Dec 27, 2016

コラム

この音楽がなければリブート版も生まれなかった!? 幽霊退治映画を成功に導いた80年代喜劇音楽の宝石

この音楽がなければリブート版も生まれなかった!?
幽霊退治映画を成功に導いた80年代喜劇音楽の宝石

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何かと80年代が回顧される昨今である。
 企画不足の結果か、懐古趣味によるものか。映画界においては当時の名作、話題作がリメイク/リブートの対象となり、新たな資源再利用、再開発に業界も余念がない。もちろん、そのすべてが成功を収めているわけではないが、原点となる作品に改めての注視がかなうことが明るい動向のひとつではあるだろう。

ダン・エイクロイド(1952年生まれ)が発案し、アイヴァン・ライトマン(1946年生まれ)が現場指揮を執った『ゴーストバスターズ』(1984)は公開当時、製作元のコロンビア映画社に新たな興行記録を刻んだだけでなく、現在では80年代で最も成功した喜劇映画の一本に数えられている。レイ・パーカー・Jr.(1954年生まれ)が手がけた同名歌曲は、チェヴィー・チェイス(1943年生まれ)、ジョン・キャンディ(1950-1994)、ピーター・フォーク(1927-2011)ら、映画本編に関係ない俳優や著名人を配したミュージック・ビデオも繰り出してヒットチャートに君臨、キャンペーン・ソングとして劇場公開前から映画の興行を華々しく牽引したわけだが、そんな有名ポップソングの成功ばかりに目を向けていては本作品の真の音楽的醍醐味を見逃すことになるのではないか。

 

Elmer Bernstein ‎– Ghostbusters (Original Motion Picture Score) 2006年にVarèse Sarabandeより3000枚限定でリリースされた限定スコア盤。現在は廃盤となっている。

Elmer Bernstein ‎– Ghostbusters (Original Motion Picture Score)
2006年にVarèse Sarabandeより3000枚限定でリリースされた限定スコア盤。現在は廃盤となっている。

 

シンプルでキュートな
ゴーストバスターズのテーマ

 監督兼プロデューサーのアイヴァン・ライトマンが製作の極めて早い段階で参加を求めたスタッフのひとりが音楽担当のエルマー・バーンスティン(1922-2004)である。主役級俳優がブッキングされる以前のことだったという。そもそも1983年5月、翌年6月公開の条件のもとでプロダクションが急に始まった同作品は、未完成の脚本をダン・エイクロイドとハロルド・レイミス(1944-2014)が3週間で磨き、10月初頭のクランクインに間に合わせるなど、すべてが駆け足の進行であり、準備に追われていたとはいえ意中の作曲家を放っておくことは危険だったのだろう。もっとも、ライトマンにとってバーンスティンは既にビル・マーレイ(1950年生まれ)、レイミスと生み出してきた「お笑い企画」における音楽面の常連であった。その協力関係はライトマンがプロデューサー補を務めた『アニマル・ハウス』(1978/ジョン・ランディス監督)に端を発している。同作品でバーンスティンの仕事を認めたライトマンは、自身の映画監督デビュー作『ミートボール』(1979)に作曲者を求めた。作曲料も満足に出ない低予算の仕事だったが、バーンスティンはライトマンに将来性を感じて依頼を快諾。これが信頼につながったのだろう。続く監督第2作『パラダイス・アーミー』(1981)、プロデュース作品の『ヘビー・メタル』(1981)と『スペースハンター』(1983)、そして監督第3作『ゴーストバスターズ』と、音楽担当枠におけるライトマンの選択肢は回を重ねるごとにひとつになっていった。

 バーンスティンが最初に取りかかったのは、まさに『ゴーストバスターズ』の主題曲、具体的には幽霊退治を商売にした科学者トリオのための楽曲創作だった。公開当時の作曲者の言葉を引用するなら、映画そのものについて「非常に独創的で、誰も観たことがないような作品」とし、作曲に対しては「正しい音を見つけることにおいて、最も難しい仕事のひとつだった」、さらに「3人のテーマをどうするかが大変だった」。結果として「どこかおどけていて、キュートな音楽を書いた」との言葉に正しく、わずか4音で観る者の耳をつかむ明快な旋律線(譜例①)を前面に打ち出している。喜劇色という面では、ピアノによる伴奏部分の音階(譜例②)がジャズ的なリズムの中に適度な補佐役を務めているだろうか。もちろん、そこには十分に旋律的な音の動きが有されており、譜例①の主題旋律共々、補佐役に終わることはなく、もうひとつのバスターズの主導モチーフとして状況に応じて場面の節々に活用されている。非常にクラシカルな手際に裏打ちされた匠の技といっていい。1950年代から映画音楽に手を染めているベテランは、その場限りの楽曲の消費などの愚は犯さない。もちろん「毎日、ライトマンと電話で相談していた」と語るほど苦労して生み出した主題曲だけに思い入れも強くあったろうが、一方でその主題曲が創作の混乱から遠く、恐ろしいほどの簡潔さに輝いていること、並びに言葉以上にチャーミングな響きとなっている部分は特筆してよく、作品の鑑賞に回数を重ねた人間ほど、その至芸がいよいよ耳に迫ってくることだろう。

 

譜例① ゴーストバスターズのテーマ

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譜例② ゴーストバスターズのテーマ(ピアノ伴奏フレーズ)

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 ベテランならではの味わいという部分では、シガーニー・ウィーヴァー(1949年生まれ)演じるデイナの主題曲の魅力を挙げてもいい。優美かつロマンティックな旋律(譜例③)であり、それだけで十分に耳を引きつけられるのだが、バーンスティンがアルバム用にまとめた楽曲においては第2主題というべきか、発展部というべきか、もしくは接続部というべきか、さらに長いスパンで書かれた旋律(譜例④)が刻まれており、これなどはハリウッド黄金期に歴々の作曲家が当たり前のように、しかし限りなく目を行き届かせた筆致で仕立て上げた往年の旋律群を偲ばせてやまない。換言するなら、バーンスティンという作曲家がいかに往事の記憶を受け継ぐ作曲家であったかということの証であり、現代の作曲家がなかなか書くことができない、いや、書けたとしてもそれを披露する場を得ることができない響きであるとしていいだろう。ある種の郷愁と悔恨がにじんで、単なるヒロインの主題、もしくは愛の主題として片付けることが難しい。

 

譜例③ デイナのテーマ 1

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譜例④ デイナのテーマ 2

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賀来タクト

賀来タクト(かく・たくと) 映画&音楽関連文筆家。1966年生まれ。愛知県出身。雑誌記者・編集を経て現職。編集担当書籍に『映画道楽』(ぴあ刊)、『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)など。企画協力・監修ムックに『オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇』(キネマ旬報社刊)。執筆参加書籍に『映画音楽 200CD スコア・サントラを聴く』(立風書房刊)、『映画×音楽 セッション・レポート103』(音楽之友社刊)など。第66回(2011年度)より、毎日映画コンクール《スタッフ部門》の2次選考委員を担当。2015年9月27日開催の岡山シンフォニーホール主催・岡山フィルハーモニック管弦楽団演奏による映画音楽公演『We Love 映画音楽』では、企画・演目構成・ナビゲーターを担当。1998、2000年にはハリウッド映画音楽の巨人ジェリー・ゴールドスミスの来日コンサート(神奈川フィルハーモニー管弦楽団主催)に企画協力。現在、『キネマ旬報』誌にてコラム「映画音楽を聴かない日なんてない」を連載中。