Oct 13, 2016 news

その成りきりぶりは名人級?松山ケンイチ流の詰将棋

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コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第8回

『聖の青春』の完成披露試写会舞台挨拶が10月5日、丸の内ピカデリー1で行われた。舞台挨拶には、森義隆監督、出演の松山ケンイチ、東出昌大、竹下景子、安田顕が登壇した。

「この役ほど、スタート地点に立つまでに時間がかかったことはなかった」

『東の羽生 西の村山』と称され、天才・羽生善治のライバル関係にありながらも、病により29歳の若さでこの世を去った、伝説の棋士【村山聖】を演じた松山ケンイチはこう語る。

役作りとしてまず、体重を20kgも増やした松山だが、それだけではまだまだスタート地点に立つことができず、村山聖に成りきるためには、「内面を作り上げていくことで、村山聖以上に村山聖になれると思いました。病や死というものとの向き合い方が一番苦労しましたし、監督と一番話した部分でもあります」と、外見だけではなく内側も、言わば、将棋の攻め方のように縦から横から斜めから、あらゆる角度からアプローチすることで、初めて本当の役作りになるということを熟知している様子だった。

松山ケンイチと言えば、どんな役でもその役に成りきる、“憑依型”の俳優としても知られている。

将棋に例えるなら、[歩(歩兵)]のように一歩一歩突き進み、その役を己に植え付けていったり、あるいは、[飛(飛車)]や[角(角行)]のように一直線に自分を追い込み、その役を己に瞬時に重ね合わせる。そしてある時には、[桂(桂馬)]のようなトリッキーな動きを見せる役柄にも果敢に挑戦し、見事にそれに成りきっているのだ。

それは彼が演じてきた、『デスノート』の【L/竜崎】や、『デトロイト・メタル・シティ』の【根岸崇一/ヨハネ・クラウザー2世】、『珍遊記 〜太郎とゆかいな仲間たち〜』の【山田太郎】を見れば一目瞭然である。

また、羽生善治と村山聖のように、自身にとってのライバル的存在について聞かれた松山は、「ライバルは自分ですね。自分自身に勝つことができないと、村山聖という人間を演じることができないと思いましたし、そういう想いは今回が今までで一番強かったと思います」と、明かしていた。

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さらに撮影では、本人私物を借りて臨むことができたそうで、松山は「村山さんのネクタイをお借りしてやってました。対局シーンとかで実際に使っています。村山さんは割と個性的な付け方をしているというか、そういう着こなしをすることで、どこか“村山聖像”をご自身で作られていたような気がします。可愛くもあり、ユーモラスでもあり、それが村山さん自身の青春の一部だったんだろうなぁと考えさせられました」と、村山さんの想いを汲み取ると、ライバル【羽生善治】を演じた東出昌大も「羽生さんが7冠を獲った時に掛けていらっしゃった眼鏡をお借りしました。嘘ではない、本物の力をお借りできたことは、演じる上でとても力になりました」と、振り返っていた。

なお、スペシャルゲストとして、壇上に佐藤天彦名人が登場すると、松山は「村山聖としてお会いしていたら、また違った感じがしたかもしれません。あわよくば、名人と盤を挟んで向き合ってみたいです」と希望。「機会があれば、是非」と、返答していた佐藤名人の姿もあった。

この日は、体重もすっかり元に戻って、スッキリした表情を見せていた松山。昨年の東京国際映画祭で、恩師・森田芳光監督に捧げるオマージュ的作品『の・ようなもの のようなもの』の舞台挨拶に登壇した時は、デップリと肥えていた。どうしたんだろう? と思っていたら、この作品のための役作りであったわけだ。

毎回、変貌を遂げる松山の姿を見るたびに、次は何の作品をやるんだろう? と、期待に胸が膨らむ今日この頃である。

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映画『聖の青春』(KADOKAWA配給)

天才棋士・羽生善治ら同世代のライバルたちと死闘を繰り広げ、29歳の若さで亡くなった、伝説の棋士・村山聖の壮絶な生涯を描いた作品。

監督:森義隆 脚本:向井康介 出演:松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、柄本時生、北見敏之、筒井道隆、安田顕、竹下景子、リリー・フランキー ほか

http://satoshi-movie.jp/

佐々木誠

「日刊 情報プレス」編集者 (有)情報プレス社が発行する「日刊 情報プレス」は、映画業界のニュースやイベント、興行成績、劇場公開情報など、映画に関する様々な情報を掲載。また、Facebookページでは、【情報プレスα】(www.facebook.com/joho.press.jp)として、映画の舞台挨拶やイベントの模様を面白可笑しく掲載中。日々アップしている。