Jan 21, 2018 column

2018年も映画、テレビで輝き続ける松坂桃李。エンタメ界で愛されるその理由とは?

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数々の映画やドラマに出演し、幅広い役柄を演じて役者としての実力を着実に身につけてきた松坂桃李。昨年は、人気ドラマのスペシャル版「ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編」や連続テレビ小説「わろてんか」、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』『ユリゴコロ』などの話題作で次々と新しいキャラクターに挑戦していた。彼が日本のエンターテイメント業界で愛される理由は一体どこにあるのか、出演作を通して探ってみたいと思う。

 

ミステリアスな色気を漂わせるダークヒーローに!演技の幅をさらに広げた最新作『不能犯』

 

『不能犯』(2018年2月1日 公開)©宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

 

彼の今年最初の実写映画における主演作は、人気コミックを実写化した『不能犯』。生まれも経歴も不詳で、赤く光る目で見つめるだけで人の心を操る宇相吹正(うそぶきただし)を演じている。物語は、都会のど真ん中で次々と変死事件が起こり、その犯行は誰かが電話ボックスに殺人依頼を残し、そのメッセージを受け取った男によるものだという噂が流れることから始まる。その男こそが宇相吹であり、彼を追う刑事の多田友子を沢尻エリカが演じている。追いつめた相手に対し「愚かだね、人間は」と呟き、不適な笑みを浮かべながら犯行を繰り返す冷酷な宇相吹を、いつもの爽やかさを封印して見事に演じている松坂。ドラマ「視覚探偵 日暮旅人」では研ぎ澄まされた視覚を駆使する青い瞳の探偵を演じていたが、今作では赤い瞳のダークヒーローに扮し、ミステリアスな色気を漂わせている。

 

『不能犯』(2018年2月1日 公開)©宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

 

宇相吹はマインドコントロールで人を死に追いやる人物ではあるが、犠牲者たちはみんな人間らしい心を失くした者ばかりというのも、この映画のポイントだろう。だからこそ観ているうちに“果たして悪とは?正義とは?”と考えさせられてしまうのだ。それは松坂の魅力的な演技があってこそで、“殺して欲しい”と依頼した人たちにも裁きを与える宇相吹こそ、世の中の“正義=ダークヒーロー”なのではないかとさえ思わせてくれるのである。『劇場版 MOZU』で演じた残虐非道な殺人鬼とはまた違うダークヒーローを演じたことで、さらに表現の幅が広がったと言える。

 

好青年なイメージからオネエ役、童貞教師役へ――様々な役に果敢に挑戦し、次々と新たな才能を開花

 

「ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編」(ブルーレイ&DVD 発売中) ©NTV

 

数年前までは好青年なイメージの役が多かった松坂だが、2015年の『日本のいちばん長い日』で演じた陸軍少佐役を筆頭に、それまでとは違ったタイプの役を演じるようになった。『ピース オブ ケイク』では多部未華子演じるヒロインの側に優しく寄り添うオカマの役を、そして2016年の『真田十勇士』では見目麗しい霧隠才蔵を、『湯を沸かすほどの熱い愛』では宮沢りえ演じる病気を抱えた女性が旅の途中で出会う好奇心旺盛な若者を、ドラマ「ゆとりですがなにか」では童貞の教師を演じており、実に様々な役柄にトライしているのがわかる。

中でも「ゆとりですがなにか」の童貞教師という役は、彼のようなビジュアルの役者が演じると寒々しいことになりかねないが、松坂はナチュラルな童貞臭を徹底的に醸し出すことで、ユニークで愛されるキャラクターを作り上げていた。前に出すぎるのではなく、演じる役柄の個性を最大限に生かして作品を輝かせてしまうのは彼の手腕とも言えるのではないだろうか。

二番手、三番手として作品にしっかりと爪痕を残した彼は、2016年に、三浦大輔が演出を手掛けた舞台「娼年」でまた新たな才能を開花させる。この作品には後ほど触れたいと思う。