作品だけに、「回る劇場」の機構をどう使うか、クリエイティブ・チームが考え抜いた新たな創意工夫の数々が、手に取るように把握できる気がして(気がするだけなんだけど)、驚いたり、唸ったり、感心したり、叫びたくなったり。いちいち反応してしまい、終始楽しいったらなかった。

まず、なんといっても、リアリティを追求した豪華な舞台装置に圧倒される。『ウエスト・サイド・ストーリー』は、ジェローム・ロビンス振付の難易度の高い名ダンス・シーンの数々があるので、舞台空間を広く使う必要があるし、ツアー公演の場合などは便宜上の都合もあって、通常、装置はシンプルにおさえがちだ。が、360°スペースを使えて、この後の日本人キャスト版を含めると約5か月間の長期公演となるせいか、今回は、凝りに凝った精密な装置が出現している。

二階建てで細部までリアルにつくり込まれたドラッグストア(ドクの店)の装置は圧巻。Photo by Jun Wajda

なかでも、トニーの勤め先で、ポーランド系不良グループ・ジェッツのたまり場でもあるドラッグストアの立派なこと! 天井までぎっしり品物が並べられたうえに二階建てで、各フロアも広々としている。そう、広いので、あの指を鳴らしながら全員でジャンプする『クール』の群舞を、なんと店の中でやってしまうのだ。すると、日常度が増して、怒りでカッとなるのを「落ち着け(クール)!」と言われ抑えようとする所作が、次第にムーヴメントとしてダンスになってゆく過程が、ごく自然に見える。キャスト自身に感情が沸き起こり、それが動きになる瞬間をとらえて振付にしていったジェローム・ロビンスの真意を、改めて確認するような『クール』だ。

互いにひと目惚れしたトニーとマリアがデュエットする『トゥナイト』も衝撃的だ。マリアの部屋のバルコニー、というより建物の外階段の踊り場みたいな慎ましいスペースで、2人が天にも昇る想いを歌うこの名場面では、なんと、バルコニーが前方に動き出し2人が観客に向かってズームアップ。同時に客席は上昇して、2人が夢見心地で美しい星空に包まれるのを、ともに体感できてしまうのだ。もちろん、客席が実際にせり上がるわけではなく(さすがに縦移動機能はない)、スクリーンに投影される映像のなせるわざなのだけど、劇場機構独自のスクリーンの斬新な使い方と、大がかりな仕掛けを駆使する発想には度肝を抜かれた。

バルコニーで『トゥナイト』を歌っているうちに、満天の星空の中に浮かんでゆくトニー(トレヴァー・ジェームス・バーガー)とマリア(ソニア・バルサラ)。Photo by Jun Wajda

そして前半の山場、トニーとマリア、マリアの兄の恋人アニータ、ジェッツとシャークス各グループによる『トゥナイト』の五重唱では、舞台が180°まで開いて、各自が自分たちの居場所にいながら、オペラのように荘厳なクインテットが展開する。五者五様の想いを重ねたバーンスタインの真骨頂の視覚化として、180°開放の舞台機構のもっとも効果的な使い方を初めて観た想いがした。

このほかにも、回る劇場の特質を活用した工夫が随所に見られて、感心したり、うれしくなったりすることの連続。クリエイティブ・チームのスマートかつ作品への愛に溢れた発想と、それを具現化するための技術と努力のありようが察せられて、ちょっと胸が熱くなった。

『ウエスト・サイド・ストーリー』という、よく知られたミュージカルだったことで、より彼らのチャレンジぶりが、ヴィヴィッドに伝わってきたのかもしれない。スタンダートな作品のステージアラウンド版の可能性を、見事に示してみせたアメリカのクリエイティブ・チームとキャストたち。こんな『ウエスト・サイド・ストーリー』が観られるのは、世界中で東京・豊洲だけだ。アメリカから観に来る価値だって、あると思うなぁ。

公演情報
ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』 生演奏/英語上演/日本語字幕あり

会場:IHIステージアラウンド東京
日程:8月19日(月)~10月27日(日)
原案:ジェローム・ロビンス
脚本:アーサー・ローレンツ
音楽:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーブン・ソンドハイム
初演時演出&振付:ジェローム・ロビンス
演出:デイヴィッド・セイント
振付リステージング:フリオ・モンへ
セットデザイン:アナ・ルイゾス
照明デザイン:ケン・ビリングトン
プロジェクションデザイン:59プロダクションズ
衣裳デザイン:リサ・ジニー
問い合わせ:ステージアラウンド専用ダイヤル 0570-084-617(10時-20時)
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/stagearound/wss360_2019/

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