Mar 11, 2018 column

多様な方向から映画界を牽引する斎藤工、その魅力と愛される理由を分析!

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ドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(14年)で大ブレイクした斎藤工が、『去年の冬、きみと別れ』(公開中)では猟奇殺人事件の容疑者を演じ、抗いがたい魔力の中に潜む狂気を体現し、振れ幅の大きさを証明している。2月には長編初監督作『blank13』が公開するなど、多才ぶりを本格的に開花させている彼の魅力に迫る。

 

新境地を開いた『冬きみ』と、『昼顔』『HiGH&LOW』――“メジャー作品”で放つ硬軟両方の魅力

 

『去年の冬、きみと別れ』(公開中) ©2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

 

芥川賞作家・中村文則氏の予測不能なミステリーを実写化した『去年の冬、きみと別れ』。ある女性が焼死した事件の容疑者・木原坂雄大=斎藤は、妖艶で人を惑わす得体の知れない不気味な存在だ。無造作に生やした髭に、長めの前髪からのぞくギラついた瞳。一見、口当たりの良さそうな言葉の端々から感じられる底知れぬ恐怖。今回ばかりはいくら斎藤工でも“イケメン”よりも“モンスター”という方が相応しい。その“モンスター”が終盤にみせる表情と佇まいは圧巻。俳優として新境地を開いたと言える作品になりそうだ。

 

『去年の冬、きみと別れ』(公開中) ©2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

 

さて、斎藤工を語る時に欠かせない作品のひとつである『昼顔』。ダメだとわかっていながらどうしようもなく惹かれ合ってしまう紗和(上戸彩)と北野(斎藤工)の、不倫でありながら純度の高い恋物語。ドラマが大きな反響を呼んだことで映画化もされた本作で、情熱と背徳、理性と本能の狭間で揺れる斎藤工の湿度のあるセクシーさはある意味、ディープインパクトだった。この作品で一躍、“イケメンセクシー俳優”のAランク枠にリストインした彼は一般的知名度がぐんと上がり、人気も爆発。一時期はセクシー俳優の代名詞的存在にされていたバブル的状況を「長くは続かないとわかっています」と自虐的に笑いつつ、「仕事の幅が増えたし壁ドンをする機会も増えた(笑)。個人的に『昼顔』以降は違う景色を見させてもらってとても感謝しているんですよ」とインタビューで語っている。

 

『昼顔』(ブルーレイ・DVD発売中) ©2017 フジテレビジョン 東宝 FNS27社

 

2001年から俳優活動を開始し、若手俳優の登竜門的ミュージカル『テニスの王子様』出身だったり(主人公のライバル校である氷帝学園の初代・忍足侑士役)、『BOYS LOVE』(06年)や『スキトモ』(07年)と言ったマニア向けの作品にも出演していたりと、多作な彼にとって、『昼顔』も含めてどの作品も大事な1作という認識なのか、決して浮き足立つことがなく、いたって冷静に自分自身を俯瞰していたのが印象的だ。

振り返れば、映画『春琴抄』(08年)の佐助役で切なく儚い美しさを漂わせ、NHKの時代劇ドラマ「オトコマエ」シリーズ(08年、09年)では女好きだけどいざという時は頼りになる信三郎役で粋な“男前”ぶりを発揮。ドラマ「医師たちの恋愛事情」(15年)では年上の同僚医師(石田ゆり子)に惹かれる真面目な外科医を演じ、「色香がヤバい!」と評判に。かと思えば、連続ドラマ単独初主演作となった「クロヒョウ 龍が如く新章」(10年)、「クロヒョウ2 龍が如く 阿修羅編」(12年)では爆発したら手が付けられない不良役で激しいアクションで大暴れ。鋭い眼差し、揺るぎない男気、細マッチョの肉体は硬派でワイルド。184㎝の長身に低音バリトンボイス、甘くも鋭くも変化する眼差しは、硬軟両方のかっこよさを巧みに演じ分けられる彼の大きな武器になっている。

近年の出演作でこの両魅力を存分に活かした作品と言えば、くしくも同じ年に公開された映画『高台家の人々』(16年)と『HiGH&LOW THE RED RAIN』(16年)だろう。妄想が趣味の地味ヒロイン・平野木絵(綾瀬はるか)を誠実に愛する、頭脳明晰・眉目秀麗の“王子様”高台光正を完璧に演じた『高台家~』。熱狂的なファンを生んだ『HiGH&LOW』シリーズにおいて、なかなかその正体が明かされなかった雨宮兄弟(TAKAHIROと登坂広臣)の長男・尊龍の物語を描く『~THE RED RAIN』。謎に満ちた存在だった尊龍が、映画1作目のラストにお目見えした時、「ああ、斎藤工だったのか!わかる!」と誰もが思ったはず。両極端にあるこの2作――スウィートで紳士でお茶目な光正と、ぶっきらぼうだけど優しく強い尊龍はファンなら必見!

 

元来は“こっち側”?ほとばしる映画愛から生まれるもう一方の魅力、多岐にわたる活動

 

『虎影』(ブルーレイ・DVD発売中)©2014「虎影」製作委員会 / 提供:応援団

 

さて、ここまでが斎藤工のメジャーな魅力だとしたら、アザーサイドの魅力は、井口昇監督や西村喜廣監督の個性的で風変わり、時におふざけも多い作品で、変なキャラクターを嬉々として演じていること。斎藤工が元来持つ美しさやかっこよさはあまり活かされていないものの、彼自身は実にイキイキとしていて楽しそう、かつ大真面目。突如としてゾンビ描写が始まる『ヌイグルマーZ』(井口昇監督/14年)では青のりを前歯にベッタリつけた残念すぎるロッカー役だし、『昼顔』で大ブレイク後に出演した破天荒時代劇『虎影』(西村喜廣監督/15年)ではおバカでアツい忍者役。この『虎影』プロモーション時には、「『昼顔』での自分がパブリックイメージと思われつつありますけど、元来自分は“こっち側”の人間ですから」「井口監督も西村監督も時代がまだ追いついていないだけ。自分は昔から二人の大ファン!」と誇らしげに語っていた。ちなみにオムニバス映画『ブルーハーツが聴こえる』(17年)の井口監督作『ラブレター』に出演した斎藤は、舞台挨拶時に井口監督に「大好きです!」と告白する場面も見られた。

 

『ブルーハーツが聴こえる』(ブルーレイ・DVD発売中) ©TOTSU、Solid Feature、WONDERHEAD/DAIZ、SHAIKER、BBmedia、geek sight

 

そう、チョイ役だろうがものすごく変な役だろうが無様に死ぬ役だろうが“パブリックイメージ”が壊れようが、全く気にせず、心から尊敬する映画人たちとの仕事に全力で取り組むのが斎藤工なのだ。『昼顔』をはじめとするクールで二枚目なイメージが強い人が観たら卒倒するかもしれないけれど、“こっち側”の要素もまた、彼を形作るうえでとても重要。役者としてのタブーやボーダー、イメージやリミットに捕らわれることなく、さまざまなキャラクターに挑んでいく姿勢は今も昔も一貫していて、幼い頃から映画館に通い、映画をこよなく愛している彼だからこそのユニークなフィルモグラフィーだと言える。そういう意味では、彼が本気で芸人を目指して覆面で活動するというドキュメンタリー風ドラマ「MASKMEN」(テレビ東京/18年)も、斎藤工という素材を活かした面白い企画。2016年の年末に、サンシャイン池崎のモノマネをして大きな話題になった「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!! 絶対に笑ってはいけない科学博士24時」での振り切れぶりを見ると、彼の中にはまだまだ未開拓なジャンルやポテンシャルが潜んでいるに違いない。

以前からシネフィルとしても知られている斎藤工。俳優としての活動以外に雑誌「映画秘宝」の連載や映画を紹介するレギュラー番組(WOWOWでの「映画工房」)で幅広い知識を披露したり、米アカデミー賞授賞式のため現地に飛び、WOWOWでナビゲーターを務めたり。さらに2014年からは映画館のない地域への移動映画館プロジェクト「cinema bird」を主催し、多忙な合間を縫って国内はもとより、マダガスカル、パラグアイにも赴いてボランティアに勤しんだり。俳優としてこれだけ売れっ子でありながら、多岐にわたるこの活動はまさに映画への深い愛ゆえ。