May 08, 2018

コラム

ビジネスの街・大手町で出版イベント

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「どこの出口から出ればいいのか?」
 と今度もぼくは、駅に降りて途方に暮れた。
 東京・大手町駅。東京に住んでいる方はご存知だろうが、地下鉄大手町駅は複数の路線が交錯し、迷路のようになっている。地上には、名前を聞けば誰でも知ってる有名企業が入った巨大ビルが並んでいる。日本のGDPの何十パーセントだかは、この街で作り出されているのだろう。地下鉄の出口はそれぞれのビルに直結し、ビジネスマン相手の地下商店街があって、さらに迷路のようなのだ。

 行き交う人はスーツ姿のビジネスマンばかり。ぼくみたいなフリーランスの人間は服装からしてだらしなく、なんだかそこを歩いているだけで肩身が狭くなる街なのだった。
 今度の会場は、紀伊國屋書店大手町ビル店。日本を代表するビジネスの街にある、日本を代表する書店だ。トークイベントのタイトルは…、

「日本の伝統文化」はビジネスになる!? 
「初詣」「恵方巻」「お中元」…「伝統」には「商売」をきっかけとするものも数多い。「伝統リテラシー」で、本質を見る目を養い、ビジネス・チャンスをつかむヒントを伝授!

 …とある。
 もちろんぼくの『「日本の伝統」の正体』という本のことだ。一週間前は下北沢でやっていた。サブカルファンからビジネスマンまで。我ながら、ちょっと振り幅が広すぎないか?…とも思うけど。

 ぼくは、この本をネタにスライドを作っている。いつもはそれをスクリーンあるいは大型モニターに投影しながらスライドショーを行う。そういうぼくの行為全体が「よくあるビジネスセミナー」のパロディになっていることを、面白がってもらおうという企画なのだ。
 しかし今回は、書店の片隅にあるちょっとした喫茶コーナーで行う。
「モニターがありませんので、プリントした資料を配ってやってください」
 という連絡を受けていた。
 なので、数ページのテキストを作ったのだが、そのタイトルが、
『3兆円産業! あなたも「伝統ビジネス」でひと儲けしよう!』
 なんていうミもフタもないもの。モニターに投影するとシャレっぽいが、紙の文書にすると、パロディではなくマジであやしげなビジネスセミナーみたいになってしまった。

 それでもお客さんは喜んで、笑ってくれた(中に二人ほど「リトルトゥースです」という方がいて、ぼくは驚き、嬉しかった!)。
 若者のサブカルの街・下北沢では、途中で「私が著者です」というアブナイTシャツを着たライターさんが乱入してきた。が、さすが大人のビジネスの街・大手町で、そんなことはなかった。ほっと一安心。
 ところが、トークショー終了後、一人の女性がツカツカと近づいてきたのだ。
(な、なにか失礼なことを言ったか?)
 彼女は名刺を出して、
「大変参考になりました。ワタクシ、こういう者で…」
 と名乗った。名刺を見てビックリ! 名前を聞けば誰でも知ってる某財閥系不動産会社の方で、もう一枚、なにやら伝統とも関係ありそうな社団法人事務局の肩書も併せ持っているではないか。ぼくは多少うろたえながら、名刺交換をした。
 もちろんぼくはビジネスセミナーのパロディのつもりでやっていたのだが、
(大手町という場所柄、マジな伝統ビジネスのセミナーだと思ったのではないか?)
 と不安になりながらも、一方で期待した。これをキッカケに、なにか伝統ビジネスが始まったら愉快だなあ、と。

 下北沢と大手町。性格のまったく異なる街だから、トークショー後の反応もまったく異なっていた。一冊の本というのはちっぽけな存在だ。が、それをキッカケに、あちこちで思いもよらぬ展開になるのが、とても面白い。

 

お知らせ

『「日本の伝統」の正体』

藤井青銅(著)/柏書房

★「初詣」は江戸時代になかった? ★「江戸しぐさ」のいかがわしさ ★神前結婚式は古式ゆかしくない ★「古典落語」は新しい? ★恵方巻は、本当はいつからあったのか? ★アレもコレも「京都マジック」! ★初めて「卵かけご飯」を食べた男とは? ★サザエさんファミリーは日本の伝統か? ……一見、古来から「連綿と続く伝統」のように見えるしきたりや風習・文化。しかし中には、意外に新しい時代に「発明された伝統」もある。もっともらしい「和の衣裳」を身にまとった「あやしい伝統」と、「ほんとうの伝統」とを対比・検証することで、本当の「ものの見方」が身につく一冊。 フェイクな「和の心」に踊らされないための、伝統リテラシーが磨かれる!

 

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『幸せな裏方』

藤井青銅(著)/新潮社

otoCotoで連載中のコラム『藤井青銅の「この話、したかな?』が書籍化! 好評発売中です。


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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

藤井青銅著「ラジオにもほどがある」(小学館刊)
→電子書籍版

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