Nov 09, 2016 interview

第6回:ラストショットを予告編に使わなければ、いい宣伝が出来ないのか?!

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池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」

Season11  vol.06 東京国際映画祭・事務局次長 井原敦哉 氏

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映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「新・映画は愛よ!!」 第6回は、さまざまな映画宣伝の現場で、斬新なマーケティングを展開してきた井原さんの仕事についてお話を伺っていきます。

→前回までのコラムはこちら

池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)

わたしがアスミック・エースでご一緒させてもらった最初の仕事は、『偶然の恋人』かな? 宣伝部長だった竹内さんと一緒に打ち合わせ。

そして次は『ショコラ』ですね。これはヒットしましたね。 ジュリエット・ビノシュ、ジョニー・デップ主演で、なんか色っぽかった。

井原敦哉 (以下、井原)

たぶん、そのあたりから邦画も入ってきますよね。

僕は、もう、山っ気のある作品ばかりの担当で(笑) 『ピンポン』とか『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』とか。

池ノ辺

このあたりから、邦画の宣伝が変わってきた感じですよね。 2002年の『ピンポン』を境に、若者たちにウケるような宣伝の形式になってきた。

井原

そうかもしれません。映画をつくるところから音楽を入れ始めて、宣伝まで組み立てたりとか。ちょうど邦楽もかっこよくなってきた時期でした。

音楽で言うと、当時はピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターが創ってきた渋谷系と言われる音楽の土台にまた新たなミュージックシーンが出てきて、音的にも面白い時代でした。

『ピンポン』の頃はSUPERCARがメインで電気グルーから石野卓球さんや脱退した砂原良徳さん。

BOOM BOOM SATELLITESやSUGAR PALANTなど海外で通用するような日本のミュージシャンが出てきた。

音楽をしっかりとやることによって映画も売れるという図式が出来始めていたんです。

サントラがものすごくよかった時代ですし、映像と音楽のフィッティングが面白くなってきた時期ですよね。

今、時代がグルッと一周したのかなという感じはしますね。 『君の名は。』のRADWIMPSの使い方とか『何者』の中田ヤスタカfeat米津玄師とか。

池ノ辺

そういう意味では、『ピンポン』を境に、『木更津キャッツアイ』シリーズなんかが新しい時代を築いていったわよね。

井原さんが「いまから木更津に行くんだ」っておっしゃっていたの、覚えてますよ! 記者会見だと思うんだけど、なんで木更津なんだ?って不思議だった。

井原

そうでしたね(笑)。相変わらず人がやらない事をやっていました。 木更津で記者会見は大型バスの手配など大変でしたが、映画の特長をつかむにはうってつけでしたね。

池ノ辺

もう少しアスミック・エース時代のお話をさせて。『博士の愛した数式』は、井原さんが宣伝プロデューサーでしたよね。

これはもう予告編を作っている段階で、「これはいくな」っていう手ごたえがあったんですよ。作品と宣伝の骨子がマッチしていた。

井原

その頃から、宣伝プロデューサーとしては、自分なりの方程式が作れるようになってきていたと思います。この作品はどこをどう売らないといけないって早い段階からわかっていたと思う。

でも、わかっていないときは、「池ノ辺さん、よろしくお願いします」ボーンって、丸投げしていたこともあったかも。

池ノ辺

そういう時は何がポイントなのかわからなくなって、ぐじゃぐじゃになっていくのよね(笑)。

この作品、すごく印象に残っているのは、予告編の依頼があった時、小松と池ノ辺の社内競合のコンペ方式だったの。今思うと、よくやったと思う。

でも私は作っている最中に、これは小松に勝てるな!思ったの。というのは、すごく好きな映画だったし、このショット持ってくるのは私しかできないでしょ(笑)と思って編集してた。

で、結局私の作った予告編が勝って、その後、いろんなタイプの予告編を作ったわ。

覚えてます? 最終的に監督に予告編を見せにいったじゃないですか。アプルーバルを取りに。

その時に「どうしてラストカットを(予告編に)持ってくるんだ」って言われたことは忘れられないわね。ラストシーンの海辺を見ている男の子の背番号がすごくいい映像だったから、それを予告編の中でイメージショットとして使ったのよね。

井原さんは監督に、予告編はあくまでも広告だから、と言い張ったんだけど、監督から「それは違うだろう。君たちは、ラストショットを予告編に使わなければ、いい宣伝が出来ないのか?!それはお客さんに失礼だろう!」と言われて、すごくショックだった。

でも、ものすごく納得した。

予告編はわかりやすくするために、何でも映像を詰め込めばいいっていうもんじゃないんだってね。

それで「わかりました」と言って外したんだけど、でも最近の予告編は、あの傾向になってきているのよね、『シン・ゴジラ』もしかり。

それまでの予告編って、どんな作品なのかをダイジェストで見せるというか、あらすじを丁寧に教えてあげるという傾向で、それがいい予告編だと思ってた。

どうも時代は変わってきているわよね。

井原

そうなんです。いい意味で山っ気宣伝みたいなの、戻ってきましたよね。

『何者』とかも、わかってるなあって思う。予告編の観客への置き方というものを知っている。

心地よくスリルを感じながらも僕たちの映画だ! とある一定の層に感じさせるものがある。だからこそ映画が気になるし、映像もかっこいい。

あそこでああいう音楽使うんだ、とかね。今回はテロップの入れ方が一番秀逸です。

池ノ辺

『君の名は。』だって、予告編を観ただけじゃ、あんな壮大な話だとわからないし、『SCOOP!』は本編を観て、「ええっ、こんなストーリーだったの?!」ってびっくりして、これすごいラブストーリーじゃない?って、涙が溢れてきたわ。

予告編が、いい意味で本編を裏切っているもの。

本編を見てすごく面白いと得したと思っちゃう。

ほんとはそういうものだけどね。

井原

ほんと、いい意味で変わってきましたよね。

『博士の愛した数式』では、最後に桜並木の下を歩くカットをポスターに使いましたね。

予告編もそこで終わったんですよ。これはすばらしいことだと思っていて、予告編の最後のカットとポスターのカットが同じっていうのは、すごくいいなぁと。

なかなかできないことなんだけどね、役者行政などいろいろな縛りがあって。

だから、みんな似たようなポスターになっちゃうのがすごく残念に見えてしまうこともありますね。

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池ノ辺

その後、2004年の『ホテルビーナス』や『真夜中の弥次さん喜多さん』あたりくらいから、ジャニーズの役者さんの作品を扱うようになって、とっても忙しい時期を過ごされたわけですが(笑)。

結果、井原さんはジャニーズに気に入ってもらったという……。

井原

いえいえ、気に入られたのかどうかはわかりませんが、いつも厳しくも優しくご指導いただきました。

『木更津キャッツアイ』シリーズ、その後は『ハチミツとクローバー』もやりましたし、先に挙げた『ホテルビーナス』や『真夜中の弥次さん喜多さん』。

『鉄筋コンクリート』の声は嵐の二ノ宮君です。

池ノ辺

『ホテルビーナス』は、草彅君が主演よね。

井原

香取君も出てきますよ。良いタイミングで。

……ただこのあたりの頃は、ジャニーズさんというより、宮藤官九郎さんの時代と言った方がいいのかもしれません。

池ノ辺

つまり、クドカンを作っていったのが、アスミック・エースさんということなのかしら?

井原

一番最初が東映さんの『GO』、次が『ピンポン』と『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』の脚本を書いて、その後アスミック・エースで初の映画監督作品になる『真夜中の弥次さん喜多さん』を撮るんです。

しかもこの作品で、新藤兼人賞を受賞しています。

池ノ辺

クドカンには間違いなく、時代の変わり目を感じたわ。

井原

そうですね、勢いがありました。

池ノ辺

私はその後、 『明日への遺言』の予告編を作ることになります。この頃は井原さんはもうアスミック・エースにはいなくて、井原さんのアシスタントだった廣村さんが宣プロで活躍していて、ご一緒することになります。

そして、もう一度、小泉堯史監督の作品をやるわけです。

廣村さんから、裁判所のシーンなど、普通は全部CGで背景を作るけど、全部セットを組んで撮影しているので、こういう風に監督が全部丁寧に撮影する映画ってもうなくなるから、撮影現場に行きましょうって、スタジオに連れてってくれたの。

井原

小泉監督は黒澤組ですから、そうですよね。

フィルム撮影だから、モニタ-チェックもできない。だから逆に一発勝負の空気が現場に漲ってて撮影の進みが早いんです。

池ノ辺

とてもいい経験でした。

そして、井原さんはアスミック・エースから、角川エンタテインメントへ移っていったんです。

次回はその話です。

(文:otoCoto編集部、写真:岡本英理)


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第29回 東京国際映画祭

日本の映画産業、文化振興に大きく寄与してきた映画祭で、国際映画製作者連盟公認としては日本唯一の国際映画祭。今年は日本映画の特集上映では、アニメーション作品『バケモノの子』を監督した細田守の特集や、黒木華主演の最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』で日本映画として約12年ぶりに実写長編映画を手がけた岩井俊二監督の特集企画が決定。

11月3日(木)映画祭会期終了 会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほか。

http://2016.tiff-jp.net/ja/

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PROFILE

■ 井原 敦哉(いはら あつや) 公益財団法人 ユニジャパン 東京国際映画祭 事務局次長

1968年、長崎県生まれ。1993年に明治大学を卒業後、株式会社ギャガ・コミュニケーションズに入社。パブリシティ、宣伝プロデューサー業務に従事。99年にアスミック・エース エンタテインメント株式会社に移籍、宣伝部長を務める。2007年に株式会社角川エンタテインメントに転籍し、宣伝部長として、ハリウッドのドリームワークス作品を手がける。10年に角川映画の宣伝部長、11年角川書店と合併し、映画営業局局次長兼映画宣伝部長に。12年公益財団法人ユニジャパンに出向、東京国際映画祭事務局次長に就任、現在至る。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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