May 08, 2019 regular
#05

ベルギー演劇紀行②ヨーロッパ演劇界の寵児ミロ・ラウに出くわす

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伊達 なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。"The Japan Times"に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

去年不覚にもスルーしてしまったゲントを代表する演劇の殿堂NTゲントに、やっと足を踏み入れた。そして、いまヨーロッパ演劇界でもっとも注目されているミロ・ラウにキャンディをもらうという僥倖に恵まれた。

前回ここで触れたゲント歌劇場を含むオペラ・フランダースが、今年の国際オペラアワードの最優秀カンパニー賞を受賞したというニュースが入った(4月29日)。ひいき目でなく、果敢な取り組みが世界的に評価されているオペラハウスと太鼓判を押されたようで、うれしい限り。

オペラ・フランダースと同じ歌劇場(ゲントとアントワープの2か所にある)を共有するバレエ・フランダースは、日本でも『PLUTO』などを手がけているシディ・ラルビ・シェルカウイが率いているので、バレエ部門も、目を引く現代振付家の作品が多く、元気がいいのが特徴だ。

NTゲントの本拠地ロイヤル・ダッチ・シアターは1899年の建築。中には大小3つの劇場がある。(c) Michiel Devijver

そして、演劇も活気に溢れている。街の中心も中心の好立地に建つロイヤル・ダッチ・シアターを本拠とするNTゲントの芸術監督に、昨年、ヨーロッパ演劇界の寵児ミロ・ラウが就任したのだ。

ラウは、国家レベルの紛争や実際に起きた犯罪について、徹底的な調査・取材を行い、ドキュメンタリー的手法を用いて複合的に舞台に再現することで、観る者に問題の所在を痛烈に突きつける、ジャーナリスティックな劇作家・演出家・映画監督。

日本でも、20年以上にわたるコンゴ内戦の現場で関係者による模擬裁判を敢行し映像化した『コンゴ裁判』が、4月末にふじのくに⇄世界演劇祭で上映されたばかりで、この後も、あいちトリエンナーレで、凄惨な少女監禁殺害事件を扱った『Five Easy Pieces(5つのやさしい小品)』が上演されることになっている。まさに今が旬の、ヨーロッパでもっともその動向に注目が集まる演劇人だ。

4月17日は、ラウがNTゲントの芸術監督に就任して2作目となる新作『モスルのオレステス』(傑作だった!素晴らしすぎて2回観た)のヨーロッパ公演初日。開演前に劇場のカフェでNTゲントのスタッフの取材をしていたら、キャンディを抱えたラウがフラッと現れ、私たちのテーブルにもやって来て、「はい、どうぞ。ミロより♪」と朗らかな笑顔でイラク土産のキャンディをくれた。

ミロ・ラウがくれたイラク・モスル土産のキャンディ。下は『モスルのオレステス』の上演関連資料が網羅された「ゴールデンブック」

ハードで深刻な作品が多いので、厳しい雰囲気の人を想像していたけれど、まるで違う。初日の開幕直前にこんなところにいて大丈夫ですかと問うと、「モスルで何度も上演したからさ、もう僕やることないんだよね。すんごくリラックスしてるよ」と、ひたすら屈託が無い。ならばと取材を申し込んだら快諾してくれて、その場でしばしインタビューができた。

次回は、ラウのインタビューから見えたゲントの風通しのよい環境について。


※文中の表記は、便宜上英語読みにしています。

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