Dec 15, 2018 column

ハル・ベリー&ダニエル・クレイグの新たな魅力! 社会派ドラマ『マイ・サンシャイン』を解説する

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デビュー作の『裸足の季節』がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督の新作『マイ・サンシャイン』。家族と暮らせない子どもたちを育てる女性ミリーをハル・ベリー、口は悪いが心根は優しいミリーの隣人オビーをダニエル・クレイグが演じており、実在の事件をもとにした見応えのある作品となっている。主演の二人が、人種差別を発端に勃発した「LA暴動」を描いた今作でどんな演技を見せているのか、その魅力を解説する。

 

アメリカ史に刻まれたLA暴動を、愛に溢れた“家族”の視点から迫る

 

1991年のLAで二つの事件が起きた。ひとつは黒人男性が白人警官たちから理不尽な暴行を受けたロドニー・キング事件、もうひとつは15歳のアフリカ系アメリカ人の少女が万引きと間違えられて韓国系の女店主に射殺された事件。1991~92年のLAサウスセントラルを舞台にした今作では、血の繋がらない子どもたちに愛情深く、時には母親のように厳しく接するミリーとその愛情を受けてのびのびと生きる子どもたち、そして元気がありあまる子どもたちの騒ぐ姿に文句を言いつつも優しく見守るオビーの姿が冒頭で描かれる。

 

 

ところが先ほどの二つの事件をきっかけに、黒人が多く暮らすサウスセントラルでは不穏な空気が漂い始め、1992年にロドニー・キング事件の公判で集団暴行をした白人警官に無罪の判決が下ると、白人や韓国系商店を標的とした暴動が起きてしまう。ささやかに暮らしてきたミリーや子どもたちの生活は一変し、一歩外に出れば銃撃戦や放火、略奪などの危険に晒されることに。そんな中、家で待っているはずの幼い子ども3人が行方不明になり、ミリーが捜索を開始。ひょんなことからオビーも捜索に加わり、二人は次第に距離を縮めていく。さらにミリーと暮らす思春期の青年の複雑な恋模様なども盛り込まれ、後半はスリリングな展開にハラハラドキドキさせられる。

 

 

人種差別を扱っている作品はシリアスなものが多いが、今作は事件に重きを置くというよりは、血の繋がらない者への深い愛情を丁寧に描いている。家庭環境に恵まれず貧しく育った子どもたちは明るく無邪気にはしゃぎ、騒々しい彼らに文句を言うオビーと強気な性格のミリーとのやりとりに思わず笑いがこみ上げるなど、あくまでもライトなタッチで展開されるため、重々しい気持ちにならないのが今作の良いところだ。

 

アメリカにおける人種差別問題を扱った代表作

 

『マルコムX』(DVD発売中)TM,(R) & Copyright (C) 2004 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 

アメリカの人種問題を描いた代表作と言えば、スパイク・リー監督の『マルコムX』(93年)があるが、この映画はアメリカで最も著名で攻撃的な黒人解放運動家として知られるマルコムXの半生を描いた社会派ドラマである。同じく人種問題を扱った映画『グローリー/明日への行進』(14年)は1964年にノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・Jr.牧師が、黒人の選挙権を求める525人の同志と共にアラバマ州セルマから州都モンゴメリーまでデモ行進をしていくなか、白人知事率いる州警察の暴力によって弾圧された様子を描いている。“血の日曜日”と呼ばれたこの事件が歴史や世論を動かした実話を見応えタップリに映像化した作品だ。黒人奴隷の体験記を映画化した『それでも夜は明ける』で製作を務めたブラッド・ピットが製作総指揮の一人として関わっており、第87回アカデミー賞の作品賞にノミネートされ、人気歌手のジョン・レジェンドとコモンが手掛けた主題歌「Glory」は主題歌賞を受賞した。いま挙げた2作品はあくまでもシリアスに人種問題を描いており、メッセージ性の強い作品と言える。