Feb 09, 2018 column

今年は“セクハラ問題”が決め手?!社会情勢も大きく影響するアカデミー賞の歴史を振り返る

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映画ファンにとっても年に一度のお楽しみであるアカデミー賞。ここ数年、授賞式での社会問題の告発や政治的発言が話題になることが多い。今年はセクハラ問題が波紋を広げているので、例年以上にスピーチに注目が集まりそうだ。受賞作品も、その年の社会状況や政治から大きな影響を受けるアカデミー賞。映画の祭典という枠を超えて、社会をも動かすアカデミー賞の歴史や意義を改めて確認し、今年の授賞式への期待を高めたい。

※記事中の年代は授賞式が開催された年

 

2017年は痛烈な“トランプ批判”“白すぎる”人種問題で、受賞作にも影響

 

映画業界で最大のイベントともいえる、アカデミー賞授賞式。昨年(2017年/第89回)は、クライマックスでの作品賞発表で、作品名が間違ってアナウンスされるというアカデミー賞史上にも残るハプニングが起きたが、それ以上に目立ったのが、誕生したばかりのトランプ政権への痛烈な批判だった。もともと民主党支持層=リベラル派が多いハリウッドなので、これは自然な流れ。司会者のジミー・キンメルは授賞式のステージ上からトランプにツイートし、ガエル・ガルシア・ベルナル(メキシコ出身)らプレゼンターも堂々とトランプの政策に反対を表明。『セールスマン』で外国語映画賞を受賞したイランのアスガー・ファルハディ監督は、アメリカへの入国を拒否して、授賞式を欠席した。女性蔑視のコメントが相次いでいたトランプに対し、授賞式に出席した女性たちがブルーリボンを付けて抗議の姿勢を明らかにするなど、アカデミー賞全体でトランプを批判したのだ。

そんな社会情勢にも後押しされ、昨年の作品賞に輝いたのが『ムーンライト』だった。主人公は黒人でゲイの青年。人種や性的指向の“多様性”を象徴しており、何かと白人至上主義をちらつかせたトランプへの反対表明ともなった。人種問題は、すでにトランプ政権誕生前にアカデミー賞を騒然とさせていた。2015年、2016年と2年連続で演技賞候補が白人俳優で占められていたからだ。“白すぎるオスカー”への反省か、昨年は助演男優賞と助演女優賞の受賞者がともに黒人俳優という結果になった。偏見や差別への反対表明が、演技の評価を決める…というのもどうかと思うが、その時代の社会情勢が大きく反映されることにも、アカデミー賞の意義がある。

 

ベトナム戦争、賛否両論の名誉賞、ブッシュ政権への抗議――社会問題・政治が絡んだオスカー授賞式の歴史

 

政権批判や人種差別、女性の地位など、ここ数年、受賞者やプレゼンターが壇上で率直に話すケースが目立っている。数年前までは、この姿勢はタブー視されることもあった。政治的発言は、俳優の仕事を危うくする面もあったからだ。その例が、1978年(第50回)、『ジュリア』で助演女優賞を受賞したヴァネッサ・レッドグレーヴだ。「パレスチナ人と反ファシストのために戦う」と公言していた彼女は、受賞スピーチでもユダヤ人の一部を堂々と批判。会場の外では「ヴァネッサは殺人者」と抗議する団体が暴れるなど、騒然とした授賞式となった。ユダヤ人が多いハリウッドにとって、ヴァネッサは危険な存在となり、その後、彼女への出演オファーは激減した。

それに先立つ1973年(第45回)には、『ゴッドファーザー』で主演男優賞を受賞したマーロン・ブランドが、授賞式を欠席。その2年前も『パットン大戦車軍団』のジョージ・C・スコットが主演男優賞受賞を拒否したが、彼は単にアカデミー賞自体に否定的な考えだっただけ。ブランドの場合は、アメリカ先住民への差別への抗議をアピールし、自分の代理に先住民の女性にオスカー像を受け取らせたのだった。このように1970年代はベトナム戦争などの影響もあり、アカデミー賞授賞式では政治的発言が多い時代だった。

その後、物議を醸した例といえば、1999年(第71回)、『エデンの東』などのエリア・カザン監督の名誉賞受賞。通常、名誉賞は会場全体がスタンディングオベーションを贈るのだが、この時、場内の約半分は座ったまま。受賞への無言の抗議だった。カザンはかつて、ハリウッドの赤狩りの際に共産主義思想の疑いのある仲間の名前を司法取引で告白。自分だけ赤狩りの対象から外れようとした行為は、ハリウッドの “黒歴史”として語り継がれた。そんな裏切り者を賞讃できない人が多数いたのである。

また、近年の政治的発言のきっかけを作った例では、マイケル・ムーア監督が有名。2003年(第75回)、『ボウリング・フォー・コロンバイン』で長編ドキュメンタリー賞を受賞した彼は、イラク空爆を開始したアメリカ政府に抗議し、「ブッシュよ、恥を知れ!」と叫んだ。場内からブーイングも起こり、ムーアはその後、様々な脅迫も受けることになるが、彼の勇気には好意的な論調も多かった。

さらに記憶に新しいところでは、2015年(第87回)、『6才のボクが、大人になるまで。』で助演女優賞を受賞したパトリシア・アークエットのスピーチ。ハリウッドでも男優と女優のギャラに格差があるように、いまだに残る性差別に対し、「女性の給与と権利に関して完全に決着をつけたい」と発言。女性の出席者たちから大歓声を受けた。このパトリシアのスピーチが、現在のセクハラ、「#Me Too」問題への布石のひとつとも考えられる。