Apr 10, 2018

コラム

藤井青銅という作家に求められている『色』とは

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「ショートショートランド」は、掲載作はすべてショートショートのみというのが売りの小説誌だった。もちろん、多くは有名作家が書く。中に数作、コンテスト出身の新人が書く枠があった。
 だが、これは季刊。年に四回しか出ないのだ(のち、隔月刊になったが)。しかも、コンテストは毎年行われ、新人は毎年10人選ばれる。その全員がライバルなわけだから、優遇されているようで、実は狭き門なのだった。
 だから、編集者から、
「藤井さん、一作書いてください」
 と注文があって書くわけではない。勝手に書いて、
「こんなの書いてみたんですが、読んでもらえますか?」
 と原稿を持っていく。いちおうすでに面識があるとはいえ、要するに持ち込みだ。

 まだ「海の物とも山の物ともわからない駆け出し」が、天下の講談社編集部に、そんなこと、とても一人ではできない。ぼくたちは同期の入賞者数人で「書けた?」「まだ書けない」「書けたら一緒に持っていこう」と声をかけあい、勇気を出して代表者が連絡し、恐る恐る持っていった。
 みんなすでに二十代前半ではあったが、このビビりようはどうだ。ナサケナイ…。

 そうやって何度か原稿を持ち込んではみたが、ぼくの作品は毎度ボツだった。
(う~ん、どうすれば採用されるんだろう?)
 とやや落ち込み、悩んだ。落ち込みが「やや」で済んでいるのは、並行して書いている「夜のドラマハウス」の脚本の方はコンスタントに採用されていたからだ。そっちは、ぼくの好きなコメディ色が強い。なので、
(ぼくの特徴である「笑い」を前面に出した方がいいのかもしれない)
 と思い、そういうショートショートを書き、ようやく掲載された。
(ああ、なるほど。編集者は、藤井青銅という作家にそういう「色」を求めているのか)
 と、その時はじめて気がついた。それは、良い言い方で「個性」「作風」であり、悪い言い方で「レッテル貼り」なのだろう。
 以来ぼくは「藤井青銅っぽい」ショートショートを書き、何本か採用された。

 その後…。
 例によってぼくたち新人が星新一さんを囲んでの食事会だったと思う。雑談の中で、
「藤井さんの作品で一番いいのは、『偏心』ですよ」
 と言われて、ビックリした。
 まず、何年か前の作品を星さんが読んで、憶えていたというのに驚いた。それよりもなによりも、ぼくの作風は「笑い」であるという評価がされている中で、まったくその要素がない作品を挙げたのに驚いたのだ。
 ぼくが怪訝そうな表情をしているのを見てだろう、星さんは付け加えた。
「藤井さんはご存知ないかもしれませんが、あれは****と同じテーマで…」

 不勉強なぼくは、まさにそれを「ご存知ない」ので、星さんが言ってる言葉が作家名なのか作品名なのかも、わからない。聞き慣れないカタカナだったので、おそらく海外の作品なのだろう…と思っただけだ。
 しかし、「それはなんですか?」と聞くのは自分の無知を晒すようで、恥ずかしかった。なのでその場は、そのまま流してしまった。

 その後、星さんは亡くなってしまったので、今もぼくの中では謎のままだ。ああ、あの時すぐに聞いておけばよかった。

 

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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

藤井青銅著「ラジオにもほどがある」(小学館刊)
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