Aug 10, 2019 mekiki

ジャズ作曲家・挾間美帆のクラシック遍歴(後編)

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狭間美帆はすごく面白い時期にある

挾間美帆は出てきたころから完成されているような音楽家だった。デビュー作『Journey to Journey』の時点で完成度が高くて、誰もが驚いた。ただ、あくまで「完成度」=クオリティーの話であり、彼女の音楽は「完成」したわけではない。一枚ごとにサウンドに変化があるし、彼女自身も一枚ごとに変化を語る。信じがたいことだが、ここまでの音楽を生み出していても、彼女にとってはまだまだ発展途上なのだ。

それにここ数年、メトロポール・オーケストラやWDR、DRビッグバンドなどヨーロッパの名門ビッグバンドとの仕事をはじめ、シエナ・ウィンド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスに就任したり、その仕事の幅もスケールもどんどん大きくなっていった。その延長上に、DRビッグバンドの首席指揮者への就任がある。

挾間美帆という名前で自身のバンドを率いて自身を表現するような作品を作るということだけでなく、さまざまな場所からオファーを受けて、与えられたテーマにもとづいて曲を書いたり、編曲をしたり、指揮をしたりということに関しても、設定されるハードルがどんどん高くなっていたのは想像に難くないが、それらもなんなく成功させている。

2018年の『Dancer in Nowhere』を聴いたときに僕は今までの彼女の2枚の作品に比べて、キャッチ―で、エモーショナルで、時々抽象的だなと思った。インタビューで彼女は「言葉にできないような感情を音楽で表現したい」というようなことを言っていた。『Dancer in Nowhere』にはこれまでのような彼女らしいハーモニーを駆使した色彩の豊かさやテクスチャーや奇数拍子を駆使したリズムなどよりも、そこに宿る情感を表出させたようなサウンドが印象的だった。バンドメンバー個々の演奏がそれぞれの声でそれぞれの主張を携えて迫ってくるようなパワフルさをもっていたのもこれまでの彼女の作品とは違っていた。デビュー時から挾間美帆には確固たる音楽性がある。でも、今の彼女は時にそこから離れたり、時に自身のイメージを突き崩したりしながら、もう一つ上の領域を目指しているように感じた。

つまり今、オファーにふさわしい仕事を積み重ねる部分と、自身の殻を破るようなチャレンジをしている部分が並行して進化している。例えば、長年の夢だったという自身のオリジナルの「シンフォニック・ジャズ」を書き、それを東京フィルが演奏するコンサートでは、彼女が積み上げてきたものが反映されるだけでなく、そこには今、彼女の中に蠢いているチャレンジングなマインドがもたらす閃きのようなものがどこかに鳴るのかもしれない。このインタビューでワーグナーやマーラーについて楽しそうに語っていたり、取材の合間にブラッド・メルドーの(これまでの彼にはなかったエモーショナルさを感じさせる異色作でもある)新作『Finding Gabriel』を聴きまくってた話をしていたり。今、挾間美帆はすごく面白い時期にあると、僕は感じている。

文/柳樂光隆
撮影/森山祐子

公演情報
NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇

コンサート全体の構成をプロデュースするのは、ニューヨークを拠点にワールドワイドに活躍するジャズ作曲家の挾間美帆。ジャズ界で最も権威のある米・ダウンビート誌が特集した”未来を担う25人のジャズアーティスト”において、アジア人で唯一選出されたジャズ界の逸材だ。今回の公演では、第一部でシンフォニック・ジャズの偉大な先達ガーシュウィンとバーンスタインの作品、さらにそのふたり以降の重要人物クラウス・オガーマンとヴィンス・メンドーサの作品を採り上げる。

会場:
東京芸術劇場コンサートホール
日時:
2019年8月30日(金)19:00開演(ロビー開場18:00)
※18:40から狭間美帆によるプレトーク開催
問い合わせ:
東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 (休館日を除く10:00-19:00)

公式ホームページ:http://www.geigeki.jp/performance/concert183/

柳樂 光隆

1979年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。元レコード屋店長。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本『Jazz The New Chapter』シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。ライナーノーツ多数。若林恵、宮田文久とともに編集者やライター、ジャーナリストを活気づけるための勉強会《音筆の会》を共催。

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