Apr 21, 2017

インタビュー

大人の女性に成長した“少女たち”のための小説を。折原みと『幸福のパズル』ロングインタビュー

現在30代から40代の女性の多くが、思春期の頃、この人の作品にふれた経験があるだろう。『時の輝き』に代表される少女向け小説をはじめ、児童向け小説、絵本、エッセイ、そしてマンガと、多岐にわたって活躍し続ける折原みとさん。
小説家となって30年目となる節目の年である2017年、長編小説『幸福のパズル』を上梓。さまざまな困難に見舞われ、すれちがい、引き裂かれ、離れ離れになっても、なお相手の幸福を願い続ける男女の姿を描いた、王道にして直球のメロドラマだ。
純愛ものが成立しづらい今の時代にあえて純愛小説を書くということ、そして恋愛小説を通して表現したい世界観、“自身にとっての書くこと”とは何か、じっくりとお話を伺いました。

 

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“とことん悩む主人公”を
じっくり書いてみようと思いました

 

──『幸福のパズル』は、運命的に出会った男女の7年間にもわたる紆余曲折を描いています。恋愛小説であると同時に、仕事小説でもあり、群像劇でもあり、主人公のみちるが少女から大人の女性へと変化していく過程を綴ったビルドゥングス・ロマン(教養小説)の趣きも感じられました。

今どきあまりない純愛小説を書いてみませんか? と、提案されたことが、そもそものきっかけでした。ひとりの女の子が2人の男性から愛される、ドラマチックな純愛物語を。

言われてみたら、最近そういうストレートな恋愛ものって小説に限らず、TVドラマでも映画でもあまりないような気がして、逆に新鮮なんじゃないかと思ったんですね。自分でもそういう作品を読んでみたいな、書いてみたいな、という気になって、ならいっそのこと昔の大映ドラマのような内容にしてみよう、と考えました。 主人公に次から次へと困難が降りかかってくる、そんなプロットを楽しみながら立てたまではよかったんですが、いざ書きはじめてみると想像していた以上に大変で、とても時間がかかりました。当初の予定では数ヶ月間で完成させるつもりだったんです。それが3年間もかかってしまって。1つの作品に、こんなに時間がかかったのは初めてのことでした。

──本作はさまざまな人物の視点による三人称形式という、これまでの折原みと作品には見られなかった構成を採られていますね。

そうですね。少女向け小説を書いていた頃は、読者が主人公に感情移入しやすい一人称や、主人公視点の三人称という形を採っていました。だけど本作は登場人物が多いので、ひとりの視点だけではとても書き切れないということが分かっていたので、章ごとに、その章での中心となる人物の視点での三人称形式としたんです。そうすることで、各キャラクターそれぞれの言い分というか、事情を公平に描けることにもなるので。
ただ、こういう書き方は初めての試みでしたので、てこずりました。執筆に時間がかかってしまった理由の一つでした。

──理由の一つということは、他にも苦しんだ点があったのですね。

前半は順調に書き進んでいったのですが、みちると、その恋人の優斗が別れるあたりで、筆が止まってしまったんです。物語はその後、みちるが深刻なスランプに陥って小説を書けなくなっていく……という展開になるのですが、書きながら自分も同化して書けなくなってしまったんです。
私は小説を書くときは、いつも主人公になりきるタイプなんですが、今回は主人公であるみちるが作家である点や、舞台が葉山であることなど、自分自身の職業や生活空間そのものが彼女と一緒なんです。なので、筆が順調なときは楽しくおもしろく進んでいくのですが、みちるがスランプになったら私までスランプになるという……そこから抜け出すまでに時間がかかりました。そこもみちると一緒でした(笑)

 

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──女性であること、小説家であること、海辺の町に住んでいること。さまざまな点で共通点のあるみちるは、ご自身の分身的キャラクターなのでしょうか?

共通点はありますが、分身というのとは少しちがうかもしれません。私がこれまでに書いてきた主人公たちは、悩んでもすぐに立ち直る子が多かったんです。タフというか、こらえ性がないというか(笑) 私もどちらかといえばそういう人間で、悩んでも「大丈夫、なんとかなる!」という感じで、これまでやってきました。 だけどみちるはそうではない。優柔不断で自分に自信がなくて、後ろ向きな性格をしています。悩みはじめたら、とことんまで悩んでしまう。振り返ってみたら、そういう主人公を書くことはほとんどなかったんです。ですが、自分自身が作家として成長するためにも、このあたりで一度、とことんまで悩む主人公というものをじっくりと書いてみようと思ったんです。

──スランプを折り返し地点として、後半、みちるは長野県の安曇野にあるリンゴ農家に身を寄せています。舞台が海から山へと変わり、それにつれ物語の空気感までが変わった感触を受けました。

安曇野編は物語的にも、書いている自分自身にとってもターニングポイントとなったところでした。みちるが心身を癒していく場所は安曇野のリンゴ農家にしようと決めて、どこかに取材をさせていただこうと思い、インターネットでいろいろと調べたんです。すると、ゆきさん農園という農園を見つけて、取材申し込みの連絡をしたところ、そこの奥さまが偶然にも私の読者の方で、とても仲良しになれたんです。みなさん快く取材に協力してくださって、リンゴの収穫も手伝わせていただいて、本当にいい方たちなんです。安曇野という土地柄も静かで落ち着いていて、執筆中で壁に当たっていた時期だっただけに、「もう、このままここでのんびりと生きていくのもいいんじゃないかな……」という心境にまでなったんです。そこも、みちるとまったく同じです。

──みちるはそこで、担当編集者の龍一からプロポーズをされて心がゆれますね。このままここでリンゴ農園を手伝いながら、ひっそりと小説を書いていくという人生もアリかもしれない……と。

本当に、そっちの方が幸せなんじゃないかなあ、と書きながら私の心もゆらぎました。でも、それだとそこで話が終わってしまう(笑)! それに、やっぱりそれは「逃げること」なんですよね。安息の地である安曇野から葉山へ、逃げてきた場所へと、みちるが戻る覚悟を決める姿をどのように書くか、というところで最も悩みました。

──愛する人との破局の苦しみ、家族との軋轢、作家生命の危機。それらさまざまな困難に真正面から向きあおうと決意したみちるは、まるで別人のように変わります。逆境は人を鍛えるのですね。

安曇野編の最後で、みちるがふっきることができたので、「ああ、これで書きやすくなる」と、ほっとしたんです。ところが次に立ちはだかったのが、優斗との再会でした。 プロットでは、再会した二人がよりを戻して世間のモラルに背いてでも愛を貫く! という内容だったのです。だけど実際に書いてみたら、どうもしっくりこなかったんです。そこで気がつきました。私は、自分たちの幸せのためなら他の人を傷つけてもいいというような人間は嫌いなんだ、と。よりを戻すにしても、こういう流れで元カレとよりを戻すような主人公は嫌いだし、なにより優斗は男としてどうなの!? みちるに対しても、婚約者の愛花に対してもダメすぎるよ、君は、と。作者であるにも拘わらず、自分が作ったキャラクターである優斗に憤りを感じてしまって(笑)