Apr 12, 2018

コラム

放送作家に育つまでの成長譚?!とある女性の話

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 最近はだいぶ知られてきたが、放送業界というのはけっこう「体育会系体質」があって、男性社会だ。女性が活躍できる場は、意外に少ない。
 放送作家においてもそうだ。もっとも、ドラマ脚本の場合はそうでもない。かつて全盛のホームドラマは、家庭内の描写や人間関係の描き方など、女性作家の方が細かい所を見ていて、丁寧。今も、恋愛ものドラマはやっぱり女性の方がうまい、とぼくは思っている。
 しかしこれがバラエティの放送作家となると、女性の数はぐっと減る。報道情報番組でも少ない(生活情報番組だと、わりといる)。

 ここに一人の女の子がいた。Sという。小学生の時、ポケモンが好きだった。まあ、これは普通だ。
 ある時、「ポケモンのラジオがある」ということを知り、それを聞いてみた。犬山犬子(現・イヌコ)さんが喋っていたという。面白かった。Sはそれで、ラジオが好きになった。そのまま中・高とラジオを聞いた。くりぃむしちゅーの番組が好きだったという。
「女子高だったんです」
 と彼女は言った。
「へえ。当時、女子高でラジオにはまってた子なんているの?」
 とぼくが聞くと、
「……う~ん、他にいなかったですね」
 まあ、それが普通だと思う。いや、一応つけ加えておくと、ラジオを聞いてた子はいたかもしれないが、自分から進んでそれを言わないということだろう。ラジオ好きな子には、そういうタイプが多いのだ。

 やがてSは大学に進学する。文学部の演劇専攻。もうこのへんで、将来普通の社会生活は営めない匂いがプンプンしているのだが、当の彼女はそこに気がついていない。
 大学に入って、ラジオは聞かなくなった。
「受験勉強の時に聞いてたんですけど、入学してしまうと…」
 と彼女は言った。まあ、それが普通だ。ここで、彼女とラジオの距離は遠くなった。

 大学生最後の年、バックパッカーみたいにアメリカ中西部から西海岸へと一人旅をした。流れ着いたラスベガスで、
《20ドル払えば、私の股間を殴っていい》
 という大道芸人に出会う。20ドルは高い。それに、そんなの「芸」と呼べるのか? とも思うのだが、この時彼女は「面白い」と思ったらしく、20ドルを払ってその男(推定40代)の股間を思い切り殴った。
「アウチ!」
 愉快な気持ちになったものの、彼女は気がついた。
「あ! 私、これでお金がなくなっちゃった」
 間抜けな話だ。しかしそれを面白がった当の大道芸人が、
「じゃ、俺の手伝いをしろ。ハンバーガーくらい食わせてやる」
 というわけで、およそ一週間大道芸人のアシスタントをして食いつなぎ、その後無事に帰国できた。

 そんなことをやってる子が、帰国後慌てて就職活動に参加しても、うまくいくわけがない。結局、就職先が決まらないまま大学を卒業するハメになる(もう一度言うが、文学部演劇専攻なんてのをやってたら、そんなの予想される未来だとも思うのだが…)。
「ああ、明日からどうやって食べていけばいいのか…」
 彼女は途方に暮れた。そこへ、演劇仲間のツテで、
「ラジオ局でバイトしてる子がいるんだけど、舞台に立つ一ヶ月の間、ピンチヒッターを探してる」
 という話が舞い込んだ。
「私、やる!」
 再び、彼女とラジオとの距離が縮まった。

 

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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

藤井青銅著「ラジオにもほどがある」(小学館刊)
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