Aug 09, 2019 mekiki

ジャズ作曲家・挾間美帆のクラシック遍歴(前編)

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コンポーザーの脳みそを持つ演奏家!?

――「一人で演奏できるオーケストラのようにピアノを弾く人」って例えば、誰ですか?

クラシックで言うと、マルタ・アルゲリッチ。解釈がぶっ飛んじゃってて、彼女はソリストであるべき人だなと思うんですよ。そして音色がすごい輝いているということ、どっからそのパワーが出てくるかわからないくらいの低音を鳴らしたりできるということ、オーケストラ75人対1人となっても絶対に負けない迫力があることなど、ソリストとしての要素を兼ね備えた人だと思う。

ジャズで言うと、わかりやすいのはハービー・ハンコックですね。音色がすごく打楽器っぽいところに特徴があると思います。ドレミファソって弾いただけであれだけグルーヴできるってなかなかいない。ジャズに一番必要なのはグルーヴだと思うので、ただ単にドレミファソって弾いたときにどれだけグルーヴが出るかは大きな違いです。なおかつハンコックは音色の幅もすごく広くて、アルバムひとつひとつでなんでこんなに違う音がするんだろって思ったり。彼は自分自身をプロデュースする術をよくわかっているから、アルバムや曲に対しての弾き方のアプローチが違ったりするんです。

――なるほど。

クラシックなんですけど、庄司紗矢香の伴奏をしていたイタマール・ゴランは高校生の頃、大変に感銘を受けたピアニストです。私は高校生の頃はサックスやヴァイオリンの伴奏をしたり、大学の時はサックス、ユーフォニアム、フルート、パーカッション、ヴィオラの伴奏を担当したりしました。伴奏ってオーケストラのリダクション(※オリジナルのオーケストラ・スコアを簡単に直したピアノ・スコア)を演奏しなきゃいけないことも多々あるんです。「ピアノの譜面にこう書いてあるんだからこうやって演奏しよう」ってただ単に弾くピアニストではなく、リダクションされた単なる2段譜から「これはフルートが原曲を演奏しているからこういう音色で演奏しようとか」「これは本来ならばスネアとバスドラが入ってて、すごくリズミカルなところだからこういう風に演奏しよう」とかをたった2段の譜面から読み取れるピアニストとして考えた時に彼の解釈は本当に素晴らしくて、憧れていました。

――そのエピソードはすごく挾間美帆っぽいですね。以前から自分のバンドには「譜面を見たときに自分の出すべき音が全体のサウンドの中でどういう意味や役割を持っているかを理解したうえで演奏できるプレイヤーが望ましい」と言ってましたよね。

私の脳みそは完全にコンポーザーとしての脳みそなんです。その譜面がもともとどういう風に書かれていて、どういう風にリダクションしたからこういう状態になっているから、伴奏するときに「ここは私が出しゃばっていいところ」とか「ここは伴奏でも自分が主役のところ」とかあるわけですよ。ここは絶対「こういう風に支えるべき」とか「こういう風にリードするとリズム感が出る」とか「逆にここはリズム感を出してはいけない」とかコンポーザーとしての脳みそで伴奏をするわけです。大学では作曲科の生徒にピアノ伴奏を頼む人も多かったですね。作曲科にいる、私のような脳みそでピアノを弾く伴奏者と「アンサンブル」するほうが、演奏しやすかったからじゃないかな。ということを踏まえるとイタマール・ゴランは神のような人で、彼の存在も含めて、庄司紗矢香のファンだったんです。

――なるほど。

最近、仕事をして感動したのは山中惇史くん。高嶋ちさ子さんのプロジェクトとか、松本蘭さんとか、上野耕平くんの伴奏とかしています。彼は東京藝大の作曲科を出て、大学院でピアノ科に入り直しています。だから、彼は同じ脳みそでピアノを弾いていることがよく伝わってきます。彼は譜面も書けて、作曲もできるので、今すごく注目しています。

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