May 22, 2018

コラム

ラジオ放送からカセットテープに音楽を録音するために局側がやっていた工夫とは

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 NHK‐FMの「クロスオーバーイレブン」は、1978年~2001年まで放送されていた人気番組だ。当時ちょうどジャズとロックが融合した「クロスオーバー」という音楽ジャンルが流行っていた。それと、放送時間である深夜を重ねてのタイトルだ。番組のキメ・ナレーション、
「もうすぐ、時計の針は12時を回ろうとしています。今日と明日が出会う時、クロスオーバーイレブン…」
 がまさにそれを示していた。

 大丈夫だろうか? スパイダースよりはぐっと近い話題だが、それでも若い方には「?」かもしれない。けど、例によってそのまま続けます。

 ナレーションはしっとり落ち着いた美声の男性で、大人のムードたっぷり。資料を見ると、富山敬さん、横内正さんなども担当してしたようだが、ぼくの記憶にあるのは1982年から番組終了まで務めた津嘉山正種さんの声だ。多くの方にとっても、そうではないか?
 ちょうどぼくが作家兼放送作家となった頃だったので、
「ああ、大人の世界の放送だなあ。最後に作家名をスクリプトという肩書で紹介するのもカッコいい。ぼくもいつかこういうのを書いてみたいなあ…」
 と思っていたものだ。

 なので、2015年に声をかけてもらった時は驚いた。
「え! あの番組まだ続いてたんですか?」
 スタッフに話を聞くと、番組は終了しているが、年に二度、お正月と夏に一週間ずつ特番として復活しているのだという。人気作の再放送と、新作とで。
 ぼくはその新作に声をかけてもらったわけだ。光栄だった。

 この年はちょうどラジオ放送90周年(1925年にNHKが放送開始)だったので、お題は「ラジオ」と決まっていた。ぼくは月~金のスクリプト5本を書き、収録に立ち会った。
 かつてラジオから流れるのをうっとりと聞いていた津嘉山さんの美声が、ぼくの書いた原稿を読んで、それをスタジオのスピーカーで聞くのは感慨があった。
 その時、ぼくはプロデューサーに言った。
「クロスオーバーイレブンのナレーションは、独特の世界がありますよね。美声と、大人の世界観の原稿、そして、津嘉山節とも呼べるような、文章の最後をゆっくりとリタルダンドで『~だった』と置きにいく終わらせかた」
「ああ、あれはエアチェックのためなんです」
「え?」

 70年代後半から80年代にかけ、ラジオ放送をカセットテープに録音する「エアチェック」が大流行していた。とくにFM放送は高音質の音楽を売りにした。ラジオから録音すればレコードを買わなくてもすみますよ…というのがアピールポイントで、事前に番組でかける選曲を発表。それを掲載したFM情報誌も複数出ていた。切り取って使えるカセットレーベルのオマケつきで。

 ここんとこ、「エアチェック」「カセットテープ」「レコード」「FM情報誌」…と80年代懐かしワードが怒涛のように出てくるが、もはやなんとも思わず続けます。

 プロデューサー曰く、
「エアチェックで、ナレーションを抜いて音楽だけ録音したいというファンのために、『この喋り終わりで音楽に入りますよ』というサインで、最後はわざとゆっくり『~だった』と締めることにしたんです」
「ああっ!あれはそうだったのかあ!」
 とぼくは叫んだのだった。

 若い時なにげなく接していた番組や音楽。長じて、ぼくはたまたま放送の世界に足を踏み入れた。当時の出演者あるいはスタッフにお話を聞く機会があると、たまに雑談の中で、
「あれはそうだったのかあ!」
 という事実に出くわすことがあって、嬉しい。まあ、それを知ったからといって何か世の中の役に立つというような知識ではないのだが、それでも嬉しいのだ。

 

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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

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