Apr 03, 2018 column

大ヒット映画『リメンバー・ミー』が映し出す、ディズニーの伝統と革新へのチャレンジとは?

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ディズニーの新作CGアニメーション映画『リメンバー・ミー』が公開となった。 先日のアカデミー賞において長編アニメーション賞、主題歌賞を受賞。さらにゴールデングローブ賞や、「アニメ界のアカデミー賞」とも言われるアニー賞においては最多11部門で受賞という快挙をなしとげ、日本でも公開前から高い注目を集めていた作品だ。すでにご覧になった方も多いと思う。

舞台はメキシコ。1年に1度、亡くなった家族と再会できるというラテンアメリカにおける祝日「死者の日」。先祖がかつて家族を捨てて音楽の道に進んだという事件以来、音楽を演奏することも歌うことも聞くこともかたく禁じてきたミゲルの一族。しかし音楽への夢を持ち続けている少年・ミゲルは、ふとしたことから生きたまま死者の国へと迷い込んでしまう。 きらびやかな死者の国でミゲルは1人の冴えないガイコツと出会い、彼との冒険の中で音楽を禁じてきた自身の祖先たちとも出会うことになるのだが…。

今作はディズニー作品といってもピクサー・アニメーション・スタジオによる製作。同スタジオの作品はいまだに「ディズニー」ではなく「ピクサー作品」というくくりと呼び方をしてしまう人も多いだろう。僕自身、『トイ・ストーリー』から劇場で見続けてきているピクサーファンの1人だが、正直このスタジオの作品に「今回ははずしたなー」と思わされたことがない。 今作も幾多の賞を総なめにしたことも納得の、期待を裏切らぬ映画だった。家族の絆が過去から未来へとつながっていくストーリーは心地よい感動を与えてくれる。見事なのは「死者の国」「死者の日」を舞台にしていながら暗いイメージの“死”からはかけ離れたものとなっていて、あくまでも楽しい冒険物であるところだ。クライマックスで“ある真実”が判明してからの展開はまさにアニメーションならではだ。

主な舞台となる「死者の国」のビジュアルも圧巻だ。キービジュアルでもある死者の日にかかせないマリーゴールドの花びらの輝き、そして町並みのデザインと美しさにはため息すら出てくる。まるで巨大なアトラクションパークだ。死後の世界がこんなであったら楽しいかもしれない。前向きな気持ちで死ぬことが出来そうだ。(笑)

もう1つこの映画において重要なのは音楽だ。ディズニー作品とピクサースタジオ作品の傾向の違いとして「ディズニーはミュージカル作品があるが、ピクサーには無い」ということを挙げる人もいる。実際、この作品も全編に音楽があるがミュージカルではない。あくまでも音楽が作品の要にある音楽映画だ。ラテン調の軽快な楽曲がちりばめられており、まさに観客の年齢も性別も問わない娯楽作品となっている。 ちなみに邦題の『リメンバー・ミー』は劇中で大きな役割を持っている曲のタイトル。原題の『Coco』も劇中で重要な意味を持つ名前であるのだが、とはいえ今作に関しては主題歌と作品テーマを直結をさせた『リメンバー・ミー』という邦題は絶妙だと思う。