Dec 28, 2016

インタビュー23

人気ミステリー作家・米澤穂信が語る、読書の魅力。

神山高校で廃部寸前の〈古典部〉の部員4人が、学校生活に隠された謎に挑むベストセラー小説〈古典部〉シリーズ。
前回のインタビューでは、作者の米澤穂信に登場人物や本の執筆経緯などを聞いたが、今回は自身の高校時代や、いま中・高校生に薦めたい1冊について話を伺った。

 

乗り越えようがなかった
高校時代の苦い思い出

 

──米澤さんは、どんな高校生だったのですか。

高校の時は、弓道部に打ち込んでいました。学校と弓道場の場所が少し離れていたので、学校が終わったら自転車で弓道場に行って、暗くなったら自転車で帰るという学校生活を送っていましたね。

──〈古典部〉で言うと、どのキャラクターに近かったですか?

あえて言うなら、福部里志だったのかなと思います。いろんなことに興味を持っているけど、体系だった勉強ができる訳でもなく、全部中途半端になってしまって、その半端さを身軽と感じることもあれば、未熟さと感じて辛いこともある。その部分はもしかしたら当時の自分が反映されているかもしれません。

──いまでも覚えている、当時のほろ苦い思い出はありますか。

簡単にお話できることですと、弓道部の思い出です。なかなか地区大会を突破できないチームでしたが、私たちの年代では地区大会を突破して、県大会に行って、もう少しでインターハイ、全国大会に行けるというところまで来たんです。自分はエースのような位置にいて、一番しっかりと点数を獲らないといけなかったのですが、当日は大乱調で、これまで4本射れば3本は当たっていたのに、8本射って1本しか当たらなかったんです。それが本当につらくて悔しくて、それ以降は弓を持てなくなりました。

──その後はまったく?

ええ。またやりたい気持ちはあるのですが、なかなか、その辺でやる訳にもいかないスポーツですし(笑)。

──確かにそうですね(笑)。では弓道はそれ以降、完全に封印されてしまったのですか。

そうですね。自分が普通の調子なら全国大会に行けたのにと思うと、チームのみんなに申し訳なくて……。そう思うと、もう乗り越えようがなかったですね。その後10年ぐらいは「どうしてあの時だけ」って思っていましたから。

 

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──でもそこで勝ち進んでいたら、また違う将来になっていたのかもしれませんね。
当時から小説家になろうと思っていたのですか。

当時から「お話をつくる人になりたい」と思っていました。小学生の時から物語を考えるのが好きだったんです。当時は家から学校まで1時間近く歩いて通っていたんです。その間に、いろいろな空想をして、お話を作っていました。頭の中でお城を作って、その中へ忍者が忍び込んでいくというような。お城の構造をきちっと作りすぎてしまって、「この橋からは忍び込めないな」とか考えるのが楽しかったですね。中学生になると、実際に小説を書き始めたので、「小説家になれたら一番いいなあ」とは思っていましたね。でも脚本家やシナリオライターであるとか、いろいろなアプローチがあるなと考えていました。

──当時はどんな小説を書かれていたのですか?

子供の書く小説だったので、たわいもないものです。小学生の時に『ナイトライダー』とか『超音速攻撃ヘリエアウルフ』というアメリカのテレビドラマが好きだった影響で、警察のアクションものを書いていました。その小説はまだ持っているのですが、この間ページ数を数えてみたら430枚ありましたね。中2の時から書き始めて高校3年生で書き終えたので、ずいぶん長い間書いていたんだなと思いました。

──大作ですね! そのモチベーションはどこから来ていたんでしょう?

「自分はお話を作る人になる」という漠然とした想いだったのかもしれません。でも書き上げたからと言って、そのままプロの道に通じたとも思わず、ただ、「第1作目を書き上げた」という気持ちでした。

──冷静な高校生ですね。折木奉太郎のようです。

「これはいける!」と思ったら投稿していたはずなのに、実際には投稿もしませんでしたし。

 

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畏るべき存在である自然を
征服しようと挑む『夜間飛行』

 

──いま高校生にお薦めたい本を教えていただけますか?

高校生だと、なんのひねりもありませんが、『夜間飛行』サン=テグジュペリはどうでしょうか。中学生ぐらいかな……。

例えば、川に橋を架ける工事をするとします。そこには、ひとりかふたりは必ず大事故に遭って、人が死ぬような可能性がある。「ひとりかふたりは、一生障害が残るような大けがを負っても、たとえ人が死ぬようなことがあってもいいや」と思って橋を架ける人はいません。でもけが人が出ても死人が出ても、人は川に橋をかけることは止めない。

『夜間飛行』は夜の闇を相手にしていますが、自然の力に挑み続けていくのが人間なのだという小説です。

(僕が)驚いたのは、自然は一方的に征服していくべき存在であると考えている部分です。 日本には調和の文化があると思うので、“自然を征服してくのが人間の使命である”という考えが強く打ち出されたこの小説は、感銘を受けたというよりも、カルチャーギャップを感じて面白かったですね。

日本では長い間、大井川に橋は架けられませんでした。それは軍事上の理由でもあるのですが、自然というのは、必ず人間が切り拓いて踏破し、ならしていくべき、征服されるべき存在だとはあまり考えていなかったからでもあるんじゃないか。

──日本には「八百万の神」という思想があるからでしょうか。

思想というより、湿度が高い気候なので、なまじ手を入れてもすぐに植物が繁茂してきちゃうんですよね。

あっという間に元に戻ってしまうので、切り拓いて征服していく対象というよりも、基本、付き合っていくしかない。

──自然災害も多いですしね。

自然は間違いなくやっかいで、畏るべき存在ですが、『夜間飛行』ではそれの征服へと挑んでいく。

──では『夜間飛行』は、米澤さんにとって、自分と異なる考え方に出会った「異文化体験」だったんですね。

世の中には自分とは違う考え方があるし、それがこれほど強く信じられているんだということに強い面白みを感じました。自分とは違う考え方や物の見方には、いつも深い興味を持っています。それは子ども時代から、今でもずっとそうです。

例えば、日本人であっても、昔はまったく違う考え方を持っていたりします。そういう発見や、見知らぬ価値観と出会うことが読書の楽しみで、いつも嬉しくて堪らないですね。

取材・文・撮影 / otoCoto編集部

 

 

プロフィール

 

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米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)

1978年岐阜県生まれ。2001年、第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を『氷菓』で受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で第27回山本周五郎賞を受賞。『満願』、15年『王とサーカス』はそれぞれ3つの年間ミステリ・ランキングで1位となり、史上初の2年連続3冠を達成。本書は〈古典部〉シリーズの6作目である。

 

米澤穂信が中高生に薦めたい、この1冊

 

『夜間飛行』
サン=テグジュペリ (著)、 堀口 大學 (翻訳)

第二次大戦末期、地中海上空を偵察飛行中についに消息を絶ったサン=テグジュペリ。不時着を繰り返しながらも飛びつづけた彼は、『星の王子さま』『人間の土地』など、飛行士たちの物語を、優れた文学作品として書きのこした。『夜間飛行』は、郵便飛行事業がまだ危険視されていた時代に、事業の死活を賭けて夜間飛行に従事する人々の、人間の尊厳と高邁な勇気に満ちた行動を描く。

発行:新潮社
値段:594円(税込)

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作品情報

 

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『いまさら翼といわれても』

神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花と福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘――折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かったえるの居場所は。そして、彼女の真意とは? 奉太郎、える、里志、摩耶花――〈古典部〉4人の過去と未来が明らかになる、瑞々しくもビターな全6篇。

発行:KADOKAWA
値段:1598円(税込)

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