Jun 19, 2019 regular
#11

43年前の『ピピン』公演パンフに圧倒された

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伊達 なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。"The Japan Times"に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

40年以上前のブロードウェイ・ミュージカルの日本公演パンフレットを見たら、プロの書き手たちがいい仕事をしていて、身が引き締まる想いがしたという話です。

いま絶賛上演中のブロードウェイミュージカル『ピピン』は、2013年にブロードウェイで初演された、ダイアン・パウルスによる新演出版だ。

いま上演中の日本キャスト版『ピピン』。中央の3人は左から中尾ミエ、Crystal Kay、今井清隆。腰をくねらせ身体から肩や腕を分解して動かすような独特の動きは、ボブ・フォッシーの振付の特徴だったフォッシー・スタイルを踏襲したもの(振付/チェット・ウォーカー)。(c)GEKKO

これに先立つボブ・フォッシーの構想・振付・演出によるオリジナル版の初演は、1972年。劇中劇のスタイルをとって進行するピピン王子の一代記は、当時、ベトナム戦争の挫折感と虚脱感に苛まれ、行き場を失ったアメリカの若者たちの姿を反映したものと受けとめられ、予想を超える大ヒットを記録した。

日本で最初に『ピピン』が上演されたのは、ブロードウェイでの開幕から4年後の1976年4月、帝国劇場だった。先日、当時の公演パンフレットのコピーをいただいた。そしてその内容の濃厚さと文字量の多さに、しばし唸ってしまった。

ブロードウェイ作品を上演する際、経験した範囲では、日本の主催者側に与えられた作品に関する情報は、あまり十分でないことが多い。その状況は、たぶん昔も変わらなかったものと推測する。

パンフレット編集は、そのなかでインタビューやいくつかの寄稿、企画物と写真などでページを埋めていくわけだけど、この日本初演版パンフでは、まず「ピピン」という人名について、神聖ローマ帝国のメロヴィング(ガ)王朝やカロリング(ガ)王朝などにその名が見え、それを題材にしたスタインベックの小説『ピピン四世三日天下』もアメリカではなじみがある、といった基本事項が訳者(倉橋健・関根勝)から伝えられている。

続いて、ボブ・フォッシー(当時は「フォッセ」と表記)と台本作家ロジャー・O・ハーソン、作詞・作曲スティーヴン(同ステファン)・シュワルツについての解説が、堂々約5000字(文/河端茂)。初演の’72年当時のアメリカのポップス音楽の状況を背景に『ピピン』の楽曲をとらえた論考が約3200字(文/牛窪成弘)。ニューヨーク観劇記が約3000字(文/豊島滋)と、寄稿だけでも相当のボリュームだ。何より、インターネットもない限られた状況下で、研究者や評論家らが、自らの知見と情報を持ち寄り、作品やクリエイターの真意に肉薄しようとする気概と、その熱量に圧倒された。

いま、ブロードウェイ・ミュージカルの公演パンフレットを、こんなに真剣につくっているだろうか。  

世相の嗜好の違いが大きいのかもしれない。が、それにつられて写真ばかり増やしていると、確実に資料としての情報が薄くなり、思考も浅くなって、脳が劣化する。つくるほうも、読むほうも。

すでに劣化は始まっているけども、せめて進行を遅らせる努力をしなくては。自戒を込めて、というより、ひたすら自分の問題として、いま言い聞かせている。

公演情報
ブロードウェイ・ミュージカル『ピピン』

脚本 ロジャー・O・ハーソン
作詞・作曲 スティーヴン・シュワルツ
演出 ダイアン・パウルス
振付 チェット・ウォーカー
サーカス・クリエーション ジプシー・スナイダー
出演 城田優、城田優、Crystal Kay、今井清隆、霧矢大夢、宮澤エマ、岡田亮輔、中尾ミエ(Wキャスト)、前田美波里(Wキャスト) ほか
東京 東急シアターオーブ 2019年6月10日(月)~ 6月30日(日)
名古屋 愛知芸術劇場 2019年7月6日(土)、7月7日(日)
大阪 オリックス劇場 2019年7月12日(金)~ 7月15日(月・祝)
静岡 静岡市清水文化会館マリナート2019年7月20日(土)、7月21日(日)


問い合わせ キョードー東京 0570-550-799
http://www.pippin2019.jp/index.html

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