May 15, 2019 regular
#06

ベルギー演劇紀行③ヨーロッパの劇場を変革するミロ・ラウのマニフェスト。

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伊達 なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。"The Japan Times"に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

「ヨーロッパ演劇界の寵児」ミロ・ラウは、なぜそんなに注目されているのか。彼が昨年芸術監督に就任したNTゲントに来て、本人から話を聞いたら、その理由が少しずつわかってきた気がした。

昨年NTゲント芸術監督に就任したミロ・ラウは1977年生まれ。スイスのベルン出身。 芸術監督をつとめる劇場のすぐ横の聖バーフ大聖堂にある「神秘の子羊」で有名な祭壇画の前で。 (c) Michiel Devijver

見た目は人なつっこく、朗らかな青年だけど、危険をいとわず紛争地域に出かけ、徹底的なリサーチと取材を敢行するジャーナリストでもあるミロ・ラウ。その卓越した行動力を反映しているのが、本拠地ロイヤル・ダッチ・シアターのエントランス付近に掲げられた「ゲントのマニフェスト」だ。

ゴールデン・ボードに記された立派なマニフェストは、ラウが標榜する演劇理念的な内容から、上演作品の具体的な条件まで、全10項目におよぶ。(英語/オランダ語による全文はこちら

いくつか内容に即して意訳してみると「劇場が示すべきは作品ではなく、その創造プロセス。リサーチ、キャスティング、稽古およびそれらに付随する議論は、すべての市民に公開可能とすること」「古典戯曲のまんま上演は翻案でも禁止。この他原作があるものを引用する場合は、上演台本全体の20パーセント以内に留めること」「1作品につき2種類以上の言語を使用すること」「1作品につき2人以上の非プロ俳優を起用すること。動物はこれに含まないが出演は歓迎」等々、かなり思い切ったものだ。

ロイヤル・ダッチ・シアターの壁面に掲げられた「ゲントのマニフェスト」

「これはヨーロッパ演劇界でここ20年間議論され続けてきたことを、まとめたものなんですよ。もういい加減、問題だと話しているだけではなく、明文化してみようと思ってやってみました。僕自身は、ずっとこのマニフェストに則った作品創りをしてきたけど、NTゲントという3つも劇場を持つ大きな組織でも、それを実行していけるかどうかが、チャレンジだと思っています」


とラウ。旧弊を根本から打破することは、そうたやすくないと思われるけれど、


「ゲントの人たちは変革に対する意識が柔軟で、すごくオープン。たとえば、街の主要な3つの劇場は仲良く協力し合ってともにフェスティバルを開催したりしているけど、ベルリンではこんなことあり得ないですからね。
ここ(フランダース地方)は僕にとってはヨハン・シモンズ、アラン・プラテル、ルック・パーシヴァル、ニードカンパニー、ヤン・ファーブルなど、ヨーロッパの新たな表現の潮流を創った演出家たちが育った伝説の地でもある。だから、芸術監督の席が空いたと聞いて、一も二も無く手を挙げました。他の多くのオファーには目もくれずにね。いま僕がやりたいことを実行に移すには、ピッタリな場所だと思うな」


と、いたって快適そう。ゲントという土地の自由な気風が、彼を後押ししてくれているようだ。

孤独なガンマンみたいに各地で風穴を開けてきたミロ・ラウは、NTゲントという組織を持ったことで、ヨーロッパ演劇界を構造的に変えるきっかけを、見い出したところなのかもしれない。

次回は「ゲントのマニフェスト」10項目をすべてクリアする勢いのラウの最新作『モスルのオレステス』について。

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