Jan 26, 2019 column

オスカー受賞に王手! グレン・クローズの名演が光る『天才作家の妻 -40年目の真実-』に込められた想いとは?

A A
SHARE

 

世界最高の権威を誇るノーベル賞授賞式を背景に、人生の晩年に差し掛かった夫婦の危機を描いた『天才作家の妻 -40年目の真実-』。常に控えめに夫のキャリアをバックアップしてきた妻ジョーンを、『危険な情事』(87年)や『アルバート氏の人生』(11年)などでアカデミー賞に6度ノミネートされた実績を持つ大女優グレン・クローズが演じている。“天才作家の妻”として生きてきたジョーンの秘密が明かされていく展開とともに、どのようにして名作を生み出したのかという小説家の生き方や人生が描かれている本作を徹底解説する。

 

“天才作家の妻”の複雑な想いを体現したグレン・クローズの名演

 

もしも自分が作家なら「今年のノーベル賞はあなたに決まりました」という吉報が入れば飛び上がって喜び、家族や親戚、友人らとともに大騒ぎするだろう。本作は、現代文学の巨匠として名高い作家ジョゼフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)のもとにノーベル文学賞を受賞したという知らせが入るところから始まる。友人や教え子らを自宅に招いた場で「妻のジョーンは人生の宝だ。彼女なくして私はいない」と感謝の言葉を述べるジョゼフに満面の笑みを向けるジョーン。どこからどう見ても理想的なおしどり夫婦に見えるが、授賞式に出席するために訪れたストックホルムでの夫の有頂天ぶりにジョーンは辟易した態度を露にしていく。それは一体なぜなのか……。その理由が少しずつ明らかにされていくというストーリーだ。

 

 

ひとつ言えるのは、熟年夫婦の長年の確執を描いた映画ではないということ。夫婦は互いに愛情を失ったわけではなく、ささいなことでケンカをするシーンではむしろ仲の良さが伝わってくる。では本作では何が描かれているのかというと、長年を共に過ごした夫婦の愛憎や男女の格差、そして、物書きが自分の人生をかけて名作を書き上げることの大変さや、非凡な才能を持って生まれたが故に犠牲にしなければいけなかったことなど、私たちが知り得ることのない“作家の人生”そのものが詰まった映画なのだ。

 

 

本作をより魅力的な作品にしているのは、間違いなくグレン・クローズの名演だろう。マイケル・ダグラス演じる妻子持ちのサラリーマンと浮気したのちにストーカーへと変貌していく女性を見事に演じた『危険な情事』で知名度をあげ、101匹わんちゃんの実写版『101』(96年)では悪役のクルエラを、人気ドラマシリーズ「ダメージ」(07年~12年)では権力者を相手にした訴訟を担当する弁護士を、製作・主演・共同脚色・主題歌(作詞)の4役を務めた『アルバート氏の人生』では女性の自立が難しいと言われた19世紀のアイルランドで男装して働きながら生きる女性を演じ、第84回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた実力派女優である。

 

 

幅広い役に挑戦してきた彼女だからこそ、『天才作家の妻 -40年目の真実-』で40年間作家の夫を陰ながら支えてきた妻ジョーンの複雑な心の機微をリアルに表現することができたと言える。ほとんど心情を口にしないジョーンの夫への憤りをさりげなく体現したかと思えば、持病を持つ夫に対して「ちゃんと薬を飲んでね」と体を気遣う妻としての優しさもしっかりと演じてみせているのだ。