Dec 05, 2017

コラム

番組を海外で聞いているという謎のメールを追った

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 森山良子さんの「オールナイトニッポン・ミュージック10」という番組。ぼくはそれを担当している。そこへある時、《イタリアで聞いてます》という謎のメールが来たのだ。いくらネットの時代とはいえ、日本のラジオをイタリアで聞くってどういうことだ? radikoのエリアフリーでも、さすがに海外は対応していない。
 面白いので紹介したあと、「いったいどうやってイタリアで聞いているのか、教えて!」と、良子さんは言った。
 すると数週間後、当のXさん(女性)から、返事のメールが来たのだ。その内容は、だいたいこういうことだった。

《私の実家は東京にあり、両親もいます。年に何回か日本に帰ります。日本にいる時は、普通にラジオで番組を聞いています》

 それは理解できる。ごく普通の聞き方だ。
 ここからぼくが予想したのは、次の方法だ。Xさんがイタリアに帰ったあとは、東京のご両親がラジオを聞いて録音。それを音声ファイルにして、ネットでXさんに送る。昔でいうなら「エアチェックしたカセットテープを回し聞きする」という、あのスタイルと同じだ。多少時間差はできるが、これなら毎週聞くことができる。私的に楽しむ範囲なので、問題もない。
 しかし、Xさんのご両親の年齢を考えると、はたしてそういうスキルがあるだろうか?…という疑問もあった。それに、作業としてめんどくさいし。

《イタリアにいる間は、時々、両親とSkypeでつないで会話しています》

 Skypeは、利用している方もいるだろう。PCを使っての、無料テレビ電話みたいなものだ。海外の友人、親戚とこれでコミュニケーションをとっている方も多い。
「では、radikoの音声をSkypeにつないで? そういう連携ができるのか? それに、これだと、なんとなく法的な問題も発生しそうだぞ…」
 とぼくは考えたのだが、Xさんのメールは予想もしない内容だった。

《Skypeで東京のお茶の間とイタリアをつないで、だらだらと世間話をしています。父はテレビでナイターを見ながら。Skypeの画面の中にリビングのテレビも映るので、たまにこっちから見て「あ、ホームラン打ったねえ」なんて話しかけたり》

 なるほど!
 日本とイタリアの時差は8時間(現地がサマータイムの時は7時間)。日本の夜8時は、イタリアでお昼12時(サマータイムの時は午後1時)。日本の夜の団欒タイムとイタリアのお昼タイムをつないで、そこにワールドワイドなお茶の間が出現するのだ!
「ミュージック10」が始まる夜10時は、イタリアでは午後2時だ(サマータイムの時は3時)。

《東京でラジオをパソコンの近くに持ってきてもらって、こっちでも一緒に番組を聞きながら、両親と世間話をしてます。なんともアナログな方法で、ごめんなさい》

 なんということだ!
 パソコンのマイク越しに聞いているのか。もちろんこの方法だと音質はよくない。しかし、ラジオというものは音質以外の要素もある。かつて雑音まじりの電波の中でラジオを聞いたことがある方なら、わかるだろう。それに、法的な問題もない。

《私の一族はなぜか世界に広がっていて、甥と姪はアメリカ西海岸にいます。彼らはSkypeで東京のお祖母ちゃんから、そろばんを習っています》

 ぼくはちょっと感動してしまった。ITだインターネットだというと、なんだかデジタルでガチガチのイメージが強い。しかし、こういう使い方をすれば、世界だって多少でっかいリビングにすぎないわけで、人と人はアナログにつながることができる。
 ITって、こういうことのためにできたんじゃないか、と思った。
 リスナーは、色々なことを教えてくれる。

 

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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

藤井青銅著「ラジオにもほどがある」(小学館刊)
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