Dec 21, 2016

インタビュー

累計210万部のベストセラー〈古典部シリーズ〉の登場人物の謎がついに明らかに! その真意を作者の米澤穂信に聞いた

〈古典部〉シリーズとは、廃部寸前の部活「古典部」に入部した神山高校の男女4人が学校生活に隠された謎に挑む、米澤穂信の人気シリーズだ。待望の新作では、奉太郎、える、里志、摩耶花4人の過去と未来がとうとう明らかになる、瑞々しくもビターな青春ミステリー短編全6篇を収録。来年には、シリーズ第1作目『氷菓』の実写映画化も決定した本作について、作者の米澤穂信に話を伺った。

 

物語の役割からやっと解放して
人間らしい部分を書くことができた

 

──ファン待望の新作がとうとう発売となりましたね。そして本作では、初めて〈古典部〉4人の“知られざる過去”が明らかになりました。満を持してという感じでしょうか。

もともと〈古典部〉シリーズは、「日常の謎」と成長物語という2本の軸で書きたいと思っていました。「日常の謎」を書き始めたのは、北村薫先生の〈円紫さんと私〉シリーズの影響だったと思いますが、書いていてすごくしっくりきたんですね。自分の文章は昔から感情を惹起する、エモーショナルなものではなく、どちらかというとロジカルで乾いた文章だったので、ミステリのアプローチと合っていたのだと思います。

──「日常の謎」とは、殺人犯罪などの事件の解明ではなく、日常生活の人間関係におけるふとした謎を取り上げて、それを解明する過程を紐解くタイプのミステリ小説のことですよね?

そうですね。それもあって、登場人物それぞれの役割が明確にありました。例えば、『氷菓』では、千反田えるが持ってくる謎や好奇心がきっかけでミステリが始まります。彼女は、もともと「省エネ」がモットーの折木奉太郎を謎の解明に向かわせるという物語の誘導役であり、依頼人という役どころです。ただいつも、単に「謎」の運搬役ではなく、物語上の役割や背景から彼女を解放してあげて、もう少し人間らしく書いていきたいという想いがずっとありました。今回の『いまさら翼といわれても』では、その部分がじっくり書けたかなと思っています。

──そういう意味で言うと、いつも主人公・折木をサポートしている福部里志にも、いつか役割から解放してあげたいというような思いがあったのでしょうか。福部は「データベースは、結論は出せないんだよ」というキメ台詞が有名ですね。

そうですね、福部は主人公の隣でその推理を手助けするというワトソン役です。推理に関しては折木に一歩譲るところはあるけれども、その多才な才能と知識で折木をフォローしていく人物です。しかし、そうなると福部は最初から折木のサポート役として生まれてきた人物ということになってしまうので、「かわいそうだ」という想いがいつもありました。ミステリーの造形の都合上、彼はワトソン役を割り振られましたが、「それだけではない彼の人生があるはずだ」といつも思っていました。

──そんな思いで書かれた新作だったんですね。今後は福部の物語展開も楽しみです。ところで今回収録されている短編『いまさら翼といわれても』では、「わたし、気になります!」が口癖のヒロイン・千反田えるが合唱祭を前に失踪することから始まりますが、その謎の解明とともに思春期特有の心理が紐解かれていく過程を、まさに「成長物語」として読ませていただきました。高校生の気持ちをとても瑞々しく書かれていますが、取材はされているのでしょうか。

特に現役高校生に取材をしたりはしていません。〈古典部〉に関していうと、高校時代の思い出を掘り起こすことは多々あります。ただ心情に関していうと、当時の自分の心境を思い出すというよりも、10代の頃と変わらず抱く想いを書ければ、それはきっと今に通じるだろうなと思っています。

──折木奉太郎は、すごく今っぽい主人公ですよね。いわゆる“ヒーロー然”としていないところが。

はじめから『氷菓』は成長小説の側面を持たせたいと思ってシリーズを始めました。そのため折木奉太郎は最初から完成された人物ではなく、自分の在り方や足りないところも折に触れて見つめていく、そんな主人公にしたいと思っていました。

──頭脳明晰だけど「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーに「省エネ」を自称していますが、性格はひねくれていないという主人公ではちょっと珍しいキャラですね。

「省エネ」というモットーを掲げてはいますが、自分では正しいとは思っていないはずです。何かこう、もっとほかの生き方、ほかのやり方があるんじゃないかということを、心の中ではふわっと思っている人物だからこそ、『氷菓』では千反田の生き方に共感をして、だからこそ真実にたどり着いたときに驚きが生じる……そんな風に書いたつもりです。

──ちなみに〈古典部〉のもう一人の女子、伊原摩耶花はどんな役割を設定されていたのでしょうか。

もともとは、折木に対抗するもうひとりの探偵役として考えていました。でも実際にはその面よりも、世間ずれしていない千反田と対照を成していきました。人間関係の中でもがいて生きていく人物です。伊原は、学園小説のもうひとつの側面になりうる世界を持っていると考えています。

 

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──ところで、ご自分の高校時代のエピソードで小説に反映した部分はありますか?

多々あります。本作の『連峰は晴れているか』で3度も落雷を受けた教師が出てきますが、高校時代の教師の実話を基にしています。

──ええっ?! あの部分こそフィクションかと(笑)

登山愛好家で、山で打たれたと本人が言っていました。それから『箱の中の欠落』では生徒会長選挙について書いていますが、生徒会長選挙の手順を正確に知らないとミステリーが組みたてられないので、高校の選挙管理委員をやっていた友人に連絡を取りました。そうしたら偶然にも、現在も選挙管理委員をやっていたんです。

──もう1本選挙にまつわるミステリ小説が書けそうですね(笑)

不正選挙のミステリになってしまいますね。それに、職務上のことは話してくれませんよ(笑)

 

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普段歩いているだけでも
小説のネタはいろいろみつかります

 

──「日常の謎」を書く時に、「謎」になるネタは、日常生活でどのように発見するのでしょうか。

普段歩いているといろいろと見つかります(笑)。この間は道を歩いていたら、コンビニに駆け込んだ人が、靴下を買って出てきたんです。店を出て、靴を脱いで、その場で大急ぎで靴下を履いて自転車に乗って立ち去っていったんですけれども、「革靴だったのに、あの人は靴下を履くのを忘れたのか?」と気になってしまいました(笑)。単純に推理すれば、靴下を全部洗濯してしまって履く靴下がなかったんだと思いますが、当時は夏でしたから、素足に靴でもよかったのに思うと、大急ぎで調達する必要のあるほどの用事は何だったのだろうと考えてしまいました。

──お座敷の料亭にでも行かれたのでしょうか……? それにしても、普段からとても細やかに愛情を持って、周囲の人々を観察してられるのですね。

そこまででもないです(笑)。その方は特に目立っていましたから。

──人がお好きですか?

ええ。でも実は、ロジックを組み立てる方がより好きなのだと思います。ただそれでは小説にはならない。先ほど、ロジック(論理)とエモーション(感情)という話をしましたが、文章や小説がロジカルなものであっても、最初から最後までロジカルだと小説にはなりません。それはクイズでしかない。自分が理想とするミステリー小説は、ロジックで始まってロジックで終わるけれど、そのロジックのヒビ割れからエモーションが覗く、そういう作品が書ければいいなと思っています。

取材・文・撮影 / otoCoto編集部

 

 

プロフィール

 

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米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)

1978年岐阜県生まれ。2001年、第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を『氷菓』で受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で第27回山本周五郎賞を受賞。『満願』、15年『王とサーカス』はそれぞれ3つの年間ミステリ・ランキングで1位となり、史上初の2年連続3冠を達成。本書は〈古典部〉シリーズの6作目である。

 

作品情報

 

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『いまさら翼といわれても』

神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花と福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘――折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かったえるの居場所は。そして、彼女の真意とは? 奉太郎、える、里志、摩耶花――〈古典部〉4人の過去と未来が明らかになる、瑞々しくもビターな全6篇。

発行:KADOKAWA
値段:1598円(税込)

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