Jul 29, 2016 interview

松竹株式会社 映画宣伝部 宣伝企画室長 諸冨謙治 氏
第7回:映画は、人と人を繋ぐメディアだと思うんです。

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池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」

映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」 第7回は、いよいよ対談最後の回です。諸冨さんにとって「映画」とは?

→前回までのコラムはこちら

池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)

現在、夏休みの真っただ中ですけど、松竹さんは夏休み向けの映画も好調ですね。

7月16日に公開された『HiGH & LOW THE MOVIE』は公開2日間で約35万人の観客動員数、興行収入は約4億8000万円って、すごいスタートダッシュですね。

なおかつ、舞台挨拶に50人も登壇したんですか!?ず〜と出張と言ってたのはこの事だったのですね。

諸冨謙治 (以下、諸冨)

EXILEや三代目 J Soul BrothersなどLDH所属アーティストの方が総出演で、公開初日から3日目までの三連休では全国の劇場で合計200回の舞台挨拶を行ったんです。

池ノ辺

ひゃああ。200回!

諸冨

あとチラシ用に出演者総勢62名の特写をしました。

縦位置のB5チラシを観音開きにするタイプのチラシは、ハリウッド映画でも前例がありますけど、今回はなにしろ62人「全員主役」なので、B5縦位置4枚の幅では収まりきらない。

そこで印刷会社に無理を言って、B5チラシの横位置を開く形にしました。

印刷の限界に迫ったB5横長3枚半分のペナント風チラシですね。

これは映画業界でも初めてだと思います。

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池ノ辺

これは、デザイナーさん、大変だったですね〜。

諸冨

はい、撮影だけでも相当な日数を要しましたし、大変でした。

今後もシリーズ第2弾の『HiGH & LOW THE RED RAIN』が10月7日に公開になります。

池ノ辺

そして、8月の勝負作は、8月6日公開の大友啓史監督の『秘密 THE TOP SECRET』でしょう?生田斗真さんをはじめ、岡田将生さん、松坂桃李さん、吉川晃司さん、大森南朋さんと主演級の俳優が集まって、すごいキャストですね。

諸冨

『秘密』は大友監督にとって、2012年公開の『るろうに剣心 伝説の最期編』以来の作品になります。

脚本や準備にもかなり時間を費やし、撮影現場でも壮大なセットを建てるなど制作費もかけて、当代の実力派俳優をずらりと揃え、面白い作品に仕上がったと思います。

池ノ辺

大友監督は『プラチナデータ』でもSF的な世界観がユニークでしたけど、今度もいろいろ工夫とサプライズがあるんですか?

諸冨

設定が独創的なんです。

警察の捜査方法が現代よりも進んでいる時代設定で、「第九」と呼ばれる警視庁の特別捜査機関が、犯罪に遭った被害者の脳内に残る記憶をスキャンして、犯人を探し出すところから物語が進んでいきます。

脳をスキャンして再生される映像や、生田さんや岡田さんが演じる捜査官の主観映像など、様々な映像表現が満載で、見応えのあるエンタテインメントになっています。

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©2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

池ノ辺

もうひとつの目玉映画は、もう、待ってましたなんですけど、『超高速!参勤交代』の続編である『超高速!参勤交代 リターンズ』。

これね、映画館で予告編が流れたら、すでにそこで観客の人たちが大笑いしているのよ。びっくりだわ。

諸冨

おかげさまで、『超高速!参勤交代』は興行収入が15億円強までいきました。

僕もこの作品に関わって初めて知ったんですけど、「参勤交代」というのは、江戸に行くまでが「参勤」、藩に帰るのが「交代」なんです。

前回の1本目は、ようやく参勤して、色々な事件も解決したというところで終わったんですけど、今回は「交代」だから国元の藩に戻る。

しかも諸事情あって倍の速さで帰らなきゃいけない、しかも帰ろうと思ったら、お城が乗っ取られている! というお話です。

池ノ辺

もう、それを聞いただけで、波乱万丈な感じが伝わってきます。

来年公開の『一週間フレンズ。』は、うちの高木が予告編を手掛けてるんですが、すごく面白そう。

諸冨

来年の2月公開ですけど、7月下旬から第一弾の特報を流しています。

池ノ辺

うちの高木は映画を見て号泣したんだって。

諸冨

うちの会社でも若者からベテランまで、みんな号泣してます(笑)。

池ノ辺

山崎賢人くんと川口春奈さんの恋愛映画だから、10代向けの映画と思われがちだけど、人生を謳歌した人ほど、グっとくる内容なのよね。

諸冨

そうなんです。

実は僕もラッシュを見て、不覚にも泣いてしまって(笑)。

池ノ辺

やっぱり!で、若い宣伝マンとか、泣いている年配層を不思議そうに見ているという感じ?(笑)。

諸冨

そうなんです。

「諸冨さん、泣いたらしいじゃないですか」ってネタにされてます(笑)。

僕、普段は「去年のベストはもちろん『マッドマックス 怒りのデス・ロード』!」「すべての映画はアクション映画だ!」とか言ってるんですけどね。

『一週間フレンズ。』も、どんな感じに仕上がったかなーって軽い気持ちで試写室に行ったら、どんどん中味に引き込まれて、気付いたら涙が出ているという(笑)。

まだそんな涙が自分の中に残っていたかと、自分自身が一番ビックリしてます。

その予告編をバカ・ザ・バッカの高木さんにやっていただきます。

池ノ辺

はい、よろしくお願いいたします。

さて、長い時間をかけてお話を聞いてきましたが、これが最後の質問です。

諸冨さんにとって、「映画って何ですか?」。

諸冨

「人と人を繋ぐもの」ですかね。

僕自身は強力なクリエイティビティーがあったり、表立ってバンと表現するタイプじゃない。

でも、運良く映画と出会ったお陰で、いろいろな方と繋がって、その縁で今があるという実感があります。

池ノ辺

最初のキャリアで働いていた東銀座に、20年経ってまた戻るしね。

諸冨

そうなんです、これも不思議な繋がりで。

あと、長く映画の宣伝に関わってきましたが、同じことをやっているようでいて、携わる作品が増えていくたびに、螺旋階段みたいに少しづつ上へ、上へと歩んでいけているのかなと。

いまは管理職という立場で、宣プロを中心に皆のサポート役に徹していますが、映画そのものや映画業界の先達から受け取ったものの方がまだまだ多いですから、今いる松竹でもっと頑張ってヒット作も生み出して、業界全体に還元しつつ「さらに人と人を繋いでいかないといけないな」と思います。

もう一つ、映画はお客さんにとっても「人と人を繋ぐ」ものだと思うんです。

例えば自分はこういう映画が好きなんだと、初対面の人に何かのきっかけで話したとき共感してもらえると、一気にお互いの距離が縮まるじゃないですか。

池ノ辺

そうそう!意気投合して、いきなり、ご飯を食べに行って、延々と語り合ったりできる。

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諸冨

だから僕、デートムービーや、ファミリーピクチャーという言い方が好きなんです。

女子高生が青春の思い出作りとしてSNSにアップするために、友達みんなで劇場に来てくれるのも大歓迎です。

映画業界にいる人間は基本的にヘビーユーザーでどんな作品でも見ると思いますけれど、一般のお客さんにとって映画を見るきっかけは、なんでもいいと思います。

女の子がデートに誘われて「この作品、普段は苦手なタイプだけど、この人が見たいなら付き合おうかなー」と思ってみたら、以外とツボにはまって映画を見る視点が拡がることもあるじゃないですか。

劇場で映画を見るきっかけって、ひょんなことでいいんじゃないかなって。

池ノ辺

そうそう。

やっぱり、映画は映画館で見てほしい。

そして、本編の前の予告編も楽しんでほしい!

諸冨

「人と人を繋ぐ」という点ではライブやフェスに代表される音楽も素晴らしいものだし、思わず続きを知りたくなるような小説や漫画が持つストーリーの魅力も大きいですけれど、「物語を音と映像で伝える」映画を最高の環境で楽しむには、やっぱり「大人数で劇場で見る」という共有体験が一番だと思います。

一緒に見て、泣いたり、笑ったり、怖がったり、感動したり。同じ空間で、同じ時間を共有して、物語を一緒に体感できる。

いわば映画とは「人と人を繋ぐ接着剤」じゃないでしょうか。

池ノ辺

ほんとそのとおりです。

お付き合いありがとうございました。

(文・構成:金原由佳 / 写真:岡本英理)


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『超高速!参勤交代 リターンズ』 9/10(土)ロードショー

金なし、人なし、時間なし!おまけに帰る城もなし!? 行き(参勤)より、帰り(交代)はもっと超高速! さらなるピンチに今度はどう挑む!?

出演:佐々木蔵之介 深田恭子 伊原剛志 寺脇康文 上地雄輔 知念侑李(Hey!Say!JUMP) 柄本時生 六角精児 陣内孝則 西村雅彦 監督:本木克英

Ⓒ2016「超高速!参勤交代 リターンズ」製作委員会

http://www.cho-sankin.jp/

PROFILE

■ 諸冨謙治(もろとみけんじ) 松竹株式会社 映画宣伝部 宣伝企画室長

1971年東京出身。大学卒業後、広告代理店旭通信社(現・アサツーディ・ケイ)でプロモーションを担当した後、97年シネカノンに入社。制作進行から宣伝まで主に邦画での宣伝業務を担当。2004年に東芝エンタテインメント(現・博報堂DYミュージック&ピクチャーズ)に移籍し、洋画(米国・欧州・アジア)・邦画と幅広く作品を担当。その後、CJエンタテインメント・ジャパンでマーケティングチーム長を経て、12年に松竹に移籍し、13年より現職。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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