Feb 14, 2017

コラム12

藤村俊二さんが映画のソムリエをするラジオ番組「シネマ・メゾン」の最終回の話

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 オヒョイさん(藤村俊二さん)の「シネマ・メゾン」という番組は、毎回、古今の名作映画を紹介するコント仕立てになっていた。ぼくは台本を書くために、毎週その映画を事前に見ておかなくてはいけない。すでに見たことのある作品もある。タイトルと内容は有名だから見た気になっているけど、よく考えると見ていないという作品もある。
 いずれにせよ、ただ映画を見るのと、それを台本に生かすために見るのとでは、見方が全然違う。毎週1本その作業を行うのは大変だった。が、とても勉強になった。

 とはいえ、オヒョイさんと共演者は事前にその映画を見直しているわけではない。過去に見ている場合でも、おそらく細部は忘れている。そこで、番組収録前、ぼくが「今回とりあげる映画は、こんな内容です」と身振り手振りを交えながら説明するのだ。打ち合わせの数分間で、だいたいどんな映画かわかるよう超ダイジェストで。もうまるで、セコなマルセ太郎!
 オヒョイさんは毎回それを面白がってくれ、
「いやあ。藤井さん、よく毎週、映画の内容を細かく説明できますねえ」
 と褒めてくれた。これ、ちょっと自慢。いや、いっぱい自慢。

 オヒョイさん(藤村俊二さん)はダンサー出身なので、当然ミュージカル映画がお好きだった。ぼくも古いミュージカル映画が好きなので、そういう話もよくした。
「ミュージカル映画はカメラを引いて、ダンサーの全身を映すのが本当なのです」
 とか、
「あえて凄そうに見せないフレッド・アステアが好き」
 とか、
「『バンド・ワゴン』の有名なダンシング・イン・ザ・ダークのシーンは、わずか3カットで撮られてるんですね」
「最後の、馬車に誘導するシーンを除けば、実質2カットです」
 とか…。そのうちスタッフは、
「こんな楽しい話を、我々だけで聞いているのはもったいない。オヒョイさんのお話し付きで、みんなでミュージカル映画を見たら、どんなに楽しいだろう?」
 と思うようになり、最終回はそういうイベントにした。

 選んだ作品は、もちろんアステアの『バンド・ワゴン』。今どきレンタルビデオ屋にいけば、誰だって簡単に家庭で見られる作品だ。が、あえてそれを大きなスクリーンに映してみんなで見よう…と、ニッポン放送地下の大きなスタジオにお客さんをお招きした。映画会社も快く協力してくれた。
 当日は、ちょっとした名画座の雰囲気だった。しかも、映画の前後に、オヒョイさんが舞台に現れてお話をしてくれるんだから、これは贅沢な公開録音だった。

 こうして、「シネマ・メゾン」という番組は終わった。オヒョイさんらしく、品がよくてユーモアのある番組だったので、その後なんとか復活したい…と周囲は頑張ってくれた。だが、実現はしなかった。
 番組が終われば、オヒョイさんとは年賀状のやりとりをするだけの関係。ぼくとオヒョイさんとのつながりは、結局たったこれだけ。だから、名だたる先輩たちに混ざって思い出を語れる立場ではない。

 やがて、あのワイン・バーを閉めますという知らせが届いた。お仕事も、亡くなった滝口順平さんのあとを受けて「ぶらり途中下車の旅」のナレーションをつとめていたが、やがてそれも降板して、後任に引き継いだ。
 少しずつ、少しずつ、現場の第一線から身を引いていってるな…と、わかった。そして数年後の、今回の訃報。ぼくは、失礼ながら「お見事だ」と思った。
 周囲に迷惑をかけないよう、さりげなく、いつの間にか、舞台からすーっと退場している。その去り際は、まさにダンサーの美学であったなあ、と思う。

 

お知らせ

 

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(タイトル未定/新潮社より2017年3月末発売予定)

 

2015年7月~2016年6月(01大瀧詠一~96チェッカーズ)から厳選したコラムが掲載されます。
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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

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