Oct 09, 2017 column

『アウトレイジ』シリーズ、そして北野武監督の作家性を解説する!

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北野武監督&ビートたけし主演によるバイオレンスエンターテイメント『アウトレイジ』(10年)、『アウトレイジ ビヨンド』(12年)に続く、シリーズ最新作『アウトレイジ 最終章』の公開が始まった。西田敏行、ピエール瀧、大森南朋、松重豊ら実力派俳優たちがキャスティングされた極道エンターテイメント大作の見どころ、そして北野監督作品の作家性を独自の視点から解説します。

 

バブル経済崩壊後の1990年代は“自分さがし”の旅がブームとなり、バックパックを背負ったフリーターたちが自分らしさ、アイデンティティーを求めて世界各地へと旅立っていった。2001年以降は社会格差が進み、自分さがしの旅を悠長にしている余裕もなく、より切実な“居場所さがし”が物語の主流となっていく。宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(01年)や『ハウルの動く城』(04年)はその典型例だ。北野武監督の人気シリーズ第3弾『アウトレイジ 最終章』は、居場所さがしのさらに先を行く“死に場所さがし”の物語となっている。

 

 

死に場所さがしの物語と聞くとネガティブなものをイメージしがちだが、北野監督が描く物語はとてもクールかつ賑やかで、笑いもかなり盛り込まれている。暗さはまるで感じさせない。学生時代は理数系が得意だった北野監督は、映画演出においても無駄な台詞を省き、方程式のようにスッキリと割り切れる世界を好んでいる。シリーズ完結編となる『アウトレイジ 最終章』は逆算から生まれた物語だ。第1作『アウトレイジ』(10年)で生じた遺恨、第2作『アウトレイジ ビヨンド』(12年)でさらに飛び散った火種を、主人公・大友(ビートたけし)はきれいに回収していく。パチパチパチッとパズルのピースはめ込んでいくような心地よさがある。

シリーズ前2作を簡単に振り返ると、第1作『アウトレイジ』で大友率いる大友組は広域暴力団・山王会を相手に下克上抗争を繰り広げ、大友は部下たちを全員死なせてしまった。第2作『アウトレイジ ビヨンド』では自分の出世のために大学のボクシング部の先輩である大友を利用したマル暴の刑事・片岡(小日向文世)に怒りの銃弾を撃ち込む。まっとうな社会に馴染めず、ヤクザになった大友だが、経済至上主義となってしまった現代のヤクザ社会には、もはや彼の居場所はどこにもない。『アウトレイジ ビヨンド』で刑務所から出所した大友のことを気に掛けてくれた日韓裏社会のフィクサー張会長(金田時男)への恩義から、最新作『アウトレイジ 最終章』では張会長に降り掛かった火の粉を払いながら、大友は自分に相応しい死に場所をさがすことになる。

 

 

北野監督ならではのバイオレンス描写が見せ場である『アウトレイジ』シリーズ。『アウトレイジ』では、村瀬組の組長・村瀬(石橋蓮司)は歯医者で治療を受けて無防備なところを大友に襲われ、サウナでは素っ裸のまま銃撃される。『アウトレイジ ビヨンド』では、大友を裏切って山王会の若頭に出世した石原(加瀬亮)がロープに縛り付けられてバッティングセンターで野ざらしの刑となった。今回の『アウトレイジ 最終章』では、張会長と花菱会とのトラブルの原因となった花菱会の幹部・花田(ピエール瀧)たちにサプライズな処刑方法を用意している。シリーズ3作品ともR15指定となっているものの、ビートたけし演じる大友はいくつになっても大人になりきれずにいる悪ガキのようで、彼の考える処刑法はどれも悪戯の延長線上にあるもの。北野作品ではお馴染み、柳島克己撮影監督の乾いた映像美もあって残酷さはそれほど感じさせない。

悪人たちの様々な最期が描かれる『アウトレイジ』シリーズだが、この多彩なアイデアは北野監督が持っている“デスノート”に記されているもの。北野監督はお笑いのアイデアを書き込むネタ帳と同じように、ユニークな死に方や自殺方法をメモ書きした通称デスノートと呼ばれる“死に方帳”を持っている。『アウトレイジ』シリーズでは各キャラクターの非道ぶりに応じた、とっておきの死に方をデスノートの中から選んでいるというわけだ。北野監督の中では、笑いと破壊が、生と死が、同価値のものとして存在している。自分の居場所を見つけられずにいる大友は、いつかは誰にも訪れる死を意識することで、逆に自分に残された生を輝かせる。『アウトレイジ 最終章』は死から逆算された生の物語だともいえるだろう。

 

 

説明を排したスタイリッシュな演出は、フレンチノワールの名匠ジャン=ピエール・メルヴィル監督から影響を受けているとされる北野監督のバイオレンス映画だが、『アウトレイジ 最終章』ではシリーズの最後まで生き残った大友は、弟分の市川(大森南朋)と連れ立って敵対する花菱会の宴会場へと殴り込む。まるで高倉健と池部良が最後の最後に怒りを爆発させる『昭和残侠伝』シリーズ(65年〜72年)のようだ。健さんが演じた筋を通すことにこだわる昔気質のヤクザは、すっかり過去の存在となってしまった。往年の任侠映画へのオマージュも感じずにはいられない。

また、多くの北野作品のファンは『アウトレイジ 最終章』を観ると、沖縄を舞台にした初期代表作『ソナチネ』(93)を思い浮かべるだろう。『アウトレイジ 最終章』は韓国の済州島から幕を開け、海辺で年下の市川たちと子どものように大友は無邪気に遊ぶ。やがて楽しい遊びの時間は終わり、大友は日本へ戻り、『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』での遺恨を清算することになる。未完成だったパズルのピースが、クライマックスでいっきに埋められていく。そして、『ソナチネ』の名シーンが再び奏でられる。クラシックの名曲「パッヘルベルのカノン」のように、北野作品では美しい旋律が繰り返し演奏される。

 

 

シリーズを完結させた北野監督は、これからどこへ向かうのだろうか。9月に刊行された「アナログ」(新潮社)は、ビートたけし初の恋愛小説として話題を呼んでいる。お互いの連絡先を知らない30代の男女が週に一度、同じカフェで待ち合わせ、逢えない時間を味わいながら、じっくり恋愛感情を育んでいく純愛ストーリーとなっている。ひとりの人間の中に潜む破滅衝動を見事に描き切った『ソナチネ』の後、北野監督は青春映画の金字塔『キッズ・リターン』(96)や夫婦の愛情物語『HANA-BI』(98)を撮っている。北野監督にとって死や破壊は物語の終わりではなく、再生も意味している。次回作が「アナログ」になるかどうかは定かではないが、『アウトレイジ』三部作を完結させた北野監督は新しいステージに挑むに違いない。

 

文/長野辰次

 

 

作品紹介

 

映画『アウトレイジ 最終章』

《関東【山王会】 vs関西【花菱会】》の巨大抗争後、大友(ビートたけし)は韓国に渡り、日韓を牛耳るフィクサー張会長(金田時男)の下にいた。そんな折、取引のため韓国滞在中の【花菱会】幹部・花田がトラブルを起こし、張会長の手下を殺してしまう。これをきっかけに、《国際的フィクサー【張グループ】 vs巨大暴力団組織【花菱会】》一触即発の状態に。激怒した大友は、全ての因縁に決着をつけるべく日本に戻ってくる。時を同じくして、その【花菱会】では卑劣な内紛が勃発していた……。

監督・脚本・編集:北野武 
出演:ビートたけし 西田敏行 大森南朋 ピエール瀧 松重豊 大杉漣 塩見三省 白竜 名高達郎 光石研 原田泰造 池内博之 津田寛治 金田時男 中村育二 岸部一徳 
配給:ワーナー・ブラザーズ映画/オフィス北野 R15+ 
2017年10月7日(土)より全国ロードショー
(c)2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会
公式サイト:http://outrage-movie.jp

 

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