Aug 10, 2017

インタビュー

大ヒット<八咫烏シリーズ>の作家で現役大学院生の阿部智里は人でなし?!書評家・大矢博子が創作現場に迫る

史上最年少・若干20歳にして、松本清張賞を受賞してから約5年。デビュー作『烏に単は似合わない』に始まる和風ファンタジー〈八咫烏シリーズ〉は、人間の姿に転身することができる個性豊かな八咫烏たち・細部までしっかりと構築された異世界設定・一巻ごとに驚きの展開を見せるストーリーなどが熱い支持を受け、累計85万部を超えるベストセラーに。そしてついに、新刊の第6巻『弥栄の烏』で、第1部完結を迎えた作家・阿部智里に、書評家・大矢博子が大ヒット和風ファンタジーの創作現場について聞きました。

 

どの話をいつ出すか
ずっと試行錯誤でした

 

──『弥栄の烏』の帯に〈堂々完結!〉って書いてあって驚いたんですが、シリーズが終わるわけではなくて第1部が完結、なんですよね?

そうです、第1部が完結です。なんでこんな帯なんでしょうかね? この方が目立つのかな(担当編集者をチラ見。編集者はにっこり)。書きたかったテーマが一区切りついたので一旦完結という形になりましたが、第2部もありますよ。今度は少し未来の話になります。現段階ではそこまでしか言えないんですけど。

──そう聞いて安心しました。同じように驚いて心配した読者が多いと思うので。そのテーマについては後で伺うとして、まずはやはり『弥栄の烏』についてお聞きしましょう。これは前作『玉依姫』とほぼ同じ時間軸を八咫烏側から書いた話で、『玉依姫』には描かれなかった八咫烏サイドの事情が明かされます。第1巻『烏に単は似合わない』と第2巻『烏は主を選ばない』が同じ時間軸を女性視点・男性視点で書いた背中合わせの物語だったのと同じ趣向ですね。この世界の出来事について、かなり緻密に設計図を作ってらっしゃるように感じました。

設計図というか、作品世界の年表があるんです。ただ、その年表のどこを切り取って出すかというのは、常に試行錯誤してました。特に『玉依姫』をいつ出すかというのはずっと悩んでいて……内容が内容なので出しどころを間違うと世界観が崩壊しちゃいますし。

──『玉依姫』は、八咫烏の世界が実は人間界とつながっていたという、大きな転換点の作品でした。でも3巻の『黄金の烏』から少しずつ伏線は張ってましたよね?

そろそろいいかなと思って第5巻に持っていったんですが、キャラクターのファンになって下さった方から、八咫烏の出番が少ない、雪哉(シリーズ主役級の一人)が出ないってお叱りをいただいてしまったりして。ありがたいことなんですけど。

──雪哉が出ない……ああ、その読者さんにはぜひ『弥栄の烏』を読んでいただきたいですね! 実はちゃんとあそこにいたってことがわかるから。

名前が出ないだけで、実はけっこうお馴染みの八咫烏が『玉依姫』には登場してます。ただ、『玉依姫』は人間のヒロインの視点ですから、彼女がわからないこと、知らないことは書けない。そこに雪哉がいても彼女にとっては単なる一羽の八咫烏でしかないわけで、ああいうふうに書くしかないんですよね。

 

2_阿部智里

 

 

ジャンルは意識してません
美味しいものを出したいだけ

 

───それぞれの巻に何か思い出はありますか?

辛かったのは『玉依姫』ですね。あれはプロトタイプを高校二年のときに書いたんですよ。そんな頃の自分の作品を、大人になってプロになった自分が書き直すっていうのは、なんというか黒歴史を掘り返してるような……(笑)。楽しかったのは『空棺の烏』!

──阿部さんは〈ハリー・ポッター〉ファンだそうですが、『空棺の烏』はホグワーツ魔法学校ですよね(笑)

(にこにこしながら)オマージュです! 書いてて楽しかったし、キャラクターがいちばん自由に動いたのもこの話でした。ただ意外だったのは、雪哉が教師たちをやり込める場面がが痛快だった、かっこよかったという感想が多かったんです。でも実は、生意気をいう雪哉に言い返さなかった教師たちが大人なんであって、噛みついてる雪哉の方が子どもだというつもりだったんです。

──ああ、そこは読む年代によって違うかも。年をとって再読すると、受け止め方が変わる場面かもしれませんね。それにしても、このシリーズは一巻ごとに雰囲気が違いますね。1巻はお后選びの宮廷ミステリ、2巻はお家騒動。それが3巻『黄金の烏』でいきなり人喰い猿と戦うバトルものになる。と思ったら4巻『空棺の烏』は学園青春小説。そして舞台が大きく変わった『玉依姫』から八咫烏世界の運命を描く『弥栄の烏』につながる……。

うーん、私は最初から予定していた通りの話を書いてるだけなんですが、周囲の反応を見るに、どうやら私の話っていろんな要素が入ってるらしいんですよね。ミステリ要素とか恋愛要素とか。でも私は一貫して、「自分が読みたいものを書いている」だけなんです。ここにある材料をどう料理すればいちばん美味しくなるだろう、って考えたとき、それがたまたまミステリっぽい展開に見えた、というだけで。

──ジャンルは意識してない?

あまりしてないです。……あ、わかった!(頭上で電球が灯ったような表情で)いろんな食材があると思ってください。それをいちばん美味しく食べてもらうにはどうしよう、と考えて料理を作った。それがたまたま和食っぽかったとしても、最初から和食を作ろうと思ったわけじゃないし、和食ですって押し付けるつもりもない。ある人はそれを見て、肉じゃがだねっていうかもしれないし、他の人はジャーマンポテトっぽいって思うかもしれない。それでいいと思うんです。

──何料理かじゃなくて、美味しいかどうかが大事だと。

美味しくなるように、最後はこの味になるように、1巻から少しずつ調味料を揃えてきたわけです。この6冊はコース料理みたいなもので、一皿一皿は統一感がないように感じるかもしれないけど、6皿並べてみると、確かに最後はこの味じゃないとダメだったな、満足したなと思ってもらえるよう書いたつもりです。ですからこのシリーズは順番通りに読んでいただくとよりお楽しみいただけますし、『弥栄の烏』は大きなテーマの最後であって、単体で成立するものではないんです。