Apr 21, 2017

インタビュー

直木賞・芥川賞 Wノミネートで注目を集める作家・宮内悠介インタビュー!新作は<20世紀最大の環境破壊>の現場から生まれたエンタメ小説

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やっと“思考実験”が物語に
結びついてくれた気がします。

 

──他民族が共存する文化や歴史背景やアイディンティティを考慮しての執筆は難しいことだと思いますが、若い時期にニューヨークという多民族都市で暮らした経験が、活かされている部分もありますか。

その可能性は高いです。ニューヨークはアメリカの中でもかなり特異的な場所だと思いますが、そこの多民族都市に自分を受け入れてもらった体験があります。ですので、排外主義が高まっている今も、彼らを信じる気持ちが心の中にあったりします。

──実際に“他者である自分を受け入れてもらえた”という経験って大きいのでしょうね。後半以降は、その実感が絵空事ではない確かな希望として本作の軸になっていると感じました。文中で「国体と信仰と人権の三権分立を確立したい」というアイシャの言葉が印象的でしたが、これは宮内さんが考えている理想的な国家の在り方に近いものだったりしますか。

この三権分立は、前に自分が考えていたことではあります。もっともひとつの理念ではありますが、実際にそれを実現しようとしたら国家はディストピアになると思います(笑)。もちろん、そうはならないような方法はないだろうかと考えてきたわけですが。ところで、これまで自分は理屈に偏りがちといいますか、頭の中だけで話を作りがちな傾向がありました。でも今回は(本作で)ようやく思考実験が物語に結びついてくれた気がしまして、それを嬉しく思っています。

──表現の種類がさまざまある中で、なぜ小説を書くという表現の手段を選ばれたのでしょうか。

私の場合、現体験が綾辻行人とドストエフスキーでして、何故この二人なのかと言われると、「たまたま読んだから」としか言えないのですが、高校の頃に読んで自分も真似をして書き始めたことがきっかけでした。なぜ小説だったのか真面目に考えてみますと、小説を書き続けるうちに、いつしか“自分は書かなければいけない”とプログラムされてしまっているようなもので、他にどんな理由を挙げても嘘になるような気がします。最初は衝動があって、いろいろな理由があったと思いますが、衝動はやがて執念になり、執念は本能になり、という感じです。

──さまざまなテーマやジャンルの小説を書かれていますが「基軸はSFにある」とおっしゃっていましたよね。宮内さんにとってのSFとはどんな定義ですか。

私は20歳頃から小説の投稿を始めまして、ずっと一次落ちを繰り返していましたが、初めて見出してもらえたのがSFという世界でした。それはひとつには自分に合っていたということがあると思います。ですから、ひとつの軸としてSFがあります。SFの定義については、これまでさまざまな論争があるので、なんとなくはばかられます。

──ご自分の定義、もしくはイメージをお伺いしたいです。

ものすごくシンプルに私がイメージしているものは、最小のロジックによって最大のワンダーを得られる小説という感じでしょうか。勝手にロジック・リアリズムと呼んだりしています。もちろんさまざまなものがありますが、今回の場合は環境改変ないし、ある意味でのテラフォーミング。地球でテラフォーミングとは、これいかにという感じですが。それから歴史改変の要素が入っています。

──確かに、『あとは野となれ大和撫子』は内紛の地で平和な共同体を目指す“テラフォーミング”でしたね。では、最後に影響を受けた本、もしくは宮内ファンにおすすめの1冊を教えていただけますか。

これは専門書でもいいでしょうか。ファンにお勧めの一冊ということで、文庫にもなっていますので『「無限」に魅入られた天才数学者たち』(アミール・D・ アクゼル (著)、青木 薫 (翻訳)/早川書房)という本を挙げたいです。私自身がひとつのテーマにのめり込むタイプの人間ですが、私以上に何者かに取りつかれた人々とその先の地平が描かれている気がします。連続体仮説という、無限に関する式が出てくるのですが、それは今の数理体系では証明不可能ということも証明されてしまった。ただ、それを追い求め続けて、表現が適格か分かりませんが、それこそ狂わんばかりに無限を追い求め続けた人がいて……という内容です。

(文・取材・撮影:OtoCoto編集部)

 

 

プロフィール

 

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宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)

1979年、東京生まれ。1992年までニューヨーク在住、早稲田大学第一文学部卒。在学中はワセダミステリクラブに所属。2010年、囲碁を題材とした『盤上の夜』で第1回創元SF短編賞の最終候補となり、選考委員特別賞である山田正紀賞に輝く。さらに第147回直木賞候補となり、第33回日本SF大賞を受賞。第二作品集『ヨハネスブルグの天使たち』も第149回直木賞候補となり、第34回日本SF大賞特別賞を受賞した。『カブールの園』では第156回芥川賞候補になり話題を呼んだ。

 

作品紹介

 

【正】あとは野となれ~書影

『あとは野となれ大和撫子』宮内悠介

直木賞・芥川賞ダブルノミネートで最注目の新鋭作家が挑む、超王道冒険エンタメ!

かつて中央アジアに存在した海。かつてアラル海と呼ばれたこの場所は、いまでは干上がって塩の沙漠となったアラルスタンという国だ。だが大統領が暗殺されて崩壊寸前の国に残ったのは、うら若き後宮の少女たちのみ。両親を紛争で失った日本人少女のナツキたちは、生きる場所を守るため「とりあえず、国家やってみよう」と自分たちで臨時政府を立ち上げる。

出版社: KADOKAWA

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