普通、タレントさんと番組スタッフが一緒の食事会で、それが鍋料理やお好み焼きなどの場合、「料理を作る作業」はスタッフが行う。当たり前だ。ところが、オードリーのオールナイトニッポンの場合は、お好み焼き・もんじゃ焼きを、オードリーの二人が作るのだ。ぼくたちスタッフはな~んにもしない。ただ、作ってもらって、一緒に食べるだけ。
「失礼じゃないか」
と言われれば、そうだ。間違いなく、タレントさんに失礼だ。
(でも、二人は結構楽しんで鉄板をカチャカチャやってるから、いいんじゃないの?)
というのがみんなの意見。ついでに言えば、
(だって作るの面倒だし)
というぼく個人の意見もある。
十数人の参加者に、二つの鉄板を囲む。当然、若林さんがコテを持つ「若林鉄板」と、春日さんがコテを持つ「春日鉄板」になる。ぼくは若林鉄板にいた。彼が手際よく作るもんじゃ焼きを眺め、それを食べ、
(うまい!)
と思った。ぼくは東京生まれではないので、実はこれまで、もんじゃ焼きを特においしいと思ったことはない。ところが、これがうまかったのだ。生まれて初めて、もんじゃ焼きをおいしいと思った。
*
そして翌年。また、同じ店での新年会。ぼくは再び、若林鉄板グループに入った。そして彼が作った、もんじゃ焼きを食べた。
(うまい!)
これが去年だけなら、たまたま、ということもある。が、二年連続でうまいというのは、間違いなくおいしいわけだ。
*
さらに翌年。またもや同じ店での新年会。やっぱり若林さんが作るもんじゃ焼きはうまい。とはいえ、そもそもこの店がうまいのかもしれない。試しに、隣の鉄板で春日さんが作るもんじゃ焼きを食べてみた。…これが、普通の味なのだ。明らかに、若林鉄板での味と違う。ということは、料理人の腕の違いだ。そう思って、気をつけて見ていると、若林さんはソースを入れるタイミングがちょっと違っている。
しかしぼくだけの味覚かもしれないと思い、他の人にも食べ比べてもらった。すると、
「あ、若林鉄板の方がおいしい!」
という感想だった(春日さんには申し訳ないが)。
*
以上の経緯を若林さんに説明し、
「ぼくがこれまでうまいと思ったもんじゃ焼は、若林さんが作ったものだけ」
と言った。これはヨイショでも、オベンチャラでもない。
若林さんは東京・築地生まれ(実際は築地の隣り町あたりらしいが、そう言っても全国の人はわからないので「築地生まれ」と言うことにしている)。
「ガキの頃からもんじゃを食ってたから、褒められると嬉しい」
と素直に喜んでくれた。
なのでぼくは、「もんじゃのマサ」(若林正恭だから)と呼ぶことにしている。本人も、まんざらでない様子だ。
*
以来ぼくの中で、オードリー・若林という人は、
《もんじゃとトークがうまい人》
という認識だ。両者になにか関連性があるのだろうか?
そこらへんの秘密が解明されると、フリートークの技術に四苦八苦している若手お笑い芸人たちは、いっせいにもんじゃ焼のテクを磨き始めるかもしれない。
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