Jan 03, 2019 column

『2001年宇宙の旅』リバイバル上映が写し出した映画の未来と課題

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映画のアーカイブ問題は、映画にまつわるメディアでは近年たびたび取り上げられる話題だ。日本だけではなく海外の映画界にとっても同様である。だが、そう言われても「アーカイブとはどういうことで、なぜ必要で、それによって何が可能となるのか?」がピンとこない人も多い。映画に限らず“アーカイブ”というものがあまり身近では無いので仕方がない。 そうしたこともアーカイブがなかなか進みにくい事業である理由だ。そんななか、2018年にはある1本の作品から映画アーカイブの意味を具体的に感じられる出来事が起こった。スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』。初公開から50年という節目だった。

SF映画史という枠にとどまらず、映画史そのものにおけるマスターピースの1本。年輩の映画ファンであればほとんどの人が見ているのではないか。僕の年齢では78年に『スター・ウォーズ』を契機としたSF映画ブームの中で行われたリバイバルで目にした人も多い。未見の人であってもタイトルは聞いたことがあるだろう。その名作の誕生50周年の中、年間を通して映画ファンの間でちょっとした“お祭り”というほどいくつかのイベントが起こった。

1つは秋に国立映画アーカイブ(旧・東京国立近代美術館フィルムセンター)で行われた70mmフィルムでの上映。今や珍しくなった70mmフィルム。それも新たにレストアされたものによる上映は大きな注目を集めた。これが国立映画アーカイブでの限定上映であったのは「現在70mmフィルム映画を上映できる映画館が日本中でここだけ」という理由にもよる。 ゆえに上映が限定的で席数も限られていたため多くの人が涙をのんだのだが、その後に別の形式での『2001年』が上映となった。日本全国のIMAX大スクリーンを使って久々となる一般再上映が行われたのだ。映画アーカイブでの上映でもだが、こちらでも本公開時同様にキューブリックが定めた「上映開始前の演奏(序曲)」「中盤の休憩」「クレジット後の客出しでかかる演奏」も再現され、かつての大型劇場での上映と同じである。『2001年』の本編正味は141分。最近の大作に比べたら休憩が必要なほどの長さではないが、この“途中休憩”も含めた姿こそがキューブリックによるものだったからだ。ただ、IMAXスクリーン上映版が違うのは、フィルム上映ではなく、70mmフィルムから最新の技術でレストアされたデジタル上映であったこと。 フィルムというオリジナルメディアではすでに実現困難な大規模上映がデジタルでは可能になったわけで、同じ作品の上映でありながらこの2例は「フィルム上映・デジタル上映それぞれのメリット・デメリット」が反映されたわかりやすいケースともなった。

さらに、劇場上映ではないが12月にNHKがスタートした8K放送に合わせ、8Kリマスターが行われて放送。かかるコストを考えるとあらゆる作品が8K化されることはまず無いだろうが、とはいえ映像技術の進歩を考えた時にメジャー作品の8K化は今後も続いていくことになる。先陣を切り「8Kリマスターとはどういうことか」の1つの指針を示したのは間違いない。また、ソフトでもこの年末に新たに起こされた4KリマスターBlu-rayが発売となっている。(かつてテレビ朝日で放送された日本語吹替版もソフト初収録!)

70mmフィルム、デジタルによる大きなスクリーンでの再上映、8K化、ソフトパッケージ。2018年に起こった『2001年宇宙の旅』を巡る出来事の数々は、映画の上映環境とメディアフォーマットの歴史を辿り振り返ることそのものの体験だった。同時にそのことは映画アーカイブの課題をも可視化し、冒頭で記した「?」への回答として、多くの人が問題やメリットを理解できたのではないだろうか。これらの上映やリマスターは、アーカイブの現実と課題をハッキリと伝えてきた。