Mar 09, 2018

インタビュー

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』『漫画 君たちはどう生きるか』次々とベストセラーを生み出す編集者の仕事術

ベストセラー小説、古典文学、ビジネス書、学術書――。どの本にも、本を形にして世に送り出す“仕掛け人”が必ずいる。時には、著者を支えるパートナーであり、時には、デザインや宣伝、販売戦略を練るプロデューサー、そして本と読者をつなげる橋渡し役でもある「編集者」という仕事。
株式会社コルクの佐渡島庸平氏は、今まさに過渡期を迎えているコンテンツ業界で、<次世代編集者の旗手>として注目されている一人。これまで小山宙哉、井上雄彦、三田紀房、安野モヨコ、羽賀翔一ら、数多くのヒット作を生み出してきた佐渡島氏に、これまでいかにして個性豊かな作家と共にベストセラーを生み出してきたのか、そしてこれからのクリエイターや編集者には必要なものは何か、じっくりと話を伺いました。

 

──「世の中で、本しか好きなものがなかった」という想いで、大学卒業後には講談社に入社された佐渡島さんですが、入社後、どんな作家の方を担当されたのですか。

まず『モーニング』に配属されて、井上雄彦さんと安野モヨコさんの担当になりました。当時の僕は、小説家なら村上春樹さん、漫画家なら井上雄彦さんが世界で一番好きな作家だったんです。井上さんの『バガボンド』も講談社だし、村上さんの新作も講談社から出ることが多かったので、「万が一、お会いできたら……」と思っていたら担当になれたわけですからね。アイドル好きの人がアイドルと結婚できたようなもので(笑)、すごく嬉しかったですね。

──井上先生は新入社員の佐渡島さんにも対等にお話されたとか。

井上さんは誰に対してでも対等です。それが一流ということなんでしょうね。でも、対等であるがゆえに、こちらにもプロであることを求めました。井上さんとの打ち合わせの中でたくさんのことを学ばせていただきました。入社半年後で担当になった三田紀房さんも僕に「物語を作るとは何か」などいろいろなことを教えてくれました。

──『ドラゴン桜』は具体的に、どのようにストーリーを作っていかれたのですか?

『ドラゴン桜』は『クロカン』の受験版なんです。三田さんは高校生が頑張るところを描くのが得意なので、それを受験でやろうということですね。ストーリーには僕の受験の経験も反映されています。三田さんから「佐渡島はどうやって英語勉強していたの?」「数学は?」と聞かれるのでいろいろ喋っていると、「あ、それ面白い! それで行こう!」と言ってくれる。それを繰り返していくうちに、僕も「あ、こういうことは物語に使えるんだ」と学ぶんですよ。すると、僕が一人で取材をしていても、「このネタを持っていったら三田さんは喜ぶな」「これはダメだな」ということがわかってくる。基本的に仕事って“相手のためにやるもの”だと思うので、恋愛と同じで、相手がいないときに相手のことを考えて、行動して、準備しておくことの積み重ねが大切なんだなと学びましたね。

 

 

削れるコマがひとつもない
『宇宙兄弟』小山宙哉のスゴさ

 

──『宇宙兄弟』の小山宙哉先生とは小山先生がデビュー前からのお付き合いなのですよね。小山先生のどのような点が優れていると感じましたか?

物語がしっかりしていて読みやすくて、何よりキャラクターが立っていました。『ジジジイ』の1話には死ぬほど脚が速いおじいさんが出てくるんですけど、こんな人は現実では絶対にいないんです。「でも、どこかにいるんじゃないか?」と思わせる説得力と存在感がある。『SLAM DUNK』の桜木花道も同じで、絶対にいないけど、どこかにいるような気がする。作家の素晴らしいところとは、人物を創造するところだと思うんです。母親が子を産むのと同じように、作家も人物を産む。村上春樹の小説に出てくる「ぼく」もどこかにいそうじゃないですか。

──まさに『宇宙兄弟』の六太と日々人もどこかにいそうなキャラクターですね。ほかに優れたクリエイターに共通していることってありますか?

長いページで物語を語り切れていること。たとえば、中身がしっかりと設計された60分の講演会ができる人ってほとんどいないんですよ。物語を破綻させず、無駄なコマを描かずに完成させるって、すごく難しい。文章も同じです。(村上春樹さんの)『風の歌を聴け』は何度も何度も繰り返して読んでいるのですが、わざといろいろな箇所で1行“ないふり”をして読んでみたことがあるんですよ。1行がなくなると全体にどんな影響を与えるのかと考えながら読んでみましたが『風の歌を聴け』はまったく削れないんです! 本当に無駄がありませんでした。『宇宙兄弟』も32巻ありますが、削ることができる無駄なコマが本当にありません。それだけ神経がすべてに行き届いている、本当によく出来た作品ですよ。

──「兄弟」という設定も人気の理由だったと思いますか?

作家には、出来るだけ家族や恋人などの親しい人との関係を描いてもらったほうがおもしろくなると思っているんです。作家は幼い頃から感受性が豊かなので、家族の人間関係にすごく敏感なんですよ。そこを「兄弟」に絞ってみると面白いかな、と思いました。小山さんに兄弟がいないことが大きかったです。

──兄弟が「いる」からではなく、「いない」ことがよかったのでしょうか。

そう。たとえば、親のことを描くと、架空の話でも親が「あのときのことかな?」と勘違いしてしまうかもしれない。悲しい話を描くと「そんな思いをしていたのか」と思われてしまう。「あの人はどう思うかな?」という気持ちがあると描きづらくなってしまうんです。でも、小山さんは兄弟がいないので、嫉妬のような感情も安心して描くことができます。小山さん自身が近しい人に感じている感情を、兄弟に投影して描いているんですよ。

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