Apr 21, 2017

インタビュー

大人の女性に成長した“少女たち”のための小説を。折原みと『幸福のパズル』ロングインタビュー

「スランプは真剣に仕事をしている証拠」

 

──こんな物語にしようと思って立てたはずのプロットの流れに、自身の心が納得いかなかった、ということでしょうか。

自分が納得できないと前に進めなくなるんです。ただ再会して、よりを戻す、では納得ができない。では、どうすれば納得できるのか。どんな展開にしていけばいいのか。物語も終盤になって、再びそこで詰まりました。
この作品を書いている間はスランプになったり煮詰まったりして、自分でも不安になりました。「こんなに時間をかけちゃっていいのかなあ……」と。本作に取り組んでいる間は他の仕事を後回しにさせていただいてもいたので、時間がかかればかかるほど、どんどん不安になっていって。
そんな時期に、題名は忘れてしまったのですが、あるTVドラマを観ていて、こんな台詞が出てきたんです。「スランプは真剣に仕事をしている証拠」。ああ、そうなんだなあ、と、すとんと腑に落ちました。こんなにも煮詰まっているということは、それだけこの作品に真剣に取り組んでいるからなんだなあ、と思えたんです。 これまでにたくさん書いてきた、もっとライトな、主人公の一人称視点での小説――そんな内容にしていたら、ここまで苦しんではいなかったし、もっと早く完成していたはず。でも、そうではないものを書きたかった。もっとステップアップしたかった。そう思っているからこそ、この小説にはこんなに時間がかかって、てこずっているんだ、ということに気がついて。それで覚悟を決めたんです。

──みちるのように、ですか。

ええ。今までの自分に納得できないものを納得できるように。みちるが逆境によって人間として、作家として成長したように、私も本作を書き切ることで成長したいと思ったんです。焦っても仕方がない、腰を据えてじっくりとやろう、と。
そうしてプロットを見直して、自分でも納得できる展開を探していきました。

──優斗の婚約者である愛花や、みちるの妹のはるか、みちるの先輩作家にしてライバルの上條麻耶など、憎まれ役にあたるキャラクターたちが共感をもって描かれていて、彼女たちそれぞれの物語にも興味をそそられました。

各人物の視点で描いているときは、その人がいちばん好きになっていましたね。実はプロットの段階では、愛花はイヤな女性だったんです。さながら『奪い愛、冬』の水野美紀さんのような(笑) だけど、私にはそういう人はどうしても書けなくて、やっぱり自分の好きな人間しか書けないんです。

 

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──結果的に愛花は、とても魅力的な女性となっていますね。

優斗と別れざるを得ない役回りであっても、「(愛花が)かわいそう」ではなくて、むしろ「(愛花が)カッコいい」となるような振られ方にさせてあげたくて。憎まれ役や損をする役割のキャラクターたちを、主人公の幸せを引き立たせるためだけの存在にはしたくなかったのです。

──それは龍一にしてもそうですね。包容力があって穏やかで優しくて、あらゆる点で優斗と対照的な男性の龍一は、ともすればヒーローであるはずの優斗以上に魅力的に感じられました。

御曹司でイケメンで人格者で、そつのないようでいて、実は優斗はバカなんです(笑) 愛花からも龍一からもヒロさんからも、それを指摘されていますね。最初の、高校生だった頃の彼は、いかにも優等生的なヒーロー然としていて、自分でもそんな自分が嘘っぽいな……と、うすうす感じていて。だから海に向きあっているときだけ素に戻れていた。それを見抜いたのが、みちるだったんです。

──だけど、みちるはそれに無自覚ですね。自分が優斗の本質を見抜いているということに。

そうですね。ただでさえ自尊感情が低いので、優斗から好意を向けられても、なかなか信じることができない。「こんなに完璧な男性が私なんかを好きになるはずがない」と。また、優斗からしても、どうしてこんなにもみちるのことが好きで好きで仕方がないのか、自分でも分からないわけで。
愛花に別れを切り出す場面――そこもまた悩みどころだったのですが――そこでようやく優斗は、自分自身の言葉でみちるへの想いを語って、そうすることで自分の心にも気がつくことができて。優斗にとって、みちるは、彼の心に欠けていた大切なピース。みちるの存在があってこそ、本当の自分になれるんですよね。優斗が、ホテルの後継者としての責任やモラルのせいで押し殺していた気持ちを、最後の最後でやっと解放するシーンが自分の中ではツボです。

──完璧な男性のように見えていた優斗が、実は登場人物たちの中で、いちばん最後に成長するというのがまた……。

そうなんです。先に話した、再会した2人がよりを戻すというプロットに納得ができなかったのは、その時点では、みちるの成長に優斗が追いついていなかったからという理由もあったのだな……と、後になって思い当たりました。

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