Apr 28, 2017

インタビュー

アカデミー賞ノミネート監督・堤大介とイングレスの川島優志 世界が注目するクリエイター対談が実現、被災地への想いを語る。

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“その場所だからこそ起こりうる何か”って、すごく大事ですよね。(川島)

 

──『ダム・キーパー』や『ムーム』といった作品が今回東北で展示されるのは意義深いですね。でも特に震災を受けて作った作品ではなかったとか。

 それがまったく考えてなかったです。でも日々僕らが生きて行く上で直面していることを描いたつもりですが、ダムの向こうから襲ってくる黒煙を海のように描写しているので、そう思われる方が多いのかもしれません。『ダム・キーパー』は主人公の心の中の闇をせき止めてダムが壊れてしまったという話なので、そうすると普通の生活にもあてはまる話でもあるし「震災がテーマですか?」と聞かれることも少なくありません。観る人によって捉え方が変わってもいいと思っています。

川島 実際『ムーム』も捨てられてしまったものや、失われたものの思い出がテーマになっていて、とても切ないけれど感慨深いお話なので、現地で上映されたら、すごく感動される方が多いんじゃないですかね。

 

©︎Tonko House Inc.

©︎Tonko House Inc.

 

──そう考えると、おふたりはそれぞれ違うフィールドではありますが、エンターテイメントを通じて、現実世界と人や記憶をつなぐ作品で社会に変化をもたらすという共通項がありますね。

川島 僕がすごく面白いと思ったのは、堤さんが最初の頃にやってらした『スケッチトラべル』という作品があったじゃないですか。まず堤さんが好きなアーティストの方にスケッチブックを手渡して、その人がスケッチブックに絵を描いて、その後はまたその人が描いてほしい人に次々スケッチブックを手渡していくんですよね。結局スケッチブックは、世界中を回って、最後には宮崎駿さんにも描いていただいて、それで出来たスケッチブックをイラストレーションにして販売し、そこでの収益を使って図書館を建てるというプロジェクト。

 実物のスケッチブックをベルギーのオークションで売ったら、日本円で1000万円くらいの金額になり、それを画集として、日本語、英語、フランス語、中国語で出版して、その収益も一緒にまとめて、図書館を作っている国際NGO「ルーム・トゥ・リード」と提携して、今の時点でアフリカと東南アジアに合計8か国に、図書館を8軒建てることができました。

川島 それが本当にすごいなと思って。特にいいなと思ったのが、スケッチの受け渡しは郵送ではなくて、実際にアーティスト同志が会って手渡すというルールです。フレデリック・バック(『木を植えた男』)、エリック・ティーメンス(『スター・ウォーズ』)、ジョン・ハウ(『ロード・オブ・ザ・リング』)、宮崎駿や松本大洋という、ものすごい大御所のアーティストの方たちが。

──作品を越えて、現実世界で人と人が出会ったり、ドラマが起きているという点ですね。

川島 僕は、実際の街を歩くことでプレイする拡張現実ゲーム「イングレス」をやっていますが、「イングレス」は自分が持っているアイテムをプレイヤー同士のメールでは送れない設定なんです。そうするとすごくいろいろなドラマが起こっています。感動的だったのは、イスラエルとレバノンという国交を斬絶している戦争中の国にそれぞれ住むプレイヤーたちが、なんとかお互いに平和のメッセージを送りたいと考えて、国境をまたぐようなリンクを作ろうとしました。でも、それを作るには、まずポータルの鍵を渡さなくてはいけない。でも、両国は国交を断絶しているので、お互いの国には入国できない。だから鍵を渡すために彼らはイスラエルでもレバノンでもない第三カ国に行って実際に落合ったんですよ。『スケッチトラベル』もただ郵送して送るのではなくて、実際に会って渡したことで、すごくドラマチックになっているなと感動し、ブログにも詳しく綴りました。これからはそういうリアルな場所や体験みたいなものが、ますます大事になっていくと思うんですよね。

 

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 そう思います。なので今回は、仙台のイベントは上映会とトークショー、石巻ではトークイベントに加え、美術館でツアーなどもやりました。 前回銀座の展覧会でもやったのですが、僕らが美術館で実際に壁に絵を描いて、展示物を付け足していきました。今、展覧会が始まって1か月くらい経ちますが、ずっと同じ展示ではなくて、途中で展示物が変わるという風にしたいなと思っています。僕らの絵が壁に描かれたりしたり、でもイベントが終わったら解体されてしまうのも、それでいいと思っていて。そういう「いま・ここ」だけのライブ感のある展示になればいいなと思っています。展覧会は6月末までですが、6月にまた、石巻の石ノ森萬画館でイベントをやろうと思っています。

川島 “その場所だからこそ起こりうる何か”って、すごく大事ですよね。是非多くの人が、その場を訪れて、その目撃者になってくれたらいいなと思います。石ノ森美術館がある場所は島になっていますよね。ちょうどナイアンティックが最初の被災地支援イベントを開催した時に、現地の人と協力して、津波で流されてしまった劇場や教会などの建物をゲームの中で蘇らせるという試みをした場所です。その場所に行って「イングレス」を開くと、あたかもそこにあるかのように建物の写真が出てくるような体験ができるという、記憶のポータルを作ったんです。「ポケモン GO」でも “記憶のポケストップ”になっているので、こちらも是非現地に行った人はチェックをして、そこにかつて何があったのかをその場所で感じる、という現地でしかできない体験をしてみてほしいなと思います。

 今のお話を聞いていても、ナイアンティックのコンセプトって可能性が無限にあって、本当に面白いですよね。すごくわくわくしました。いずれ何らかの形でコラボが出来るといいですよね。

川島 ぜひぜひ。

 

取材・構成/otoCoto編集部
撮影/田里弐裸衣

 

プロフィール

 

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【左】堤大介(つつみ・だいすけ)

1974年、東京生まれ。School of Visual Arts卒業。Lucas Learning、Blue Sky Studioなどで『アイスエイジ』や『ロボッツ』などのコンセプトアートを担当。2007年ピクサー入社。アートディレクターとして『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がけた後、2014年7月にピクサーを退社し、トンコハウスを設立。71人のアーティストが1冊のスケッチブックに絵を描いて、世界中に回したプロジェクト「スケッチトラベル」の発案者でもある。今夏にはHulu ジャパンで第87回アカデミー賞 短編アニメ部門にノミネートされた『ダム・キーパー』のスピンオフ作品をリリース予定。現在は『ダム・キーパー』の長編版の制作に余念がない。

【右】川島優志(かわしま・まさし)

1976年、横浜生まれ。早稲田大学在学時に、当時の最新技術を駆使しCD-ROM『A/D』を作成。その後、大学を中退し、2000年に単身アメリカへ。紆余曲折を経て、2007年8月Googleにウェブマスターとして入社。UIデザインやウェブサイト構築を手がけ、2008年アメリカ人以外では世界で初めてGoogleホリデーロゴ(Doodle)をデザインし、以降『0系新幹線のラストラン』『ドラえもんの誕生日』や『江戸川乱歩の誕生日』など多数のロゴをデザインした。2013年Google社内スタートアップのNiantic Labsに UX/Visual Artistとして移籍。2015年、Googleから独立。Niantic Inc. 設立に伴い、Director of operations, Asia (アジア統括本部長)に就任。

 

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第65回特別企画展 トンコハウス展「ダム・キーパー」の旅(6/25まで開催中)

会 期:2017年6月25日(日)まで
時 間:9:00~18:00 (※入場は閉館時刻の30分前まで)
U R L:http://www.mangattan.jp/manga/exhibition/7331/
会 場:石ノ森萬画館 2F企画展示室
休館日:第3火曜日
観覧料:大人800円/中高生500円/小学生200円/未就学児無料(常設展観覧料含む)

「トンコハウス」は、堤大介氏とロバート・コンドウ氏の二人が設立したアニメーションスタジオ。ピクサーでアートディレクターとして、「トイ・ストーリー3」や「モンスターズ・ユニバーシティ」のアートワークを手がけた二人が、純粋につくることを楽しみ、チャレンジし続ける環境を求めて2014年に新たなスタートを切り、2013年初めて監督としてゼロから制作に挑んだ「ダム・キーパー」は、2015年のアカデミー賞にノミネートされ、日本でも大きな話題となりました。世界各地の映画祭で20以上の賞を受賞し、ベルリン国際映画祭をはじめ各国の映画祭で公式出品作として多数上映されるなど、世界から高く評価されています。

「『ダム・キーパー』の旅」と題した本展では、短編「ダム・キーパー」のキャラクターデザインやマケット、背景やストーリー設定などのアートワークを中心に、広がり続ける「ダム・キーパー」の世界を紹介。昨年、東京銀座で世界初開催された展覧会をベースとしながら、世界8カ国の映画祭で24もの賞を受賞した最新作「ムーム」コーナーの拡張や、「ピッグ-丘のダム・キーパー」やグラフィックノベルなどの新たなプロジェクトの展示も追加。また、日本が誇るイラストレーター、上杉忠弘氏とトンコハウスとの間で進行中のコラボレーションの作品も初めて公開。

■『ダム・キーパー』予告編

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