Dec 01, 2016 interview

“春子の傷と、私の傷がリンクする瞬間がたくさんあったんです” 映画『アズミ・ハルコは行方不明』蒼井優インタビュー

A A
SHARE
sakuhin_main

山内マリコの同名小説を原作に、若干31歳ながら数々の話題作を手掛けてきた松居大悟監督が映画化した『アズミ・ハルコは行方不明』。行方不明の主人公役を務めた蒼井優に、映画の話はもちろん、“安曇春子”がもがき、歩み続けた20代を乗り切るコツまでたっぷりと話を聞いてきた。

 

私たちはまだ失敗してもいいし、守りに入る年齢ではないと思ったんです。

 

──脚本を読んで、どんな所に面白さを感じましたか?

まず、映画の仕上がりが全く予想できないところにワクワクしました。さらに、どう転んでもエネルギーの塊のような、実験的でドキドキする作品になると感じたんです。

──今作の監督とプロデューサー、そして蒼井さんは同じ年齢なんですよね。

そうなんです。だからこそ、私たちはまだまだ実験して失敗してもいいし、どんな結果がでようとも、守りに入る年齢ではないということに気づいたんです。それなら、全力で攻めていきたいと思ったんですよね。

 

interview

 

──今作では、女性が共感するシーンが多々あると思うのですが、蒼井さん自身はどんな所に共感しましたか?

まず、この映画の原作を読んだ時に、“なんで私のスネの傷を知っているの?”と思ったんです(笑)。もちろん、私が演じた安曇春子と同じ体験をしているわけではないですが、春子のズキズキしている傷が、自分の傷とリンクするシーンがたくさんあったんですよね。観ている方たちにも、そう感じてもらえたらいいなと思いながら演じていました。

 

原作にはない、日常をリセットする恐怖のシーンは、絶対に必要だった

 

──原作にはない、春子が失踪するきっかけとなったシーンは、心の傷をグリグリと抉られるようでした。

私もそう思いました(笑)。あのシーンは台本を読んだ時点で、すごく難しいシーンだと思ったんです。でも、難しいシーンだからこそ、入れる意味があるなと感じていて。演じているときは一生懸命に没頭しているからこそ、分からなかったんですが、客観的に仕上がったシーンを見て、これは絶対に必要なシーンだと思ったんです。原作ではさらりとしか触れられていなかったのに、映画では春子の日常がいきなりリセットされる恐怖感が、絶妙に描かれていて、一気に引き込まれました。

 

sub-1

 

──監督にはどのように演じて下さいと言われたんですか?

とにかくカッコ悪く演じてと言われました。情けないほどカッコ悪く演じてとも言われたので、必死でしたね。このシーンは、相手を引き止めたくて春子のなかに確証がないまま言葉がどんどんでているから、どうしても相手にも響かないという残酷なものだったんです。自分の気持ちを全部ぶつけるわけでもなく、言い訳の様に告白をしているから、言葉にすればするほど苦しくなるんですよね。演じていてすごく辛くもありましたが、春子の失踪につながる大事なシーンになったのは間違いないと思ったんです。

──春子に自分を重ねることはありましたか?

演じていて違和感はあまりなかったですね。春子は地方出身で、平凡でいて、どこか鬱屈としていているんです。私も女優という特別に思われるような仕事をしていますが、煌びやかな生活をしている役もないので、つねに一般的な価値観の生活を送ることを心がけていて。プライベートでの友だちもOLさんや保育士さんなどのお仕事をしている子が多いんですが、その子たちの方が、人生を謳歌しているように見えて、まぶしく映るんですよ。それに、私自身、派手なタイプではないので、春子と自然とリンクする部分は多かったのかもしれないです。

 

sub-2

 

20代は思い切りグズグズ悩んだ方がいい

 

──春子は28歳で失踪し、新たな人生を歩み始めますが、蒼井さんも20代の頃にもリセットしたいと思うような感情と対峙することはありましたか?

20代って、第二思春期がやってくるんですよ。そこでどう乗り越えるかで悩んだり、グズグズするくらいの方が、気持ちがいいんですよね。

──第二思春期?

はい。20代前半の頃は、17歳くらいの勢いのまま、転びそうになっても進めていたんですけど、30歳という線が見えたとたん、一気に立ち止まってしまい、前にも後ろにも行けなくなる現象に襲われるんです。それは、20代後半になって、先輩と呼ばれることが増えるからこそおきる現象だと思っていて。先輩と呼ぶ相手は、ただ年齢が上だから呼ぶだけで、何か教えてもらおうなんて思ってもいないのに、言われた方は「先輩なのに何もしてあげられない」「胸を張って教えられることが何ひとつない」って頭を抱えてしまうんです。私はそれを第二思春期と呼んでいて(笑)。その現象を気にしないで前に進むより、とことんこじらせて、「私には何ができるだろう」「私とはなんだろう」と考え抜くことに楽しさが芽生えてくるんですよね。そこで、「あぁ、こじらせるってこういうことか」って気づいたんです。

 

sub-3

 

──蒼井さんも20代に、その第二思春期をこじらせたんですね。

はい(笑)。でも、悩みながら進み始めたら、30歳になった途端に一気に背中を押される感覚を覚えたんです。その瞬間、「こんなにも人生って楽しいのか!」って思ったんですよね。20代は、サイズが合わない服を着ている感じがあったんですが、その違和感が、30歳になってすんなり取れたんです。

──すごく楽になったんですね。

なりましたね。それに、もともと子供の頃から、自分の魅力は40歳からって思っていたんですよ(笑)。今は、その40歳、50歳になるのが楽しみで仕方がないんです。きっと、いま20代でグズグズしている人っていっぱいいると思うんです。でも、そのグズグズを楽しむのもすごくいいことだと思いますよ。だって、それは生まれてきたからこそ味わえるものなんですから。「私、生きてる!」って思いながらグズグズすればいいと思います(笑)。

 

kijinaka-2

 

寂しいという言葉は、退屈に置き換えると、見える景色が変わるんです

 

──蒼井さんが20代の“第二思春期”を終えて、わかったことはどんなことでしたか?

言葉の力です。私は悩んでいる女友達にいつも言う言葉があるんです。それは“寂しい”という言葉を自分に使ってはダメだということ。寂しいというと、自分が一瞬で悲劇のヒロインになり、自分の非を認められなくなりますが、寂しいと思ったらその言葉を“退屈”に置き換えるだけで、見える景色が変わってくるんです。

──たしかに、“退屈”になると、他になにか違うことをしようという気になりますね。

そうなんです。寂しいと退屈って、実はそんなに変わらないんです。寂しい時って、余計ないことばかりしちゃうんですよね。でも、退屈なだけだと思えば、すごく楽観的になるんですよ。考え方ひとつで全然違ってくるからこそ、言葉の転換はオススメですよ。

 

kijinaka-3

 

──ありがとうございました。では最後に、オススメのエンタメ作品を教えて下さい。

星野道夫さんの『旅をする木』です。この本は、私にとって地球のような本。地球の大きさや、人の温かさを教えてくれるんです。星野さんは、アラスカに住まれていた経験のある、動物の写真を撮りながら執筆もされている方なんです。この本を読んでから、いまこうして話している間も、アラスカの海ではクジラが宙返りをしたり、自分とは違う時間が流れていることを活字で教えてくれたんです。この視点を持てたのは私にとってとても大きなもの。いつも、悩んでいる友達にはこの本をプレゼントするようにしているほどなんです。思わず鳥肌が立つようなエピソードが満載なので、ぜひ読んでもらいたいですね。

 

main-1

 

取材・文/吉田可奈
撮影/吉井明

 

 

プロフィール

 

pro

蒼井優

1985年生まれ。福岡県出身。99年にミュージカル「アニー」のオーディションで1万人の中からポリー役に選ばれて舞台デビューした後、岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』(01)のヒロイン役で映画デビュー。『フラガール』(06)で日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞と新人俳優賞、ブルーリボン賞主演女優賞ほか多数の賞を受賞。

 

作品情報

 

in_mainvisual

『アズミ・ハルコは行方不明』

山内マリコの人気小説を映画化。突如、街中に拡散される女の顔のグラフィティアート。無差別で男たちを襲う女子高生ギャング集団。平凡だった安曇春子の失踪をきっかけに、交差する、ふたつのいたずら――。トリックのように描かれる時系列の異なる安住春子(蒼井優)の人生と、二十歳の木南愛菜(高畑充希)の人生が鮮やかに、そしてリアルに描かれ、共感せずにはいられない。さらに春子が失踪するきっかけとなる一人の男、曽我役としてミュージシャン・石崎ひゅーいが初めて演技に挑戦。驚くほど自然に、ミステリアスなダメ男を演じ、物語に色を添えている。プロデューサー、監督、主演女優が同じ年という奇跡のトライアングルが生んだ、フレッシュで型にはまらない、エネルギーに溢れた作品になっている。

監督:松居大悟
原作:山内マリコ「アズミ・ハルコは行方不明」(幻冬舎文庫)
出演:蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい
菊池亜希子 山田真歩 落合モトキ 芹那 花影香音 柳憂怜・国広富之 加瀬亮
脚本:瀬戸山美咲
音楽:環ROY
制作:丸山陽介
エグゼクティブプロデューサー:大田憲男 藤本款 伊藤久美子 小西啓介 本田晋一郎
プロデューサー:枝見洋子
主題歌:『消えない星』チャットモンチー(Ki/oon Records)
配給:ファントム・フィルム
12/3(土)より、新宿武蔵野館ほかロードショー
©2016『アズミ・ハルコは行方不明』製作委員会

公式サイト
http://azumiharuko.com/

 

Loading the player...

 

 

原作紹介

 

「アズミ・ハルコは行方不明」山内マリコ/幻冬舎

平凡に生きていただけなのに、ある男に再会してしまったために失踪した安住春子と、今をふらふらと生きる20才の愛菜、そして女子高生のギャング団という三世代の女たちの生き方をリアルに浮彫にした青春物語。映画では描かれなかった三者三様の心情に、より共感を覚える。誰もが抱えたことのある辛い傷をえぐり出すような感覚を味あわせながらも、最後には爽快な気持ちにさせてくれる一冊。

■電子書籍で購入する
Reader Storeはこちら
ブックパスはこちら

 

 

蒼井優さんのオススメ本

 

「旅をする木」星野道夫/文芸春秋

正確に季節がめぐるアラスカの大地と海。そこで作者が体験した人との温かさや、視野の広さを教えてくれるエッセイ集。常日頃気にせず、忙しく過ごしていた自分に落ち着きと優しさを気付かせるだけでなく、小さなことに悩んでいた自分に、ゆっくりと手を差し伸べてくれる一冊。立ち止まり、自分を見直してもいいということも教えてくれる。自分を見失いそうになっている人に程読んでもらいたい。