Dec 09, 2016

インタビュー93

『議員も議員秘書もヤクザに似てる。これは小説になるな、と。』
直木賞作家・黒川博行インタビュー

舞台は大阪。口だけは達者な自称・建設コンサルタントの二宮とヤクザの桑原という凸凹コンビが丁々発止のやり取りで裏社会を行く痛快なハードボイルド小説「疫病神」シリーズの最新作が遂にリリース!直木賞を受賞したシリーズ第5作『破門』に続く待望の新作『喧嘩(すてごろ)』は、組を追われて“丸腰”になった桑原と二宮が、腐りきった議員秘書と極道が貪り食う巨大利権に立ち向かうという虚実ないまぜの意欲作。取材に取材を重ねてフィクションとノンフィクションが交錯する刺激的なストーリーで、現実社会の暗部に斬り込んだ、作家の黒川博行さんに話を聞きました。

 

地方議員と秘書
あいつらはとにかくワルい

 

──選挙戦に関するヤクザ絡みのトラブルから始まる物語で、現実社会における選挙戦の闇や地方議員のスキャンダルに斬り込まれていますが、構想のきっかけは何でしたか?

2014年頃に地方議員問題のスキャンダルが続きました。そこで地方議員をテーマにネタを探している時に、誰もが知っている某有名代議士の自宅と事務所に火炎瓶が投げ込まれた事件を知りました。その事件を改めて取材して、話を膨らませていきました。

──なぜ火炎瓶が投げ込まれたのでしょうか。

ある代議士が選挙戦で自派の議員の再選のために、暴力団を使って対立候補への誹謗中傷や票集めをやらせたのに、その対価を支払わなかったために、嫌がらせをされたんですね。

──(小説の)冒頭で起きる事件と一緒ですね。「地元に強い地盤を持つ議員で暴力団と関わりあいのない議員はほぼいない」と聞いたことがありますが、実際にそれほどのビッグネームだと驚きますね。事実は小説なり奇なりというか。

地方議員、あいつらはとにかくワルいですよ。まあ、議員が悪いのはみなさん知っていると思うけど、秘書も問題です。議員の看板を使って個人事業主のような仕事で稼いでる。詐欺師を税金で雇っているようなものです。議員も議員秘書もヤクザに似てる。これは小説になるなと思いました。

──暗躍する登場人物の言動が生々しくて、読みながら「これは誰がモデルなんだろう?」と思わず想像たくましくしてしまいました。取材やリサーチにはかなり時間をかけられましたか。

新聞記者にはかなり取材をして、詳しく話を聞かせてもらいました。地方議員と秘書がどんな風に裏で稼いでいるか。議員がどのように地元対策を行っているか、そして選挙戦で対立候補が出た時にどのように潰しにかかるのか。特に、票集めのやりかたですね。後援会の面倒をみたり、地元のおじいちゃんおばあちゃんを座長芝居に連れて行ったり、カラオケ大会をやったり、どんな風にお土産を出すかという細かいことまで、山ほど裏話を聞きました。

──「1票2万円が相場」という下りがありましたが、これも票集めの現場において、リアルな相場なのでしょうか?

そうですね。1~2万円が相場ですが、日頃の面倒見が大切。

 

kurokawa-hiroyuki-01

 

ノンフィクションの部分で
嘘をつかない

 

──現実社会に重なるディティールに説得力があって、のめり込んで読まされてしまいました。黒川さんは以前「フィクションの根本にあるのはノンフィクション」とおっしゃっていましたよね。

フィクションも、基本はノンフィクションです。ノンフィクションの部分をないがしろにすると(小説が)破たんするので、僕はできるだけ、ノンフィクションの部分で嘘をつかない、本当のことを書きたいという考えがあります。だからかなり取材をします。元警察官や新聞記者から話を聞いたり、資料もあれこれ調べて読み込みますね。新聞記者は現役ですが、警察官は退職した人が中心です。さすがに現職では話せないことが多いですから

──ジャーナリストの風上にもおけない元新聞記者の議員が登場しますが、これもモデルになった実在の人物がいるのでしょうか?

大手新聞の元記者です。大阪府議会のある地方議員が引退するにあたって、自分の地盤をその元新聞記者に譲ったんですよ。元記者は定年前に退職して退職金の一部を地方議員に渡したんと違うかな。その後、無事当選しましたね。

──生々しいですね。現実社会の暗部を描く怖さはありませんか?

しょせん小説やし、フィクションですからね。ノンフィクションでは書けません。

──それがフィクションの強みですね。取材で大変だった部分はありましたか。

地方議員の話はかなり暴露本も出ているし、周知の事実ではある部分もあるから、そうでもありませんでした。

 

本当に書きたいことは
社会の仕組みや暗部

 

──主人公・二宮のもうひとりの相棒でもあるオカメインコのマキちゃんが、とてもいいアクセントになっていましたが、実際にご自宅で飼われているとか。

マキはよう喋ってますわ。本当にああやって鳴いたり話したりしてます。ケージに入れずに、僕の部屋で自由に暮らしているので、1日中一緒にいます。ほかに、メダカを1500匹ほど飼っています。大きな水槽2つと池にもいますね。あとは7~8つの火鉢に金魚が50匹と、池に50匹ほど。

──生き物がお好きなんですね。ちなみにいま興味を持って追いかけている事件や事柄は何がありますか?

介護ビジネスや貧困ビジネスです。『喧嘩(すてごろ)』でも利権としての福祉について少し書いてますが、その部分を深く取材してます。週刊文春で12月から連載を始めます。いま暴力団の資金源は覚せい剤や特殊詐欺のほかに、貧困や福祉ビジネスに進出していて、暴力団が経営している介護施設もあります。いまの議員は土建ではなくて福祉ビジネスも利権にしているということを書いています。介護医療施設などに取材をして裏話を聞いています。

 

kurokawa-hiroyuki-02

 

──実際に裏話を引き出すのは、なかなか難しくありませんか?

いや、人って喋りたいんですよ。「俺はこんなことを知ってる、聞きたいやろ?」っていうのは、大阪人だけかもしれませんけど(笑)。でも「世間ではこう思われているかもしれないけど、実態はこうや」とか「事件の本当の内実ってこうやで」って、そういうことを知っている人は誰かに話したいんだと思います。それに、僕がそれを小説に書いたところで、その人たちに実害はありませんから、話しやすいということもあるでしょうね。もしかしたら「黒川の小説にネタを提供してやったのは俺やで」と言われてるかもしれません。でも基本的に、人は親切ですよ。見も知らずの人間に突然裏話を話したりはせんけど、僕が小説書いてることは知ってますから。特に新聞記者は、記事にできなかったネタをたくさん持ってるし、やっぱりどこかで残念な気持ちがあるんやと思います。裏を取り切れなくて記事にできなかったり、自由に書けないこともあるし、時には上に潰されることもある。だから彼らから「黒川さん、いまこんなネタありますよ」って話してくれることもありますね。

──潰されたスクープや行き場のない想いを抱える人を小説の中で掬い上げていらっしゃるんですね。ちなみに「疫病神」シリーズでは、ヤクザの稼ぎ方や裏社会での生き方、利権のからくりなどを紐解いて見せてくれていますが、暴力団側の周辺取材もされるのでしょうか。

そんなことしません、関わりたくないので(笑)。それに、いま暴対法や暴排条例でヤクザのシノギってどんどんなくなっていて切り詰められているんですよ。昔ながらのヤクザという仕事はあと10年も、もたんのと違うんかな。それが正しい社会かもしれません。

──なのに、どうして「疫病神」シリーズのように暴力団の話を書き続けるのですか。しかもこんなにも生き生きと。

桑原は狂言回しなのかもしれませんね。本当に書きたいのは、新聞やテレビでは見えにくい社会の仕組みや暗部。僕自身、ニュースで報道や事件を見聞きしていて「ほんまはどうなってるんやろ?」と思うし、報道されてることの裏に興味があります。「本当のことを知りたい」という興味というか欲求は、誰にでもあるんやないですかね。

──玉石混合の情報氾濫が進むと、知りたい欲求はさらに高まっていく気がします。その一方で「疫病神」シリーズで描かれる「悪」は魅力的でもあります。最後に影響を受けた本を1冊教えていただけますか。

筒井康隆の『原始人』ですね。おもしろい短編です。原始人の話なので、セリフも会話もない(笑)。欲求が丸出しで、内省もしない。読むと不思議と元気になるんです。

 

取材・文 / otoCoto編集部

 

■黒川博行の「この1冊」

 

筒井康隆『原始人』(文藝春秋)

男は“獣欲”を満たすために棍棒を振るって女を犯し、“食欲”を満たすために他者の食物を強奪して殺す……。“弱肉強食”時代の人類の始祖・原始人の欲望むき出しの日常を描いた衝撃の表題作をはじめ、束縛されることのない異様な社会を描いた「アノミー都市」、次々と不運に巻き込まれる男の物語「おれは裸だ」など独特の筒井ワールドな作品に、小説という枠を超えたメタ小説ともいうべき「怒るな」「読者罵倒」「筒井康隆のつくり方」を加えた、元気の出る作品13篇を贈る。

■電子書籍で読む
Reader Storeはこちら
ブックパスはこちら

 

Profile

 

(写真:ホンゴユウジ)

(写真:ホンゴユウジ)

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)

1949年、愛媛県生まれ。京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。 大阪府立高校の美術教師を経て、1983年に『二度のお別れ』が第1回サントリーミステリー大賞佳作。1986年に『キャッツアイころがった』で第4回サントリーミステリー大賞を受賞。 1996年、『カウントプラン』で第49回日本推理作家協会賞受賞。2014年、『破門』で第151回直木賞を受賞。2016年『後妻業』、2017年『破門』がそれぞれ映画化された。
「疫病神」シリーズには『疫病神』、『国境』、『暗礁』、『螻蛄』、『破門』。

 


 

kurokawa-hiroyuki-shoei

『喧嘩(すてごろ)』

建設コンサルタントの二宮は、議員秘書からヤクザ絡みの依頼を請け負った。大阪府議会議員補欠選挙での票集めをめぐって麒林会と揉め、事務所に火炎瓶が投げ込まれたという。麒林会の背後に百人あまりの構成員を抱える組の存在が発覚し、仕事を持ち込む相手を見つけられない二宮はやむを得ず、組を破門されている桑原に協力を頼むことに。選挙戦の暗部に金の匂いを嗅ぎつけた桑原は大立ち回りを演じるが、組の後ろ盾を失った代償は大きく――。

発行:KADOKAWA
値段:1700円(税抜)

■電子書籍で読む
Reader Storeはこちら
ブックパスはこちら

 


 

(C)2017「破門 ふたりのヤクビョーガミ」製作委員会

(C)2017「破門 ふたりのヤクビョーガミ」製作委員会

映画『破門 ふたりのヤクビョーガミ』

黒川博行の第151回直木賞受賞作「破門」を佐々木蔵之介と横山裕(関ジャニ∞)のダブル主演で映画化したアクション・エンタテインメント。映画プロデューサーの小清水が持ち込んだ映画の企画話に、二蝶会の若頭が出資をしたが、小清水は映画製作の金を持ったまま行方をくらました。二蝶会のキレ系ヤクザである桑原と自称・建設コンサルタントの二宮の凸凹コンビは、資金回収のために裏社会を奔走する。黒川博行・原作のテレビドラマ「煙霞 Gold Rush」の演出も手がけた、「毎日かあさん」「マエストロ!」の小林聖太郎監督がメガホンを取った。

監督 小林聖太郎
原作 黒川博行『破門』
脚本 真辺克彦、小嶋健作、小林聖太郎

出演
佐々木蔵之介(桑原保彦)
横山裕(二宮啓之)
北川景子(渡辺悠紀)
濵田崇裕(木下)
橋爪功(小清水隆夫)
ほか

配給:松竹

2017年1月28日 全国ロードショー

http://hamon-movie.jp/