Jul 03, 2018

コラム

ピアノ教室に通っていた時の周りの反応とは

→前回までのコラムはこちら

 会議をサボる時、打ち合わせに遅刻した時、あるいは原稿が間に合わない時、嫌な飲み会から逃げる時…など、人は色々と「理由」を言う。定番は「道路が混んでまして」とか「体調が悪くて」、あるいは「親戚に不幸があって」…といった所だろう。本当の場合もあるし、嘘の場合もある。なかでも「親戚の不幸」など、最強の言い訳ツールだと思うが、しかしこれは何度も使えないのが難点だ。
 しかし当時のぼくは、最強の「言い訳ツール」を手に入れていたのだ。

「藤井さん、次回の打ち合わせは、この日のこの時間で…」
「どれどれ? …あ、ダメです。その時間はピアノのレッスンが入ってるんで」
「ピ、ピアノ!?」
 たいてい相手は驚く。(この男、なに言ってるんだ?)というリアクション。他の理由なら「そこをなんとか…」と交渉を始めるのだが、意表を突かれているので二の句が継げない。
「……あ、そうですか。じゃ、別の日に…」
 この相手の反応が面白くて、よく断る理由に使ったものだ。

 30代のぼくは、突然思い立ってピアノの個人レッスンに通っていた。その先生は、普通は小学生や中学生に教えている。だからぼくのレッスン時間の前や後で、そういう子供たちと出くわすことがあった。ぼくは、「いま学校でどんな歌が流行ってる?」「どんなお笑いタレントが好き?」なんてことを聞く。それでけっこう一緒に盛り上がれるのだ。子供たちがませているのか、ぼくの精神年齢が低いのか…。

 たまに、まったく知らない情報を教えてもらうこともあった。当時、小学生の女の子が「ちびまる子ちゃん」のコミック単行本を、「これ面白いんだよ」と教えてくれた。年齢ははるかに下だが、ぼくにとっては姉弟子だ。レッスンの順番を待ってる間に読ませてもらい、面白さにビックリした。その頃、まだ大人はほとんど知らなかったのだ。
 あまりに面白かったので放送業界の何人かに教えたが、ほとんどが知らなかった。
 数年後、アニメになって大ブームをおこした時、知り合いの放送作家は、
「そういえば藤井さん、ずっと前からこの本は面白いって言ってましたね。アンテナ凄いですねえ」
 と感心された。ぼくは、ピアノの姉弟子である小学生に教えてもらったとは言わず、
「そうだろ? 凄いだろ? エッヘン」
 とイバっておくことにしたが。

 このピアノレッスンでは、何曲か練習した。どれも出来はそこそこだが、有名な曲のさわりだけでも弾けるようになったのが嬉しかった。サティの「ジムノペティ」はテンポが遅いので、けっこうちゃんと弾けた(もちろん他人が聞いたらひどいものだろうが)。
 そんな風にピアノが楽しくなっている時期に、たまたま行ったスタジオにピアノがあったのだ。
「俺、イマジン弾けるよ」
 とつい言ってしまった気持ちは、わかってもらえるのではないだろうか。

 かくして、オールナイトニッポンの全国ネットで、エンディングにイマジンを弾くことになった。ウッチャンナンチャンの2人が締めのトークをしているBGMに、ぼくが弾く。
 もちろん、うまければ問題ない。一方、下手でも、それはそれで愛嬌があって笑いになる。ところがぼくは、そのどちらでもない「ちょうどつまらない普通の演奏」をしてしまったのだ。ぼくの腕ではミスタッチをしないことにいっぱいいっぱいで、まったく余裕がなかったのだ。大人だから、天国のレノンに届けと感情は込めていたけれど…。
 ああ、いま思い出しても恥ずかしい!

 結局十年ほどでやめてしまったので、たいして上達しないままだ。今は、一見さえないオジサンがそのイメージ通りにピアノが弾けない…という、ただの残念な状態になっている。

 

お知らせ

『「日本の伝統」の正体』

藤井青銅(著)/柏書房

★「初詣」は江戸時代になかった? ★「江戸しぐさ」のいかがわしさ ★神前結婚式は古式ゆかしくない ★「古典落語」は新しい? ★恵方巻は、本当はいつからあったのか? ★アレもコレも「京都マジック」! ★初めて「卵かけご飯」を食べた男とは? ★サザエさんファミリーは日本の伝統か? ……一見、古来から「連綿と続く伝統」のように見えるしきたりや風習・文化。しかし中には、意外に新しい時代に「発明された伝統」もある。もっともらしい「和の衣裳」を身にまとった「あやしい伝統」と、「ほんとうの伝統」とを対比・検証することで、本当の「ものの見方」が身につく一冊。 フェイクな「和の心」に踊らされないための、伝統リテラシーが磨かれる!

 

saydo_cover_170330

『幸せな裏方』

藤井青銅(著)/新潮社

otoCotoで連載中のコラム『藤井青銅の「この話、したかな?』が書籍化! 好評発売中です。


■電子書籍で購入する

Reader Storeはこちら

ブックパスはこちら

 

■紙版で購入する

藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

藤井青銅著「ラジオにもほどがある」(小学館刊)
→電子書籍版

プロフィール詳細を隠す表示する

この記事が気に入ったらクリック

SNSでシェア

このエントリーをはてなブックマークに追加